著者
川路 則友
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.153-158, 1988-08-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

1) 南九州低山帯の常緑広葉樹林と植栽林め混在する環境における繁殖鳥類群集の特徴を調べるために,1985年から1987年のそれぞれ5月から7月にかけて,鹿児島市近郊の鳥帽子岳(標高522m)でライントランセクト法によってセンサスを行った.2)調査区はアカガシ,タブの優占する広葉樹林,ヒノキやスギの植栽林,およびそれらの混交林がモザイク状に存在するA区と,農耕地に植栽林の混じるB区であった.3)調査期間中,A区で28種, B区で24種の鳥類が確認され,両地域で共通なのは20種であった.しかし,コゲラ,エナガ,ヤマガラおよびシジュウカラの4種はA区で,コジュケイ,キジバト,アカショウビン,ツバメ,ヒヨドリ,ウグイス,ホオジ店スズメおよびハシブトガラスの9種はB区でそれぞれ高い相対密度(羽/ha)を示した.4)A区における上位4優占種の組み合わせは,ヒヨドリ-シジュウカラ-エナガ-ヤマガラであり,B区のヒヨドリ-スズメ-ウグイス-ホオジロ群集や水俣の照葉樹林帯(KUBO 1978)と異なるが,霧島山の荒襲•狭野地域のそれと類似する(黒田ほか1972).5)水俣で見られた鳥類のうち,コサメビタキ,イカル,ツツドリ,アオバズク,オオアカゲラなどは鳥帽子岳では見られず,キビタキ,オオルリなどの密度は後者で非常に低かった.一方,ヒヨドリの優占度が高く,林縁棲鳥類であるウグイスやホオジロ,都市部でも見られるスズメ,ツバメ,カワラビワなどが混じるなど,植栽林とそれに広葉樹林が混在する環境を反映した鳥相構成を顕著に示していると思われた
著者
川路 則友 川路 仁子
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.119-126, 2015-03-20 (Released:2017-03-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

北海道西部低地落葉広葉樹林では,これまでツツドリCuculus optatusによる宿主卵とは大きく異なる赤褐色卵の托卵例がセンダイムシクイPhylloscopus coronatus,メジロZosterops japonicusおよびヤブサメUrosphena squameicepsで報告されているが,今回ツツドリに托卵されたアオジEmberiza spodocephalaの巣を発見し,仮親による抱卵,育雛行動を観察した。巣はチシマザサSasa kurilensisの高さ1.6 mの部分にかけられていたが,発見時の巣内には卵は入っておらず,3日後に赤褐色卵1個のみが産み込まれていた。ツツドリの卵は約12~13日間の抱卵ののちふ化し,約18日間の育雛ののち巣立った。調査地では,ツツドリはセンダイムシクイに托卵する例が多く,アオジに対する托卵は今回が初めてであったが,アオジが巣内にある自分の卵色とまったく異なるツツドリの卵のみを受け入れ,無事巣立たせたものとして貴重な例となる。
著者
川路 則友
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.98-102, 2009-05-01 (Released:2009-05-20)
参考文献数
8
被引用文献数
4 2

北海道札幌市において,赤色卵を托卵されたメジロの巣を発見し,追跡したところ,ツツドリのヒナがふ化し,仮親であるメジロからの給餌を受けたのちに巣立った.その巣から近いところにあったセンダイムシクイの巣でも赤色卵が見つかったが,それはのちに捕食された.しかし,赤色卵を産むウグイスの巣が約500 m離れた位置で確認されたが,巣内には托卵はなかった.これまで北海道中北部ではツツドリによるウグイスへの赤色托卵例が報告されている.ツツドリによる赤色卵の托卵は,北海道南西部以南でウグイスを主要な宿主とするホトトギスが生息していない北海道中央部で,卵色の形質置換を行うことにより確実にウグイスへの托卵を成功させるために進化してきたものと考えられている.メジロはツツドリの主要な宿主ではないが,ウグイスの生息密度が低いために,本州以南での主要な托卵相手であるセンダイムシクイや,メジロといった他種まで宿主として利用していると考えられる.
著者
川路 則友 安部 淳一
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.107-110_1, 1988-09-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

シベリアセンニュウは,これまで日本での正式な確認記録がなかったが(日本鳥学会1974),最近になって標識調査により下記の2個体が捕獲され,日本にも稀ながら渡来していることが明らかになった。最初の個体は,北海道枝幸郡浜頓別町にある環境庁浜頓別1級ステーションにおいて協力調査員山内昇氏により1985年9月29日に捕獲されたものである。成鳥で,性別は不明であった。次の個体は,鹿児島県国分市にある国分干拓で1987年11月15日に筆者らにより捕獲されたものである。この個体も成鳥で性別は不明であった。シベリアセンニュウには4亜種が知られているが(Dement'ev et al. 1968など),筆者らの捕獲したものは,羽毛の特徴,分布などからrubescensに属すると思われた。本種は,渡り途上ではアシ原等の環境でほとんど目立たない行動を示していると思われ,これから標識調査などにより記録が増大することが充分考えられる。
著者
川路 則友 東條 一史 松岡 茂 高野 肇 北原 英治
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.271-350, 2003 (Released:2011-03-05)

森林総合研究所に所蔵してある数多くの鳥獣類標本のうち、仮剥製鳥類標本4,790点について、リストを作成、公表する。これら標本は、おもに1920年代から1930年代にかけて、当時の農林省鳥獣調査室によって収集されたものである。標本には、おもに渡り期に全国の灯台から収集された衝死鳥や千島列島からの収集品などが含まれる。
著者
川路 則友 白石 哲 林 宏
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.82-93, 1978

1974年7月から1976年12月まで原則として各月1回,有明海北部沿岸(福岡県山門郡大和町の大和干拓地周辺)においてセンサスを行った。確認された鳥類は25科99種であった。そのうちガンカモ科,チドリ科およびシギ科の3科の鳥類だけで47種(47.5%)を占めていた。そこで,この3科の鳥類について,それぞれの種類数および個体数の季節変動を調べた。<br>1.ガンカモ科に属する鳥類の総個体数は冬に最も多く確認されるが,種類数は春と秋に多かった。<br>2.チドリ科に属する鳥類の総個体数は春の渡り時よりも秋の渡り時において多かった。種類数は春と秋で大差はなかった。<br>3.シギ科鳥類の個体数では,春の渡り時の方が秋の渡り時よりも多かった。種類数は春と秋でそれほど差はなかった。<br>4.有明海北部におけるシギ&bull;チドリ類の観察記録を大阪湾,東京湾および宮城県蒲生におけるそれらと比較考察した。すなわち,有明海北部沿岸で確認されたシギ&bull;チドリ類35種のうち,観察例の少ない18種を除いた17種について,有明海北部沿岸における渡りの型と上に述べた3渡来地におけるそれらとを比較考察した。<br>5.上記3渡来地と同じ型を示す種として6種(メダイチドリ,ダイゼン,ツルシギ,アオアシシギ,キアシシギ,ソリハシシギ),異なる型を示すものとして11種(シロチドリ,ムナグロ,キョウジョシギ,トウネン,ハマシギ,オバシギ,タカブシギ,オグロシギ,オオソリハシシギ,ホウロクシギ,チュウシャクシギ)をあげた。これらの渡りの型からそれぞれの種の渡りの径路を考察した結果,小林(1959)が述べている3つの北上径路の他に,第4の径路として日本列島の南岸に沿って北上する径路もあると考えられた。また,南下の径路としては2つの径路が考えられた。<br>6.北上,南下のいずれにしても,有明海を通過するシギ&bull;チドリ類については,本州よりも中国大陸や朝鮮により深い関係を有する鳥類が多いことが推察された。
著者
川路 則友
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-9,43, 1994-07-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
22
被引用文献数
4 5

北海道西部の低地林において,筆者は1989年5月に抱卵中のキジバト地上巣を発見し,その後の追跡により通常の育雛期間を経て2羽のヒナが巣立ったことを確認した.キジバトの地上営巣は,これまで南西諸島の一部離島のみで報告があり(黒田1972),内陸ではこれまでほとんど見られていない.今回繁殖の成功した環境は,シラカンバ,ミズナラを主体とする山火再生天然林で,林床域には,チシマザサもしくはクマイザサが比較的密生している.地上営巣が行われた原因については,1)キジバトの営巣適木が希薄である,2)地上巣への捕食圧が低いことが考えられた.そこで,キジバトの巣を模した人工巣を,前年に地上営巣の成功した林内の樹上および地上に同時に設置し,市販のウズラ卵を2個ずつ配置して被食率を調べる実験を行った。実験は,1990年5月と6月の2回行った。比較的葉量の豊富な低木のある場所を25箇所選び,人工巣の設置場所とした.各設置場所はそれぞれ30m以上離した。樹上巣は,低木の高さ1.2-1.5mの位置に白色に染色した卵を配置した巣を13箇所,無染色(ウズラ卵色)の卵の配置巣を12箇所の合わせて25箇所設置した.地上巣は,各樹上巣設置場所の近くに,白色卵を置いた巣と無染色卵の巣を1個ずつの合計50個,さらに抱卵中のキジバトに似せて,紙で作成したモデルを巣中卵にかぶせたものを20個設置した.樹上巣設置場所近くの地上巣は,それぞれ5m以上離した。実験期間は16日間とし,次の実験まで15日間の間隔を設けた.樹上,地上ともに卵色,モデルの有無等による被食率の差は認められなかった.また,それぞれの設置場所における被食巣の数にも関係は見られなかった.樹上巣に対する被食率は,5,6月ともに地上巣より有意に高かった.地上巣では,両月とも設置後13日目から急激に被食率が上昇し,6月の方が5月より有意に高い被食率を示した.また,樹上,地上ともに巣をかくす植生密度の違いによる被食率に差は認められなかった.これらの結果から,樹上巣は設置後,かなり広範囲にわたって短時間に捕食され,地上巣では植生密度の低い場所でも比較的低被食率が続くことが分かった.樹上巣に対する捕食者は,調査地内で毎年繁殖し,調査地を餌場としているハシブトガラスと思われ,希薄な低木をよく止まり木として利用していたため,容易に人工巣を発見できたと思われた.しかし,カラスが密生したササの中に侵入する行動は観察されなかったことや,配置した卵の大半のものに噛み傷や引っかき傷が認められ,中には移動されたもの,巣内で割られたものが認められたことから,地上巣への主な捕食者としてはネズミ類が考えられた,そこで各人工巣設置場所に,ウズラ卵を餌として,イタチ類も捕獲可能な生け捕りワナを人工巣実験終了後に延べ119個設置したところ,アカネズミ12頭,エゾヤチネズミとヒメネズミがそれぞれ1頭ずつ捕獲された.ほとんどのワナ内の卵には,人工巣に設置したものと同じ引っかき傷が認められ,さらにアカネズミ2頭がワナの中で卵を割り,食していた.イタチ類については,ワナでまったく捕獲されなかったこと,調査地周辺ではフン等のフィールドサインが近年ほとんど見られなくなったことから,ほとんど生息していないと考えられた.キツネは調査地で頻繁に観察されたが,元来,密な林床植生を有する林内環境を避け,より開けた農耕地もしくは林内歩道を行動して採餌する.当調査地内でも1つがいのキツネが毎年繁殖するが,夏期には主として昆虫を食している.ヘビ類については,アオダイショウとシマヘビの2種が樹洞営巣性鳥類の巣に対する捕食者として確認されているが,地上巣に対する捕食については不明である.これらのことから,調査地での樹上巣を被う植生はそれほどカラスに対して効果をもたないが,地上のササを主体とする林床植生は,カラスの侵入を防ぐばかりでなく,キツネのような地上性捕食者をも防いでいたと考えられる.
著者
川路 則友 白石 哲
出版者
九州大学
雑誌
九州大學農學部學藝雜誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.123-132, 1980-07

We examined the avifauna in and around the Nagasaki Airport, and investigated the behavior and food habits of the Black-eared Kite, Milvus migrans, which roosted in Usu-jima Islet near the airport from June, 1977 to March, 1979. The results obtained are as follows: 1. Sixty-two bird species belonging to twenty-six families were observed in and around the airport. In the course of census, we found wintering of the American Golden Plover Pluvialis dominica from 1977 to 1978, and the Chinese Great-grey Shrike Lanius sphenocercus on January 10, 1978 which had been rarely observed in Kyushu, Japan. In the airport the dominant species were always the Skylark , Alauda arvensis, and the Tree Sparrow, Passer montanus. 2. The Black-eared Kites left the roost in Usu-jima early in the morning, and flew to the feeding area, but some kites remained on and around Usu-jima all day long. The maximum number of kites is highest between September and November, and they decreased markedly in December; they increased again from January to February, but only a few individuals were observed between March and July. These changes in abundance of kites probably reflect their migratory movements. 3. Between September and October many kites moved in a wide area, but less so in other months. Especially in December, all kites lived within a very restricted area. Accordingly, the extension and reduction of the daily movement seem to relate to the feeding area, which changes with fluctuations in kite's abundance. We found another roost in Osaki Peninsula, north to the Nagasaki Airport, and there seemed to be other two roosts. The kites roosting here seemed not to move so far. Since there is abundant food for the kites along the coast, it seems enough for their existence to feed within a narrow area. 4. Fishes were most abundant as food items of the Black-eared Kites and a kind of gobies, Chaeturichthys hexanema, occupied the highest percentage of them, being followed by insects. Especially in October, a number of kites gathered at the airport in order to feed on locusts which inhabited the grassland, so that the ratio of kites with stomachs including insects temporarily increased. Other foods detected were the kite (probably fed after death), skylark and a kind of pill-bugs, Armadillidium vulgare.1.1977年6月から'79年3月まで,長崎空港周辺の鳥相および臼島を塒とするトビの行動と食性について調べた.2.長崎空港周辺で確認された鳥種は26科62種に達したが,特筆すべきこととしてムナグロの越冬(1977年から'78年にかけての冬)とオオカラモズの確認(1978年1月10日)を挙げた.空港内ではヒバリとスズメが常に優占種であつた.3,トビは朝早く臼島の塒から飛び立ちえさ場へ向かうが,同島やその周辺で終日生活する個体も多く確認された.月別に見た1日のうちのトビの最大個体数は9月~11月に多く,12月になると激減し,1,2月には再び増加し,3月以降7月まで少なかつた.その原因としては渡りが考えられた.4.個体数の最も多い9,10月には直線距離にして最大10km程度の飛翔を行なつて広範囲に行動する個体が増加するが,それ以外の月にはそれほど遠くへ出て行く個体は見られず,特に12月にはすべての個体は1~2kmの範囲内で生活していることが知られた.従つて,これら行動範囲の拡張と縮小は個体数の増減に対応したえさ場の確保と関係があると考えられた.車によるライン・センサスの結果,臼島のほかに確実に1ヵ所,また明示はできないが更に2ヵ所の塒があると推察されたが,それらの塒の個体もさほど遠距離まで行動しないと思われた.恐らく,海岸沿いには常に餌が豊富に存在し,ある程度までの個体数は塒の近距離内で許容されるためと考えられた.5.トビの食物としては魚類が最も多く,その中でもアカハゼが主食となつていることが知られた.次いで昆虫類が多く,特に10月には空港の草原に生息するバッタ類を採食しに飛来するトビが増加し,昆虫を採食している個体の割合が一時的に増大した.そのほかの食物としては鳥類のトビとヒバリ,甲殻類のダンゴムシが確認された.