著者
杉山 修一 遠嶋 凪子
出版者
弘前大学農学生命科学部
雑誌
弘前大学農学生命科学部学術報告 (ISSN:13448897)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-6, 2016-01

本研究で,調査した成分は甘み成分である可溶性の還元糖(グルコース,フルクトース,スクロース)と旨味成分であるグルタミン酸,酸味をもたらすリンゴ酸とクエン酸である。また,食味にマイナスの影響を与える硝酸態窒素,健康に良い影響を与える抗酸化能(DPPHラジカル消去能)も調査した。二元配置分散分析の結果,自然栽培ではグルコースとグルタミン酸が有意に高くなり,硝酸態窒素が有意に低くなった。成分含有量の結果から自然栽培の野菜が一般に甘みと旨味成分を多く含む傾向が示され,自然栽培野菜が美味しいという意見を裏付けた。植物の細胞分裂は土壌窒素が低い場合に抑制される。その結果,細胞数の不足により果実や葉などの器官の数と大きさが制限されるため細胞壁などを構成する構造性炭水化物の需要が減り相対的に器官内に蓄積する可溶性糖の濃度が上がることが糖含有量増加の一つの要因と考えられる。つまり,自然栽培では窒素不足で作物の生育が抑制され,結果として糖やアミノ酸が生長に使われずに,余剰となって収穫器官に蓄積されることでうま味を向上させる可能性である。しかし,自然栽培野菜でグルコースやグルタミン酸などが増加する傾向は認められたが,増加のパターンは作物間で大きく異なった。特に,スクロースはトウモロコシでは高くなったが,リンゴでは有意に低下し,その他の野菜ではほとんど差が見られなかった。今回の調査では,抗酸化能を調査した。自然栽培が抗酸化能を向上させるという一般的傾向は見られなかったが,リンゴでは自然栽培が有意に高い抗酸化能を示した。今回調査したリンゴでは,慣行栽培も13年間無肥料で栽培され続けており,自然栽培と慣行栽培の差は肥料より農薬散布の有無である。自然栽培ではほとんどの葉がリンゴの主要な病害である黒星病,斑点落葉病,褐班病などの病斑が見られた。
著者
五十嵐 恵 初山 慶道 松本 和浩 塩崎 雄之輔
出版者
弘前大学農学生命科学部
雑誌
弘前大学農学生命科学部学術報告 (ISSN:13448897)
巻号頁・発行日
no.13, pp.7-13, 2011-02

'紅の夢'は弘前大学藤崎農場で育成されたリンゴ新品種である。このリンゴの果実の特徴は濃い暗紅色の果皮と印象的な淡紅色の果肉を持つことである。'紅の夢'は、'紅玉'と'スターキングデリシャス'との交配により作出されたと記録されていたが、DNAマーカー解析によると、'スターキングデリシャス'は交配親ではないことが明らかになった。さらに、SSRおよびSTSマーカーを用いた遺伝子型解析により、'紅の夢'の親品種のうち一方は'紅玉'、もう一方は藤崎農業に植栽されている樹(赤肉親候補A)である可能性を示した。このリンゴ樹は'エターズコールド'とされていたが、SSR遺伝子型を調査したところ大半がオリジナルの遺伝子型とは異なることから、'エターズゴールド'ではないことが明らかになった。PCRベースのS-RNase解析により、'紅の夢'のS遺伝子型は、S3S7と既存品種の'つがる'や'未希ライフ'と同一であることが明らかになった。この結果から、'紅の夢'は日本で栽培されている多くの品種と交雑和合性があると考えられた。
著者
松岡 教理 盛 佐紀子
出版者
弘前大学農学生命科学部
雑誌
弘前大学農学生命科学部学術報告 (ISSN:13448897)
巻号頁・発行日
no.13, pp.15-21, 2011-02

サンショウウオ6種の系統類縁関係をタンパク電気泳動法によるアロザイム分析により調査した。分析した6種は、Hynobius tokyoensis(トウキョウサンショウウオ)、H. nebulosus(カスミサンショウウオ)、H. lichenatus(トウホクサンショウウオ)、H. leechii(チョウセンサンショウウオ)、H. kimurae(ヒダサンショウウオ)、Onychodactylus japonicus(ハコネサンショウウオ)である。10酵素とgeneral proteinのアロザイム分析により、35遺伝子座が検出された。35遺伝子座における対立遺伝子頻度から、6種の集団内の遺伝的変異を推定した。その結果、平気ヘテロ接合体率(H)は、H=11.1-32.0%の範囲にあり、平均値はH=21.6%であった。これらの数値は他の多くの生物種での値と同等のものであった。Hynobius属5種間のNei(1972)の遺伝距離(D)は、D=0.396-1.094の範囲で、平均値はD=0.827であった。一方、Hybobius 5種とOnychodactylus属間の遺伝距離は大きく、同科別属間での遺伝距離と同等な数値であった。Nei(1972)の遺伝距離からUPGMA法により作成したサンショウウオ6種の分子系統樹から、以下の事が判明した。Hynobius属とOnychodactylus属の6種は2つの大きなクラスターに分かれた。1つは、H. tokyoensis、H. nebulosus、H. lichenatus、H. leechiiからなるクラスターであり、他は、H. kimuraeとO. japonicusからなるクラスターであった。最初のクラスターで、H. tokyoensisとH. nebulosusが最も近縁関係にあり、次に、このクラスターに近縁な種はH. lichenatusで、H. leechiiは最も遠い関係にあった。一方、2番目のクラスターでは、日本固有種のH. kimuraeとO. japonicusが1つのクラスターを形成したが、遺伝的にはかなり分化していた。
著者
吉田 渉 玉井 敦司 谷中 俊広 石田 幸子
出版者
弘前大学農学生命科学部
雑誌
弘前大学農学生命科学部学術報告 (ISSN:13448897)
巻号頁・発行日
no.4, pp.16-23, 2002-03-27

We indicated that the breeding season of Stichopus japonicus Selenka living in Mutsu Bay is from May to August based on the analysis of several reports. The adult sea cucumbers transferred from cool sea water (10℃) to warm sea water (20℃) started ejaculation and spawning within an hour. In the artificial induction, the best season may be during the end of May to the first ten days of June, because of the large number of mature eggs were collected from an adult sea cucumber. The number is about 3,000,000 eggs per individual. The normal development was as follows:(1)blastula:(13 hrs after fertilization), (2)gastrula:(19-30 hrs),(3)auricularia:(2-9 days),(4)doliolaria:(15-16 days),(5)pentactula:(18-22 days). When sea cucumber larvae were bred in the condition added Chaetoceros gracilis and commercial tropical fish food (TetraMin禾 baby) at low density (a larva / ml) in filtration sea water, they grew up into juvenile sea cucumbers. In this paper we reported the table of the stages in the normal development of sea cucumber, Stichopus japonicus Selenka under such conditions at 20℃.
著者
Kumpoun Wilawan Motomura Yoshie
出版者
弘前大学農学生命科学部
雑誌
弘前大学農学生命科学部学術報告 (ISSN:13448897)
巻号頁・発行日
no.4, pp.31-36, 2002-03-27

リンゴやモモの貯蔵病害の一つとして,Aspergillus 菌によるコウジカビ病が知られている。本報では,24種類の果実の果肉から熱水で抽出したペクチン性多糖類に,Aspergillus niger 由来のペクチナーゼを作用させ,その前後の多糖類の分子量分布をゲル濾過によって分析した。得られた溶出パターンの中でピークの変化の程度によって,ペクチン分子のペクチナーゼによる分解の難易を比較した。リンゴ,ウメ,マンゴーではピークの低分子側への変化が大きかったが,アボカド,ドリアン,ブドウ,キーウィー,ビワ,メロン,ライチー,パパイヤ及びランブータンでは変化が小さかった。マンゴーとパパイヤの未熟果と成熟果のペクチン性多糖類のこの酵素による分解性を見たところ,成熟段階に関わらず,マンゴーでは分子量の減少が大きかったが,パパイヤではほとんど変化が見られなかった。ペクチン性多糖類の同一酵素による分解性に差異が生じる原因について,細胞壁多糖の組成や構造の種特異性などの可能性を考察した。