- 著者
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東條 一史
- 出版者
- The Ornithological Society of Japan
- 雑誌
- 日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
- 巻号頁・発行日
- vol.45, no.3, pp.141-158,195, 1996-12-25 (Released:2007-09-28)
- 参考文献数
- 30
- 被引用文献数
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アオサギ亜科はサギ科最大のグループで(HANCOCK & KUSHLAN 1984),高緯度地域を除き全世界に分布している.観察が比較的容易なため,早くから繁殖生態や採餌行動の研究が進み(MEYERRIECKS 1960, 1962, KUSHLAN 1976, HANCOCK & KUSHLAN 1984など),また数種がコロニーや採餌場所を共有することが多いため,群集生態学的方面からも比較研究がなされてきた(JENNI1969,WILLARD 1977, RECHER & RECHER 1980など).しかし,採餌生態の比較研究の多くは北米に集中してきており,日本ではあまり行われていない.また,近年日本におけるチュウサギの減少が指摘されているが(中村 1984, 成末 1992, 環境庁1991), 有効な保護管理策を講じるには採餌生態の理解が不可欠である.ここでは,日本産のアオサギ亜科のサギ類,アオサギ Ardea cinerea,ダイサギ Egretta alba modesta, チュウサギ E.intermedia, コサギ E.garzetta, アマサギ Bubulcus ibis, の生息場所利用,採餌行動,餌利用を調べ,北米との類似性とチュウサギの減少理由について論じる.調査地は,千葉県の小櫃川河口付近の干潟,河川,農耕地を含む地域(Fig.1)である.調査は,センサスと個体観察によって1985年から1987年にかけての2年間行った.センサスは干潟,河川,農耕地のそれぞれに設けた調査区で月4回行い,個体観察は,採餌中の個体を継続的に5分以上観察し,餌内容と行動を記録した.採餌水深はサギのふしょ長,餌の人きさは嘴の長さと比較して推定した(Table 1).調査地では,5種のサギは比較的似通った個体数変動を示した.12月から5月までは比較的少なく,6,7月にかけて著しい増加,10,11月に著しい減少を示した(Fig.2).コサギは冬期でも一定数が見られたが,アマサギはごく少数が越冬しただけだった.アオサギは採餌場所として干潟と河川をよく利用し,ダイサギは干潟に多かった(Fig.3).チュウサギ,コサギ,アマサギはいずれも農耕地に多かった.また,ダイサギとコサギは,干潟,河川,農耕地を比較的どこでも利用したのに対し,アオサギの農耕地利用及びアマサギの干潟,河川の利用はほとんどみられず,チュウサギも農耕地以外の利用はあまりなかった,干潟と河川で採餌する場合,アオサギ,ダイサギは,チュウサギ,コサギより深い場所で採餌する傾向があった(Fig.4).農耕地では,ダイサギ,チュウサギ,コサギが水田,蓮田,休耕田など,水のある環境を主な採餌場所にしていたのに対し,アマサギは,あぜや草地など乾燥した場所で主に採餌し(Fig.5),水田で採餌する場合でもチュウサギやコサギより水の少ない田を選んだ(Fig.6).採餌行動は,アオサギは待ち伏せ(Standing)法を主に用い,ダイサギはゆっくり歩き(Walking Slowly)法も用いた(Fig.7).チュウサギはゆっくり歩き法と待ち伏せ法を主とし,コサギは速歩き(Walking Quickly)法を主とする活発な採餌行動を示した.アマサギはゆっくり歩き法が主だったが,チュウサギより活発な採餌を行った.コサギはチュウサギに比べ,採餌中のつつきの頻度は高かったが,成功率は低かった(Table 2).アオサギ,ダイサギ,チュウサギ,コサギは,いずれも干潟では魚類が主な餌だった.農耕地では,ダイサギとコサギはドジョウやアメリカザリガニを捕食し,チュウサギはその他にカエルと昆虫も利用した.アマサギは,昆虫類の利用が多かった(Table 3),コサギとアマサギは,微小な餌を数多く利用していた.干潟では,アオサギ,ダイサギ,チュウサギ,コサギの順に有意に大きな餌を捕食していた(Fig.8).これらの結果から,アオサギは本来広い水界へ,アマサギは陸環境へ,チュウサギは湿地へ特殊化してきたものと推察される.一方,ダイサギは広い水界,コサギは湿地的環境をよく利用するが,この2種は非特殊化者として様々な生息場所を利用できる.アオサギとダイサギおよびチュウサギとコサギは,それぞれ体の大きさと生息場所利用が似ているが,採餌行動と餌利用には違いが見られた.北アメリカでの研究(JENNI 1969,WILLARD 1977,RECHER & RECHER l980)と比較して,アオサギ,チュウサギ,コサギは,それぞれオオアオサギ Ardea herodias, ヒメアカクロサギ Egretta caerulea, ユキコサギ E.thula と似たニッチを占めている.ダイサギとアマサギは日本と北米両方に分布し,両地域で同じニッチを占めている.アオサギとオオアオサギおよびコサギとユキコサギはそれぞれ近縁である(CURRY-LINDAHL 1971,HANCOCK & KUSHLAN 1984)が,チュウサギとヒメアカクロサギの関係は明らかでない.DNA交雑法による解析(SHELDON 1987,SIBLEY& AHLQUIST 1990)では,チュウサギとヒメアカクロウサギは近縁でなく,また,ダイサギの北米の亜種 E.a.egretta と日本の亜種 E.a.modesta も別系統であることが示唆されている.