著者
池本 幸生 松井 範惇 佐藤 宏 峯 陽一 尹 春志 寺崎 康博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の課題は、アジアおよびアフリカの貧困問題にケイパビリティ(潜在能力)アプローチを応用し、経済中心の開発思想から人間中心の開発思想へと転換させることにあった。ケイパビリティとは、アマルティア・センとマーサ・ヌスバウムが人の暮らし振りのよさ(Well-being)を適切に捉える概念として提唱しているものである。ケイパビリティは日本でも多くの人が言及しているにもかかわらず、その訳語である「潜在能力」から勝手なイメージが作り上げられている。この点を明らかにするために日本でのケイパビリティの使われ方をサーベイし、どこが間違っているのかを指摘した。このような研究によってケイパビリティの誤った理解を正す一方、ケイパビリティの正しい理解を普及させるため、論文等を書いたり、セミナー等を行ったりした。ヌスバウムの『女性と人間開発』の翻訳もその活動の一環である。この理論的研究の延長として、センの正義論などについても研究を行い、貧困という「善さ」に関わる領域から「正しさ」に関わる領域へと研究を展開した。実証研究としては、ベトナム(池本)、バングラデシュ(松井・池本)、中国(佐藤)、アフリカ(峯)、韓国(尹)を取り上げ、それぞれの国に関して数多くの論文が公表された。さらに、ケイパビリティ・アプローチが先進国の問題をも適切に分析することができることを示すために日本の不平等の問題についても研究を行った。本研究における成果の発表については国際ケイパビリティ学会(HDCA)などの国際学会で毎年、発表を続ける一方、HDCAの主要メンバーやアジア・アフリカ地域の共同研究者を日本に招いて国際会議を開催した。予想を超えた反応は、経済以外の分野、例えば、公共哲学、国際保健、教育、総合人間学、幸福論、農村開発など様々な分野でケイパビリティ・アプローチに対する関心が高いことであった。今後の発展が期待できる分野である。
著者
池本 幸生 松井 範惇 坪井 ひろみ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

社会的企業は、経済性を維持しつつ、援助や支援に頼ることなく社会的目的を達成する持続的活動として多くの国で実践されている。このような活動を成り立たせている仕組みは利他的動機から生まれており、アマルティア・センのケイパビリティ・アプローチによって説明することができる。本研究では、バングラデシュのグラミン銀行の活動、ベトナムのコーヒー、タイの有機農業を事例とし、その仕組みと効果に関する分析を上記の枠組みで分析を行った。