著者
五十嵐 祐介 中山 恭秀 中村 智恵子 平山 次彦
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.101, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】廃用症候群は原疾患や症状がさまざまであり、身体機能の特徴や傾向は捉えにくい。過去の報告では、院内での疾患分類や臥床による各機能の生理的変化など数多くされているが、血液データと身体機能の検討をした報告は少ない。当院では廃用症候群における評価表を作成し、廃用症候群と診断された全症例に対し評価表を使用している。そこで、今回は当病院にて使用している廃用症候群評価表にて得られたデータを使用し、血液データと身体機能を後方視的に検討することを目的とする。【方法】対象は当院入院中にてリハビリテーション科に依頼のあった患者のうち廃用症候群と診断された患者67名(男性40名、女性27名)。評価表より年齢、臥床日数(入院時からPT開始時までの日数)、血液データ(TP、Alb、Na、Cl、K、CRP、WBC、RBC、Hb)、Barthel Index(以下:BI)、Ability Basic Movement Scale(以下:ABMS)、入院前の日常生活自立度を抽出した。解析は入院前の日常生活自立度において入院前の身体機能が屋内自立以上(A2以上)の群と屋内介助(B1以下)の2群に分け、2群間における年齢、臥床日数、各血液データ、BI、ABMSの値を対応の無いt検定にて比較した。なお、本研究はヘルシンキ宣言に則りデータの取り扱いに十分注意し抽出、解析を行った。【結果】入院前屋内動作自立群51名(平均年齢80.37±9.3歳、平均臥床日数18±20.7日、平均BI値43.5±27.6、平均ABMS値21.4±7.15)、入院前屋内動作介助群16名(平均年齢81.8±8.5歳、平均臥床日数10.94±10.5日、平均BI値13.4±13.9、平均ABMS値13.4±4.07)となり、BIにおける入浴以外の全項目、ABMS全項目及び血液データではWBCにのみそれぞれ有意差が見られた(p<.01)。【考察】今回の結果より入院以前に屋内生活が自立していた患者は、介助を要していた患者と比べ、PT介入時における基本動作能力及びADL能力において有意な差が見られた。また、血液データよりWBCにのみ有意な差が見られた。WBCは感染等に対する免疫反応の指標として使用されることが多いが有意差が見られたことより、身体機能と何らかの繋がりがある可能性が考えられる。しかし、今回の結果では原疾患や治療方法などの分類を行っていないため、具体的な考察を行うまでには至らなかった。このため、今後は疾患分類や治療法による身体機能への影響について再度検討していきたい。【まとめ】入院前の自立度の違いにより、入院後に廃用症候群と診断された患者の血液データはWBCのみに有意差がみられた。
著者
藤田 裕子 来住野 健二 木山 厚 五十嵐 祐介 中山 恭秀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0659, 2012

【はじめに、目的】 Four Square Step Test(以下FSST)は2002年にDiteらによって考案された評価法であり、先行研究より信頼性と妥当性が検討され、臨床的なバランス評価に有用と示されている。また、健常者や脳卒中、骨関節疾患を対象とする疾患別のバランス評価としての有用性や、他の臨床的バランス評価との比較によりTimed"up and go"Test(以下TUG)と有意な相関関係が示されている。FSSTの臨床評価指標としての位置づけは他のバランス評価との比較が中心であり、実際にどのような要素が含まれていて、何を反映させている評価指標であるかは明らかにされていない。また、FSSTはテスト方法から前後左右への重心移動やまたぎ動作、後進歩行が必要と考えられ、その要素のひとつである足圧中心(以下COP)の移動が動作に反映しているのではないかと考える。しかし、パフォーマンス動作からバランスを評価できるとされているTUGやFunctional reach test(以下FRT)は、COPの軌跡や動揺を客観的に評価できる重心動揺計を用いた研究により、それぞれのテストがもつ特性や要素の検討がなされているが、FSSTの検討は見当たらない。そこで今回バランスを、静的バランス、支持基底面を変化させずにCOPを支持基底面に保持させる動的バランス、支持基底面を変化させることでCOPを支持基底面に保持する動的バランスの3つに分け、FSSTと関連性を比較することとした。それぞれのバランスの指標として、静的バランスの指標を、姿勢安定度評価指標(Index of postural stability:以下IPS)、支持基底面を変化させない動的バランスの指標をX方向とY方向の平均姿勢動揺速度(以下動揺速度)、支持基底面を変化させる動的バランスの指標を動的バランスの要素を含むTUGの3つとした。【方法】 対象は健常成人17名(男性9名、女性8名、平均年齢は27.5±4.1歳、平均身長166.2±8.1cm)であった。FSSTはDiteらによる方法を基に、TUGはPodsiodleらによる方法で測定し、練習のあと2回の計測を行い、それぞれの2回の平均値を採用した。また、重心動揺計の計測は裸足で行い、両足踵間距離は10cmとし、視線は2m先の指標を注視させ、上肢を体側に下垂させた。IPSを静的バランスの指標とし、安静立位保持の測定で得られた平均動揺速度(cm/s)を、支持基底面を変化させない動的バランスの指標とした。重心動揺計はアニマ社製GS-3000を使用しサンプリング周期50msにて計測した。解析指標としてはFSSTとTUG、IPS及び動揺速度の計4項目とした。各指標間の関係性を調べるためにそれぞれの指標において正規性の検定を行い、正規分布を確認した後、Pearsonの積率相関係数を求めた。危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に則り研究の目的と方法を説明し、同意を得た。【結果】 今回、測定結果の平均値は、FSSTは7.03±0.9秒、TUGは6.17±0.69秒、IPSは1.63±0.27、動揺速度は0.49±0.16cm/sであった。また、FSSTと各評価間の相関係数は、IPSはr=0.275、TUGはr=0.489、動揺速度はr=-0.145を示した。TUGと動揺速度はr=-0.241、IPSはr=0.475となり、動揺速度とIPSはr=-0.794となった。この内で有意な相間関係を示したものは、FSSTとTUG、IPSと動揺間で有意な相関関係を示した。【考察】 本研究においてTUGとFSSTの相関関係が示されたことは先行研究と同等の結果となったが、TUGと動揺速度の指標間では相関関係が見られなかったことは先行研究と異なる結果となった。FSSTは跨ぎ動作、重心移動、後進動作などの要素をもち、TUGは立ち座り、歩行、方向転換の要素をもっているのではないかと考えられる。また今回、健常者を対象としてFSSTの測定を行ったが、静的バランスとの関係性は認められず、動的バランスであるTUGとの関係性が示された。しかしFSSTとTUGの相関関係があるにも関わらず、要素が大きく異なっている。このことから、臨床において、これら2つの評価方法がパフォーマンスを行うことで動的バランスを評価する指標でも、独立したバランス指標となりうることができるのではないかと考える。とくにTUGには跨ぎ動作や後進歩行が含まれていないため、FSSTではこれらの要素を反映している可能性が考えられる。一方で先行研究より、TUGは高齢者を対象として、動揺速度との関連性があるとされている。今回は対象者が健常者のみの測定であったため、今後FSSTにおいて対象者を健常者以外の高齢者や疾患別に重心動揺計の計測を行い、さらに検討していく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究や先行研究と合わせてFSSTとTUGは動的バランス評価として関連性があるのではないかと考えられる。今後はFSSTの要素をさらに検討していくことで、TUGとは異なった要素を含むバランス指標として臨床的に有用な指標となり得る可能性があるのではないかと考える。
著者
五十嵐 祐介 平野 和宏 鈴木 壽彦 田中 真希 石川 明菜 姉崎 由佳 樋口 謙次 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100131, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は整形外科疾患において代表的な疾患であり、関節軟骨の変性や骨棘形成など様々な臨床症状を呈する。膝OAの増悪には多くの因子が関与しており、主に肥満や膝関節の安定性、膝関節屈曲及び伸展筋力、膝関節のアライメント、歩行時におけるlateral thrustなどとされている。一方、膝OAの進行予防に関する因子として、膝OA患者の歩行や階段昇降などの動作時に膝関節屈曲筋力と伸展筋力の比であるH/Q (ハムストリングス/大腿四頭筋)比を筋電図で検討した結果、各筋のバランスが膝OA進行予防に重要であるとの指摘がされている。しかし、膝OAの増悪因子と考えられるlateral thrustと膝関節屈曲筋力、伸展筋力のバランスを表すH/Q比との関連を検討した報告は見当たらない。そこで今回、当大学附属4病院にて共通で使用している人工膝関節全置換術患者に対する評価表から、術前評価のデータを使用し、後方視的にlateral thrustとH/Q比との関係を検討することとした。【方法】対象は2010年4月から2012年8月までに当大学附属4病院において膝OA患者で人工膝関節全置換術の術前評価を実施した199肢(男性:33肢、女性:166肢、平均年齢74.1±7.3歳)とした。測定下肢は手術予定側及び非手術予定側に関わらず膝OAの診断がされている下肢とした。筋力の測定はHand-Held Dynamomater (ANIMA社製μ-tas)を使用し、端座位時に膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できるよう専用の測定台を作成し、ベルトにて下肢を測定台に固定した状態で伸展と屈曲を各々2回測定した。測定値は2回測定したうち最大値を下腿長にてトルク換算し体重で除した値を使用した。また、lateral thrustの有無は各担当理学療法士が歩行観察により評価した。統計学的処理はlateral thrust有群(以下LT有群)と無群(以下LT無群)の2群に分け屈曲筋力、伸展筋力、H/Q比をそれぞれ対応のないt検定にて比較した。【倫理的配慮】本研究は、当大学倫理審査委員会の承諾を得て施行した。【結果】LT有群95肢(男性:22肢、女性:73肢、平均年齢74.1±7.4歳、平均伸展筋力99.9±42.2Nm/kg、平均屈曲筋力30.1±15.83Nm/kg、平均H/Q比0.34±0.23)、LT無群104肢(男性:11肢、女性:93肢、平均年齢74.5±6.5歳、平均伸展筋力95.5±47.9 Nm/kg、平均屈曲筋力35.4±21.5 Nm/kg、平均H/Q比0.44±0.38)となり、屈曲筋力とH/Q比において2群間に有意差を認めた(p<.05)。【考察】LT有群は、LT無群と比較し屈曲筋力及びH/Q比にて有意に低値を示した。lateral thrustに対し筋力の要因を検討したものでは、大腿四頭筋の最大筋力値が高いほどlateral thrustが出現しにくいという報告や、一方で大腿四頭筋の最大筋力値はlateral thrustの出現に関与しないという報告もあり、筋力の観点からは統一した見解は未だ示されていない。今回の結果にて有意差は認められなかったが伸展筋力ではLT有群の平均値がLT無群よりも高値であったことや、屈曲筋力にて有意差が認められたことは先行研究と同様の傾向を示すものはなく、lateral thrustを単一の筋力のみで検討するには難しいのではないかと考える。本研究でlateral thrustとH/Q比において有意差が認められたことより、各筋力の最大値以外にも比による筋力のバランスという観点も重要であり、lateral thrustが出現している膝OA患者に対するトレーニングとして、最大筋力のみでなく主動作筋と拮抗筋のバランスを考慮したアプローチも重要であると考える。今後はlateral thrustとH/Q比の関係を更に検討するために、歩行時における各筋の活動状態やlateral thrustの程度、立脚期における膝関節内反モーメントなどの評価にて考察を深めていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より、最大筋力でのH/Q比がlateral thrustの出現に関与する一因である可能性が示唆され、理学療法研究として意義のあることと考える。今後、更に考察を深めていくことでlateral thrust の制動に効果的なH/Q比の検討につなげていきたい。