著者
平位 匡 池本 幸生
出版者
東京大学東洋文化研究所
雑誌
東洋文化研究所紀要 = The memoirs of Institute for Advanced Studies on Asia (ISSN:05638089)
巻号頁・発行日
no.174, pp.1-32, 2019-02-28

In The Idea of Justice, Amartya Sen started his argument by differentiating his capability approach from the mainstream in terms of structure: comparative vis-à-vis transcendental. He called the mainstream approach of justice as transcendental because it has been trying to construct a theory of justice based on fundamental principles questing for perfection. Sen insists that it is impossible to construct a perfect theory of justice because our world is far from perfection and that what we need is a more practical approach, which can be used to compare feasible options that we actually have and to choose one from among them. What lies behind this strategy is respect for a plurality of values and reasoning in society. In this context, description plays a key role in this approach, given that plural values and reasoning can be reflected only in an inductive manner which requires rich description. This difference can be applied to his approach in economics. The mainstream economics has been constructing models and theories based on hypothesis such as utility maximization. In this sense the mainstream is "perfect" but not practical as such hypothesis is not realistic. In the field of development economics he uses more practical and realistic approach based on statistics. His main contributions in the field such as the cause of famine and missing women started from examining statistics. His argument always starts from reality and is thus inductive, which is in sharp contrast with the deductive mainstream approach. Sen's approach can be traced back to the Cambridge tradition, which typically embraces inductive methods of reasoning. The purpose of this article is to examine how Sen's approach is related to it with a particular focus on the influence of Maurice Dobb. In relation to this, some possible extensions of his approach will be discussed.
著者
池本 幸生 松井 範惇 佐藤 宏 峯 陽一 尹 春志 寺崎 康博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の課題は、アジアおよびアフリカの貧困問題にケイパビリティ(潜在能力)アプローチを応用し、経済中心の開発思想から人間中心の開発思想へと転換させることにあった。ケイパビリティとは、アマルティア・センとマーサ・ヌスバウムが人の暮らし振りのよさ(Well-being)を適切に捉える概念として提唱しているものである。ケイパビリティは日本でも多くの人が言及しているにもかかわらず、その訳語である「潜在能力」から勝手なイメージが作り上げられている。この点を明らかにするために日本でのケイパビリティの使われ方をサーベイし、どこが間違っているのかを指摘した。このような研究によってケイパビリティの誤った理解を正す一方、ケイパビリティの正しい理解を普及させるため、論文等を書いたり、セミナー等を行ったりした。ヌスバウムの『女性と人間開発』の翻訳もその活動の一環である。この理論的研究の延長として、センの正義論などについても研究を行い、貧困という「善さ」に関わる領域から「正しさ」に関わる領域へと研究を展開した。実証研究としては、ベトナム(池本)、バングラデシュ(松井・池本)、中国(佐藤)、アフリカ(峯)、韓国(尹)を取り上げ、それぞれの国に関して数多くの論文が公表された。さらに、ケイパビリティ・アプローチが先進国の問題をも適切に分析することができることを示すために日本の不平等の問題についても研究を行った。本研究における成果の発表については国際ケイパビリティ学会(HDCA)などの国際学会で毎年、発表を続ける一方、HDCAの主要メンバーやアジア・アフリカ地域の共同研究者を日本に招いて国際会議を開催した。予想を超えた反応は、経済以外の分野、例えば、公共哲学、国際保健、教育、総合人間学、幸福論、農村開発など様々な分野でケイパビリティ・アプローチに対する関心が高いことであった。今後の発展が期待できる分野である。
著者
池本 幸生 松井 範惇 坪井 ひろみ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

社会的企業は、経済性を維持しつつ、援助や支援に頼ることなく社会的目的を達成する持続的活動として多くの国で実践されている。このような活動を成り立たせている仕組みは利他的動機から生まれており、アマルティア・センのケイパビリティ・アプローチによって説明することができる。本研究では、バングラデシュのグラミン銀行の活動、ベトナムのコーヒー、タイの有機農業を事例とし、その仕組みと効果に関する分析を上記の枠組みで分析を行った。
著者
古田 元夫 山影 進 佐藤 安信 田中 明彦 末廣 昭 池本 幸生 白石 昌也 栗原 浩英 レ ボ・リン グエン ズイ・ズン グエン タイン・ヴァン 伊藤 未帆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、ベトナムをはじめとするASEAN新規加盟国の地域統合の動態を、東西回廊など、これら諸国を結ぶ自動車道路を実際に走行して観察しつつ、ベトナムのダナン、バンメトート、ラオスのビエンチャンおよび東京でワークショップを開催して、現地の行政担当者や研究者と意見を交換した。こうした取り組みを通じて、ベトナムの東南アジア研究所と研究者と、この地域統合の中でベトナムが果たしている役割、それと日本との関係について意見を交換し、その成果をベトナムと日本で報告書にまとめて刊行した。
著者
江口 信清 藤巻 正己 ピーティ デヴィッド 山本 勇次 村瀬 智 瀬川 真平 池本 幸生 石井 香世子 四本 幸夫 古村 学
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、社会的弱者が、不利益をもたらされがちであった観光現象を逆手にとって、自立化・自律化の途を進み、かつ近代化の過程で喪失してきた自信やプライド、そして「伝統」を回復することはできるのだろうか。社会的弱者の自立的な生き方に観光がどのような意味を持つのかについて、世界の多様な地域の事例の比較分析し、考察をすることにある。比較研究の結果、少なくとも4つの結論を得た。(1) 途上国における社会的弱者は、観光にかかわるだけでは自立しえないであろう。(2) 外部で作られた観光の概念やスタイルと現地の人たちの理解するそれらの間には、しばしば齟齬がある。(3) 自生的なリーダーとこの人物を支えるフォロワー関係の存在が、観光開発の成否やコミュニティの福祉の改善に大きくかかわる。そして、(4) 女性の役割がたいへん重要であるということである。