著者
松尾 亮太
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.253-258, 2011 (Released:2011-11-08)
参考文献数
47

哺乳類の脳は,ひとたび損傷を受けると再生することが非常に難しく,また脳の構成要素であるニューロンは,最終分化を果たしていて細胞周期は停止した状態である。一方、軟体動物腹足類であるナメクジの中枢神経組織は、損傷や欠損を受けても自発的に構造レベル、機能レベルでの回復を遂げることができる。例えば触角は,切断を受けてもそこに含まれる神経組織を含めてほぼ完全に再生することができる。同時に,大小二対存在する触角は,互いに機能レベルでの冗長性も有している。また,脳の左右に一対存在し,高次嗅覚機能を担っている前脳葉と呼ばれる部位は,損傷や欠損を被った際,自発的に組織レベル,機能レベルでの回復を遂げることができる。そして前脳葉自体も,常に左右いずれか片方ずつが機能するという,ある種の機能的冗長性を有している。さらに,ナメクジのニューロンは,物質合成能を高める必要がある場合には自身のゲノムDNA量を増やすことさえできる。本稿では,こういった,我々哺乳類には到底不可能な,さまざまな離れ業を示すナメクジの神経組織について紹介する。
著者
桐野 豊 木村 哲也 渡辺 恵 川原 茂敬 松尾 亮太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

ナメクジは匂いと忌避性の味覚(キニジンなど)を連合する嗅覚嫌悪学習を行う.嗅覚学習においては嗅覚中枢である前脳が重要な役割を果たしていると考えられている.本研究では,ナメクジの単離脳嗅覚学習系を用いる生理学的測定と分子生物学的解析により,嗅覚学習のメカニズムを解明することを目的とした.単離脳嗅覚学習において無条件刺激となる味覚神経束の頻回電気刺激は,前脳局所場電位振動の振動数を増大させ,同時に前脳バースティングニューロンの興奮とノンバースティングニューロンの抑制を引き起こした.このことから,学習時には大半のノンバースティングニューロンは抑制されることが示された.さらに触角神経束に高頻度の電気刺激を与えると,前脳における誘発電位が2時間以上の長期にわたって増加する,長期増強が生じることが示された.このような長期のシナプス伝達効率の変化が記憶の固定化のメカニズムを担っている可能性が示唆された.条件付けの30分前に体腔内にタンパク合成阻害剤であるアニソマイシンまたはシクロヘキシミドを注射すると、条件付け後2日〜一週間目以降の記憶保持に障害が見られ,タンパク合成が嗅覚記憶の長期的な維持に必要であることが明らかになった。そこで次に学習によって発現誘導される遺伝子をPCR-differential display法によって網羅的に探索した。ニンジンの匂いを条件刺激(CS)、苦み物質であるキニジン溶液を無条件刺激(US)として同時に提示して連合させ、対照群にCSとUSを1時間の間隔をおいて提示したものを用いた。再現性のある発現変化を示した8個の遺伝子について部分配列のクローニングを行った。
著者
松尾 亮太
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR COMPARATIVE PHYSIOLOGY AND BIOCHEMISTRY
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.253-258, 2011-10-31

哺乳類の脳は,ひとたび損傷を受けると再生することが非常に難しく,また脳の構成要素であるニューロンは,最終分化を果たしていて細胞周期は停止した状態である。一方、軟体動物腹足類であるナメクジの中枢神経組織は、損傷や欠損を受けても自発的に構造レベル、機能レベルでの回復を遂げることができる。例えば触角は,切断を受けてもそこに含まれる神経組織を含めてほぼ完全に再生することができる。同時に,大小二対存在する触角は,互いに機能レベルでの冗長性も有している。また,脳の左右に一対存在し,高次嗅覚機能を担っている前脳葉と呼ばれる部位は,損傷や欠損を被った際,自発的に組織レベル,機能レベルでの回復を遂げることができる。そして前脳葉自体も,常に左右いずれか片方ずつが機能するという,ある種の機能的冗長性を有している。さらに,ナメクジのニューロンは,物質合成能を高める必要がある場合には自身のゲノムDNA量を増やすことさえできる。本稿では,こういった,我々哺乳類には到底不可能な,さまざまな離れ業を示すナメクジの神経組織について紹介する。