著者
寺崎 康博
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は文化芸術活動を経済活動として体系的に整理した統計を作成し、分析することであるが、本年度は供給面、需要面について以下の7点について研究成果を得た。1 ユネスコ、EU、オーストラリア、フィンランド等における取り組みを検討したところ、教育や建築物の取扱いに差があることが判明した。日本については、統計の所在状況を勘案して、文化・芸術活動に関する体系案を作成した。2 最近時における文化・芸術関係の財の生産額を推計したところ、およそ10兆円となった。その内訳を見ると10年前と比較して鑑賞・レジャー用品が減少傾向にあるが、カメラを中心とした趣味関係の財の生産がのびていることが判明した。3 文化・芸術のサービスの生産については13兆円と推計され、財の生産と合計すると23兆円の市場規模を持ち、GDPのおよそ4.5%を占める。4 この10年間で6兆円の増加であった。また、サービスの構成比も44%から56%へ増加し、文化・芸術活動の分野においてもサービス化の進展が確認された。5 文化・芸術活動の需要面についての分析では『社会生活基本調査』(総務省)の趣味・娯楽に関するデータを利用して、一人が行う種目数と各種目の行動者率の関係を検討した。6 大部分の生活行動は若い時代に何らかの手ほどきを受けていて、普及の源泉になっていることが判明した。特に、「楽器の演奏」や「邦楽」のような趣味・娯楽活動に於ける「習熟型種目」の普及には学校教育の影響が大きい。7 また、文化・芸術を鑑賞する機会の多くは家庭にあり、演劇、映画、あるいは美術鑑賞を家族と共に親しんでいる。一方、カラオケ、競馬のような大衆娯楽は友人と行うことが契機となっていることも実証的に確かめられた。
著者
池本 幸生 松井 範惇 佐藤 宏 峯 陽一 尹 春志 寺崎 康博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の課題は、アジアおよびアフリカの貧困問題にケイパビリティ(潜在能力)アプローチを応用し、経済中心の開発思想から人間中心の開発思想へと転換させることにあった。ケイパビリティとは、アマルティア・センとマーサ・ヌスバウムが人の暮らし振りのよさ(Well-being)を適切に捉える概念として提唱しているものである。ケイパビリティは日本でも多くの人が言及しているにもかかわらず、その訳語である「潜在能力」から勝手なイメージが作り上げられている。この点を明らかにするために日本でのケイパビリティの使われ方をサーベイし、どこが間違っているのかを指摘した。このような研究によってケイパビリティの誤った理解を正す一方、ケイパビリティの正しい理解を普及させるため、論文等を書いたり、セミナー等を行ったりした。ヌスバウムの『女性と人間開発』の翻訳もその活動の一環である。この理論的研究の延長として、センの正義論などについても研究を行い、貧困という「善さ」に関わる領域から「正しさ」に関わる領域へと研究を展開した。実証研究としては、ベトナム(池本)、バングラデシュ(松井・池本)、中国(佐藤)、アフリカ(峯)、韓国(尹)を取り上げ、それぞれの国に関して数多くの論文が公表された。さらに、ケイパビリティ・アプローチが先進国の問題をも適切に分析することができることを示すために日本の不平等の問題についても研究を行った。本研究における成果の発表については国際ケイパビリティ学会(HDCA)などの国際学会で毎年、発表を続ける一方、HDCAの主要メンバーやアジア・アフリカ地域の共同研究者を日本に招いて国際会議を開催した。予想を超えた反応は、経済以外の分野、例えば、公共哲学、国際保健、教育、総合人間学、幸福論、農村開発など様々な分野でケイパビリティ・アプローチに対する関心が高いことであった。今後の発展が期待できる分野である。