著者
松岡 教理 盛 佐紀子
出版者
弘前大学農学生命科学部
雑誌
弘前大学農学生命科学部学術報告 (ISSN:13448897)
巻号頁・発行日
no.13, pp.15-21, 2011-02

サンショウウオ6種の系統類縁関係をタンパク電気泳動法によるアロザイム分析により調査した。分析した6種は、Hynobius tokyoensis(トウキョウサンショウウオ)、H. nebulosus(カスミサンショウウオ)、H. lichenatus(トウホクサンショウウオ)、H. leechii(チョウセンサンショウウオ)、H. kimurae(ヒダサンショウウオ)、Onychodactylus japonicus(ハコネサンショウウオ)である。10酵素とgeneral proteinのアロザイム分析により、35遺伝子座が検出された。35遺伝子座における対立遺伝子頻度から、6種の集団内の遺伝的変異を推定した。その結果、平気ヘテロ接合体率(H)は、H=11.1-32.0%の範囲にあり、平均値はH=21.6%であった。これらの数値は他の多くの生物種での値と同等のものであった。Hynobius属5種間のNei(1972)の遺伝距離(D)は、D=0.396-1.094の範囲で、平均値はD=0.827であった。一方、Hybobius 5種とOnychodactylus属間の遺伝距離は大きく、同科別属間での遺伝距離と同等な数値であった。Nei(1972)の遺伝距離からUPGMA法により作成したサンショウウオ6種の分子系統樹から、以下の事が判明した。Hynobius属とOnychodactylus属の6種は2つの大きなクラスターに分かれた。1つは、H. tokyoensis、H. nebulosus、H. lichenatus、H. leechiiからなるクラスターであり、他は、H. kimuraeとO. japonicusからなるクラスターであった。最初のクラスターで、H. tokyoensisとH. nebulosusが最も近縁関係にあり、次に、このクラスターに近縁な種はH. lichenatusで、H. leechiiは最も遠い関係にあった。一方、2番目のクラスターでは、日本固有種のH. kimuraeとO. japonicusが1つのクラスターを形成したが、遺伝的にはかなり分化していた。
著者
松岡 教理
出版者
弘前大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1.日本産ヒトデ科の普通種である5属5種(キヒトデ、エゾヒトデ、ニッポンヒトデ、ヤツデヒトデ、タコヒトデ)の系統類縁関係をタンパク電気泳動法により調査した。15酵素の分析から31遺伝子座が得られ、各遺伝子座における対立遺伝子頻度のデータより、遺伝的距離を計算し、分子系統樹を作成した。その結果、(1)5種は系統的に大きく3つのグループに分かれる。(2)5種の中で最も近縁関係にあるのがキヒトデとタコヒトデである。(3)次に近縁関係にあるのが、エゾヒトデとニッポンヒトデである(4)一方、ヤツデヒトデは5種の中で最も遠い関係にある。これらの結果は、酵素の抗体を用いた免疫学的研究とよく一致するが、形態学的研究に基づくFisher等の分類体系は支持しなかった。また、分子系統樹より5種の進化のプロセスを推定すると、ヤツデヒトデが最も祖先形に近い種であり、一方、キヒトデとタコヒトデは新しい進化学的起源を有する種であると推定される。また、多腕で特異な形態を示すタコヒトデが、5腕の標準的な外部形態を持つキヒトデータイプのヒトデから進化してきた可能性も示唆された。2.サンショウウニ科2属4種の系統関係を同様の方法により調査した。16酵素30遺伝子座から遺伝距離を求め、分子系統樹を作成した。その結果、(1)サンショウウニとハリサンショウウニが最も近縁である。(2)キタサンショウウニは上記2種とかなり遺伝的に分化している。(3)コシダカウニは最も遠縁である。これらの知見は動物地理学的証拠とよく一致する。3.北日本にごく普通に見られるキタムラサキウニとイトマキヒトデの陸奥湾の浅虫集団と日本海側の深浦集団の計4集団について、2地域集団間の遺伝距離を同様の方法で求めた。その結果、浅虫集団と深浦集団間の遺伝距離から推定した分岐年代は、陸奥湾と津軽海峡の形成時期とほぼ一致した。
著者
松岡 教理
出版者
弘前大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.沖縄産ナガウニには、棘の色や習性等の違いにより4つの異なるタイプ(AーDタイプ)が存在している。これら4タイプの系統進化学的関係を蛋白質電気泳動法により調査した。その結果、検出された15酵素28遺伝子座の内、7遺伝子座において、4タイプで異なる対立遺伝子が固定されていた。これは、4タイプが互いに生殖的に隔離された別種であることを示している。また4タイプ間の遺伝的距離は、D=0.115ー0.224であり、他動物の近縁種間で観察される値であった。また遺伝距離から作成した分子系統樹から、AタイプとCタイプ、BタイプとDタイプが近縁であることが判明した。そして、これら4タイプの祖先型は現在のC・Dタイプのようなナガウニであると推定された。2.棘皮動物門4綱:ウニ、ヒトデ、ナマコ、クモヒトデ類の系統類縁関係については諸説が提案されており、極めて不明な点が多い。申請者はこれら4綱の系統類縁関係を解明するため従来にない新たな分子的手法を試みた。即ち、4群からグルコ-ス6リン酸脱水素酵素(G6PD)を精製し、それらの酵素学的性質を比較し、その類似性を定量化した。その結果得られた分子系統樹から以下のことが示唆された。(1)最も近縁関係にあるのはヒトデとナマコである。(2)次にこのグル-プに近縁なのは、クモヒトデである。(3)ウニは4群の中で最も遠い関係にある。(4)ヒトデとナマコは進化的に新しい棘皮動物群である。(5)一方、ウニは4綱の中では最も古い起源を持つ原始的な棘皮動物である。(6)分子系統樹から棘皮動物の進化の方向性を推定すると、堅い骨格(殻)を持つ防御を主体とするもの(ウニ)から、徐々に骨格を無くし、筋肉系を発達させたもの(ヒトデ、ナマコ)が進化してきたと推測された。