著者
西村 晋
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F1-1-F1-8, 2019 (Released:2019-09-26)

中国の上場企業の株式所有構造の最大の特徴は,筆頭株主の株式所有比率が非常に高い傾向がみられる事である。特に,大企業では国有持株会社を介して政府に迂回所有されているケースが典型的である。政府が上場企業を迂回所有する仕組みは国有資産管理制度の中心的な仕組みの一つである。国有企業に対して民間や外資の持株比率を高め,国有持株会社の持株比率を低下させる改革である混合所有制改革が,2013年に決定され,2018年現在も改革の途上にある。改革の進展度合いにはかなりのバラつきがある。中央レベルの国有企業を見てみると,宝山鋼鉄やシノペックなどの重工業系の巨大企業では,未上場子会社に対して複数の民間投資家から出資を招く程度の改革にとどまっている。国有持株会社の支配権を維持しつつ複数の提携相手の民間企業に株式を分散できたケースとしては,チャイナユニコムを挙げることができる。しかしながら,今回の改革で,支配株主と中小株主との利害の対立という中国企業のガバナンスの基本的な構図が変化する訳ではない。
著者
松尾 健治
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F45-1-F45-8, 2019 (Released:2019-09-26)

本研究の目的は,「レトリカル・ヒストリー(rhetorical history)」についての近年の研究蓄積の状況を検討したうえで,意図せざる結果や失敗のメカニズムといった論点が従来見過ごされてきたことを示し,今後の研究に向けた展望を提示することである。レトリカル・ヒストリーは「企業の重要なステークホルダーを管理するための説得戦略として過去を戦略的に用いること」と定義され,正当性の確保,あるいは組織アイデンティティや組織のレピュテーションの管理といった目的で実践される。しかしながら既存研究では,意図せざる結果,とりわけ失敗に関する研究蓄積が欠けていた。その理由としては,当事者が協力を忌避しがちであることや,歴史を物語る際の聴き手の反作用についての考慮が不十分であるといったことが考えられる。本稿ではこうした問題意識に基づいたうえで,今後,意図せざる結果や失敗についての研究を蓄積していく上で必要な方法論に関する考察を行う。
著者
福原 康司 間嶋 崇 堀野 賢一郎
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F15-1-F15-9, 2019 (Released:2019-09-26)

本稿は,専修大学が実施しているリーダーシップ開発に関するプログラム(専修リーダーシップ開発プログラム)の有効性と課題を定量的・定性的に検討することを目的とする。同プログラムは,リーダーシップ能力の養成を目指し,学部横断的に実施している課外プログラムである。同プログラムでは,その質の向上のため,学習転移の議論を意識し,実践文脈の提供やリフレクションの多様な促しなど試行錯誤を繰り返してきた。しかし,定量的な調査の結果,人間関係構築力の向上において効果が見られたものの,リフレクション能力の向上という点で本プログラムの脆弱性が判明した。さらに,定性的な調査を通じ,グループ・リフレクションの機会の適切な提供などがこの問題の解決の糸口になろうことが俄かに分かってきた。
著者
安達 房子
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F10-1-F10-7, 2019 (Released:2019-09-26)

テレワークとは,パソコンに代表されるコンピュータとインターネットを使って,空間的・時間的な制約を克服した働き方である。テレワークには,在宅勤務,モバイル勤務,サテライトオフィスや自社オフィスなどを使った勤務形態などがある。本稿ではテレワークを,企業と雇用関係をもつ労働者の働き方という狭義の意味でとらえている。 このようなテレワークを組織マネジメントの視点から分析する視点として,本稿ではバーナード=サイモン理論を基礎にしつつ,その研究成果を受け継いできた情報処理アプローチを整理し,意味形成アプローチを展開している。本稿では,安達(2016)『ICTを活用した組織変革』を踏まえて,共通認識・共感・共有ビジョンと組織文化の関係について論及した。
著者
李 東浩
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F39-1-F39-8, 2019 (Released:2019-09-26)

本論文は,従来の模倣か創造かという二者択一的な見方と一線を画して,組織学習理論と組織能力理論の視角から,模倣と創造の両者におけるダイナミックなスパイラル上昇進化関係に焦点を合わせ,模創(もそう: imicreation)という理論概念と模創モデル(ダイクモデル:DAIC Model)を提起し,模倣と創造の理論フレームワークを構築する。模創は複製型模倣(DI:Duplicative Imitation),適応型模倣(AI:Adaptive Imitation),模倣型革新(II: Imitative Innovation),創造型革新(CI:Creative Innovation)の4モードから構成される。学習構造の面では「複製→活用→再結合→探索」といったダイナミックなサイクル(RERE Cycle)を導入し,知識能力の面では「何をするか→如何にするか→何故なのか→するかどうか・何時か」といったダイナミックなサイクル(WHWW Cycle)をも導入し,この2つのサイクルを行いながら,常に高いステージへの進化を目指すことを説明する。
著者
青木 幹喜
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F42-1-F42-9, 2019 (Released:2019-09-26)

本研究では,「日本企業においてマネジャーがエンパワリング・リーダーシップをとるのは,どのような要因によって影響されるだろうか」というリサーチ・クエスチョンを明らかにするために,実証研究を行った。マネジャーがエンパワリング・リーダーシップをとるかどうかに影響を与える要因として,マネジャー自身の特徴(プロアクティブ性向,仕事の負担),部下の特徴(プロアクティブ性向,成熟度),そしてタスクの特徴(不確実性,依存性)を取り上げ,これら3つの要因がエンパワリング・リーダーシップへ影響を与えると予測した。日本の製造企業の製造現場で勤務する従業員を対象にしたアンケート調査を行い,データを入手し,そのデータを分析した結果,マネジャー自身の特徴のうち,マネジャー自身がプロアクティブ性向を持つかどうかが,マネジャーがエンパワリング・リーダーシップをとるかどうかにもっとも影響を与えることがわかった。
著者
三崎 秀央
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F26-1-F26-9, 2019 (Released:2019-09-26)

本稿は戦略と人事との適合および戦略の明示が手続的公正に対して与える影響について,大量サンプルを用いた定量的分析によって明らかにするものである。筆者のこれまでの一連の研究では,人事の適合および戦略の明示が手続的公正に対して正の影響を与えることを一貫して示してきた。本稿では,評価や報酬,配置など人事をより詳細な次元で測定することでより具体的なインプリケーションを得ることができた。評価や昇進,配置などの人事と戦略の適合は,手続的公正に対して直接的な影響を与えていた。一方で,報酬と戦略の適合は,直接的な影響ではなく,戦略の明示と交互作用効果を示した。本稿の分析結果を端的に要約すると,組織の価値観を示す戦略を組織成員に対して明示することによって手続的公正が高まること,戦略と人事を適合させることによって手続的公正が高まること,報酬など一部の人事施策については,戦略適合だけでは効果を発揮せず,戦略の明示が必要であることなどが示された。
著者
志賀 敏宏
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F29-1-F29-9, 2019 (Released:2019-09-26)

イノベーションにおいて,偶然が重要な要素となるセレンディピティに関して,偶然の役割の核心を明らかにした。それは「偶然が,含意する真理を示し,人がそれに気付くこと」,あるいは「偶然が思考の触発契機となり,潜在的に継続していた思考において,創造が瞬時に成就すること」である。左記の核心の存否によってセレンディピティを識別した上で,偶然が創造活動(科学的創造,技術革新,市場創造)のどの分野に生起するか,加えて仮説構築過程または仮説検証過程のいずれに作用するかによってセレンディピティの六類型を抽出した。以上により,今後のセレンディピティ研究の全体フレームを提示する。
著者
鈴木 信貴
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F32-1-F32-7, 2019 (Released:2019-09-26)

企業,産業の海外シフトが進む中,地域の産業集積はどのようなプロセスのもとで再生が可能になるか。この問いに対し故天野倫文東大准教授は新潟県中越地域を事例として一連の研究を行った。先行研究は,成長している企業は地元業者との分業関係のもとに,自らは開発に特化しニッチ分野で高い競争力を持つ製品を開発し販売を東アジアに広げ受注を伸ばしていることを明らかにし,これらの企業の成長とともに産業集積が再生へ向かっていると論じた。 本研究は,先行研究から10年以上が過ぎた今,先行研究どおりに産業集積は再生したのかという問題意識のもとに,その検証を試みた。先行研究の調査後も一連の企業,産業集積はおおむね先行研究の方向で成長していた。しかし,リーマンショックにより,どの企業も壊滅的な打撃を受け,特に東アジア,ニッチ分野に力を入れていた企業は,その影響が大きかった。リーマンショック後,各社はそれぞれ経営体制を大きく変えることにより業績を戻し,そのことにより産業集積が新たな形で再び再生へと向かっていることが明らかになった。
著者
竹野 忠弘
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F12-1-F12-8, 2019 (Released:2019-09-26)

「改善」主義への疑問=「かんばん」のない場合の「改善」運用問題 中小製造業企業経営において,「作業改善」活動のみがもちこまれてしまうと人員削減や事業そのものの廃業・転業などの問題を招くことが地元企業経営者やコンサルタントから指摘されてきた。すなわち量販量産の必要性がない場合や受注が「平準化」されていない場合,現場改善した中小企業は,少量の注文を効率的にこなすだけの「縮小均衡」に陥ると指摘されてきた。本論文では,こうした状況について,想定事例に基づき算術的に検討する。すなわち,現場「改善」の生じる利益は,新規事業開拓がされない場合,人件費の削減分として得られることを示す。その結果,「改善」は経営者には「利益」をもたすが,従業員には事業縮小と人員削減という不利益をもたらすことを指摘する。企業全体が事業を存続させ相互的な利益を得るには,経営側には「平準化」された注文を開拓できる製造体制づくりが必要となる。最後に,そのための改革・戦略の方向性について検討し提示する。
著者
宮重 徹也
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F13-1-F13-7, 2019 (Released:2019-09-26)

本研究では,バイオ医薬品企業のパイオニアであるアムジェン社とジェネンテック社の 2社の事例から,バイオ医薬品の研究と開発が規模的に分離する傾向にあることを明らかにする。 まずは,医薬品企業の研究開発を分析した既存研究をまとめるとともに,低分子化合物医薬品とバイオ医薬品のそれぞれの研究開発プロセスを説明のうえ,バイオ医薬品の研究開発における特質を示す。続いて,バイオ医薬品企業であるアムジェン社の計量分析から,バイオ医薬品の研究と開発が規模的に分離していることを明らかする。さらに,アムジェン社とジェネンテック社の事例分析から,バイオ医薬品の研究と開発が規模的に分離していることを明らかにしていく。なお,アムジェン社については独立企業であり計量分析データが収集できたが,ジェネンテック社はロシュ社の子会社となっており,同社単独の計量分析データが収集できなかったため,計量分析は実施していない。