著者
松木 順子
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, 2010-05-15
被引用文献数
4

1982年,Englystらは,アミラーゼ耐性澱粉を難消化性澱粉resistant starch (RS)と名付けた.現在では,1992年EURESTA (RS摂取の生理学的意義に関するヨーロッパ農産業食品関連研究共同作業部会)で定められたRSの定義「健康なヒトの小腸内での酵素消化作用を逃れる澱粉および澱粉分解産物の総量」が広く受け入れられている.<BR>Englystらは澱粉を消化性別に3種に分類し,さらにRSを要因別に3種<SUP>1) </SUP>(後にBrownらにより4種<SUP>2) </SUP>)に分類した(表).RS<SUB>1</SUB>は細胞壁などで物理的に閉じこめられて,消化酵素が接触できない状態のものである.RS<SUB>2</SUB>はX線結晶回折図形がB型を示す生澱粉である.澱粉粒に穴が少ない,結晶部分のアミロペクチンの側鎖長が長く分岐が少ないことなどがRS<SUB>2</SUB>の難消化性の原因と言われるが,詳細は未解明である.RS<SUB>3</SUB>は,一度糊化した澱粉が再結晶して安定な構造をとるようになった老化澱粉である.湿熱処理澱粉,パーボイル加工澱粉,プルラナーゼ処理澱粉なども含まれる.RS<SUB>4</SUB>は化工によりエステル架橋,エーテル架橋などを施して消化性を低くしたものであり,食品加工後も難消化性を保つことができる.<BR>RSの定量は,消化性の澱粉を取り除いた後に残る非消化性澱粉を定量して行う.Megazyme社が販売しているRS測定キットは,AOACおよびAACCの公定法として認められている.<BR>RS<SUB>2</SUB>, RS<SUB>3</SUB>, RS<SUB>4</SUB>は市販されており,これらは一般的に無味,白色で,糊化温度が高く,エクストルーダー加工性,フィルム形成性がよい.非水溶性食物繊維に比べても保水性が低く,食品素材として小麦粉などと一部置換したときの加工性への影響も少ない.また,焼成品へのカリカリした食感や歯ごたえの付与が可能となる.<BR>RSの生理作用として,血糖応答性およびインスリン応答性の改善,腸機能の改善,血中脂肪に関する症状の改善,プレバイオティクス,シンバイオティクスとしての機能などが注目されている.RSを多く含む食品からのグルコースの遊離は緩やかであり,短期的には食後血糖値上昇の抑制,食後インスリン応答の抑制,満腹感の持続などが報告されている.また,インスリン応答の抑制により,貯蔵脂肪の消費促進が期待され,長期的には,2型糖尿病や耐糖能異常などの症状の改善と予防,肥満や体重の管理に役立つことが期待される.消化を免れて大腸に達したRSは,腸内微生物により酪酸を中心とした短鎖脂肪酸(SCFA)となる.SCFAは大腸上皮細胞の主要なエネルギー源となり,上皮細胞の増殖速度を上げて細胞数を維持する.また,消化管の血流量増加,空腸の蠕動運動の促進,結腸内pH低下,炎症反応の抑制,ガン細胞の増殖抑制など,腸の機能に影響を及ぼす.RSの種類別の効果,ヒトでの長期的な効果の検証が待たれる<SUP>3) </SUP>.<BR>RSは,アレルギー反応を起こすという報告もない.食品中の澱粉の一部をRSで置き換えることにより,食事の質を保ちながらカロリーを減らし,さらに食品からのグルコースの遊離を遅くすることができる.生活の質を高め,疾病リスクを低減する機能性食品の素材として,多岐にわたる応用が期待される.
著者
松木 順子 熊倉 克元 石橋 晃
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.463-467, 2010-04

飼料学。飼料原料。イネ科スズメガヤ属の一年生作物。エチオピア独特の雑穀で、栽培起源も同国である。祖先野生種は世界の温帯、亜熱帯、熱帯に広く分布するオオニワホコリであるという説が最も有力である。これは日本でも平地の草原や畑地に雑草として生えている。草丈は30〜150cm、穂はよく分枝して広がるものからコンパクトなものまで、様々な型のものが見られる。8週間から約6ヵ月程度で成熟する。脱粒性のものが多い。種子は非常に小さく、長さ1〜1.5mm、幅0.8〜1mm程度で、イネ科穀物のうちで最小である。テフの呼び名はアムハラ語で「見失ってしまう」のという意味の語に由来する。2n=40の四倍体である。種皮色によって白色種子と赤色種子の品種群に分類される。エチオピアでは、製粉してインジェラと呼ばれる半発酵の薄焼きパンにする。わらは牧草としての利用があり、ケニア、南アフリカ、オーストラリアでも栽培される。鉄分、マグネシウム、リンなどのミネラル分が豊富で、セリアック病を起こすグルテン画分を含まないことから注目されている。
著者
松木 順子
出版者
日本応用糖質科学会
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.284-290, 2018 (Released:2019-05-17)