著者
藤田 裕子 来住野 健二 木山 厚 五十嵐 祐介 中山 恭秀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0659, 2012

【はじめに、目的】 Four Square Step Test(以下FSST)は2002年にDiteらによって考案された評価法であり、先行研究より信頼性と妥当性が検討され、臨床的なバランス評価に有用と示されている。また、健常者や脳卒中、骨関節疾患を対象とする疾患別のバランス評価としての有用性や、他の臨床的バランス評価との比較によりTimed"up and go"Test(以下TUG)と有意な相関関係が示されている。FSSTの臨床評価指標としての位置づけは他のバランス評価との比較が中心であり、実際にどのような要素が含まれていて、何を反映させている評価指標であるかは明らかにされていない。また、FSSTはテスト方法から前後左右への重心移動やまたぎ動作、後進歩行が必要と考えられ、その要素のひとつである足圧中心(以下COP)の移動が動作に反映しているのではないかと考える。しかし、パフォーマンス動作からバランスを評価できるとされているTUGやFunctional reach test(以下FRT)は、COPの軌跡や動揺を客観的に評価できる重心動揺計を用いた研究により、それぞれのテストがもつ特性や要素の検討がなされているが、FSSTの検討は見当たらない。そこで今回バランスを、静的バランス、支持基底面を変化させずにCOPを支持基底面に保持させる動的バランス、支持基底面を変化させることでCOPを支持基底面に保持する動的バランスの3つに分け、FSSTと関連性を比較することとした。それぞれのバランスの指標として、静的バランスの指標を、姿勢安定度評価指標(Index of postural stability:以下IPS)、支持基底面を変化させない動的バランスの指標をX方向とY方向の平均姿勢動揺速度(以下動揺速度)、支持基底面を変化させる動的バランスの指標を動的バランスの要素を含むTUGの3つとした。【方法】 対象は健常成人17名(男性9名、女性8名、平均年齢は27.5±4.1歳、平均身長166.2±8.1cm)であった。FSSTはDiteらによる方法を基に、TUGはPodsiodleらによる方法で測定し、練習のあと2回の計測を行い、それぞれの2回の平均値を採用した。また、重心動揺計の計測は裸足で行い、両足踵間距離は10cmとし、視線は2m先の指標を注視させ、上肢を体側に下垂させた。IPSを静的バランスの指標とし、安静立位保持の測定で得られた平均動揺速度(cm/s)を、支持基底面を変化させない動的バランスの指標とした。重心動揺計はアニマ社製GS-3000を使用しサンプリング周期50msにて計測した。解析指標としてはFSSTとTUG、IPS及び動揺速度の計4項目とした。各指標間の関係性を調べるためにそれぞれの指標において正規性の検定を行い、正規分布を確認した後、Pearsonの積率相関係数を求めた。危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に則り研究の目的と方法を説明し、同意を得た。【結果】 今回、測定結果の平均値は、FSSTは7.03±0.9秒、TUGは6.17±0.69秒、IPSは1.63±0.27、動揺速度は0.49±0.16cm/sであった。また、FSSTと各評価間の相関係数は、IPSはr=0.275、TUGはr=0.489、動揺速度はr=-0.145を示した。TUGと動揺速度はr=-0.241、IPSはr=0.475となり、動揺速度とIPSはr=-0.794となった。この内で有意な相間関係を示したものは、FSSTとTUG、IPSと動揺間で有意な相関関係を示した。【考察】 本研究においてTUGとFSSTの相関関係が示されたことは先行研究と同等の結果となったが、TUGと動揺速度の指標間では相関関係が見られなかったことは先行研究と異なる結果となった。FSSTは跨ぎ動作、重心移動、後進動作などの要素をもち、TUGは立ち座り、歩行、方向転換の要素をもっているのではないかと考えられる。また今回、健常者を対象としてFSSTの測定を行ったが、静的バランスとの関係性は認められず、動的バランスであるTUGとの関係性が示された。しかしFSSTとTUGの相関関係があるにも関わらず、要素が大きく異なっている。このことから、臨床において、これら2つの評価方法がパフォーマンスを行うことで動的バランスを評価する指標でも、独立したバランス指標となりうることができるのではないかと考える。とくにTUGには跨ぎ動作や後進歩行が含まれていないため、FSSTではこれらの要素を反映している可能性が考えられる。一方で先行研究より、TUGは高齢者を対象として、動揺速度との関連性があるとされている。今回は対象者が健常者のみの測定であったため、今後FSSTにおいて対象者を健常者以外の高齢者や疾患別に重心動揺計の計測を行い、さらに検討していく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究や先行研究と合わせてFSSTとTUGは動的バランス評価として関連性があるのではないかと考えられる。今後はFSSTの要素をさらに検討していくことで、TUGとは異なった要素を含むバランス指標として臨床的に有用な指標となり得る可能性があるのではないかと考える。
著者
林 友則 保木本 崇弘 樋口 謙次 中村 高良 木山 厚 堀 順 来住野 健二 中山 恭秀
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.P-9, 2020

<p>【目的】急性期の脳卒中診療において、早期から退院の可否や転院の必要性などに関しての転帰予測が求められる機会は多い。現在までの脳卒中転帰予測に関する報告の中で、急性期の転帰予測をフローチャート形式にて示した報告は少ない。そこで本研究では、決定木分析を用いて初回理学療法評価から転帰予測モデルを作成することを目的とした。</p><p>【方法】対象は2012年7月から2015年4月までに当大学附属4病院に入院し理学療法が開始された脳梗塞,脳内出血患者496名とした。開始日が発症当日または発症後1週間以上経過している対象59例を除いた438例(男性315 例,女性123例,年齢69.3±13.0歳)を対象とし、退院群163名と転院群275名の2群に分類した。理学療法開始日数、NIHSS、GCS、上田式12段階片麻痺機能検査(以下、12グレード法)、ABMS各項目、年齢、病態(脳梗塞、脳出血)、性別、就労の有無、キーパーソンの有無、同居家族の有無、家屋環境をカルテおよび評価表より収集した。それらを独立変数として、退院、転院を従属変数とした決定木分析を実施した。統計解析ソフトはRを使用した。</p><p>【倫理的配慮】本研究は当大学倫理委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言に遵守して行った。</p><p>【結果】退院に関しては、NIHSSが3未満である場合(85 %)、そして、NIHSSが3以上であっても、12グレード法が9以上かつABMSの立ち上がりが2以上の場合(69 %)が退院となる決定木が得られた。転院に関してはNIHSSが3以上、12グレード法が9未満の場合(81%)と、NIHSSが3以上、12グレード法が9未満かつABMSの立ち上がりが2未満の場合(64%)が転院となる決定木が得られた。</p><p>【考察】退院の転帰予測には、NIHSSの点数に加え、分離運動の可否、立ち上がりの安静度が影響していると考える。今回の決定木による転帰予測モデルは、急性期の脳卒中診療において臨床的な判断基準を示すことが可能であり、転帰予測に有効であると考えられる。</p>