著者
伊東 昌子 平田 謙次 松尾 陸 楠見 孝
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.305-312, 2006-10-15 (Released:2010-03-15)
参考文献数
30

個人営業における熟達を, ATS理論に基づき知識スリップを制御する準備行為の観点から検討した. 実験では, 事務機器販売領域の高成績者と平均的成績者がビデオ視聴により顧客情報を把握したうえで, 初回商談前の準備行為を報告した. 次に, 彼らは商談場面 (営業担当者が顧客の話を十分に聞かずに提案を勧めたため顧客は興味を失う) を視聴して, 担当者の不適切行為の診断と自分が行う行為を報告した. その結果, 高成績者は, 急がずに顧客の問題状況を理解するとの趣旨と行為目標を定め, 彼らの診断も商談行為も趣旨と目標に沿っていた. 平均的成績者では, 顧客ニーズの発見と関係の構築が趣旨と行為目標であり, 彼らの商談行為はニーズを問う点では目標に沿っていたが, 得た個別ニーズに対し早くも解決案を示す状況行為が報告された. この結果は, 商談前に生成される趣旨や行為目標が熟達により異なることと, その差が知識スリップの制御に影響することを示唆する.