著者
松本 剛次
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.179, pp.109-123, 2021-08-25 (Released:2023-08-26)
参考文献数
31

本報告は,国内の大学における日本語教育の現状について,「学士力」との関係から検討したものである。大学数,大学進学者数が増加した現在,大学には,「質の保証」が強く求められている。そしてその際の一つの指針となっているのが「学士力」という考え方である。 国内における大学での日本語教育も,当然その例外ではない。しかし日本語教育の場合,その主な対象が日本語を母語としない留学生であるため,大学での教学マネジメントの観点からは,日本語教育を通しての学士力の育成という側面が注目されることはあまりなかった。しかし,近年では,学士力の育成につながる日本語教育の実践報告も増えてきている。本報告ではそれらの新しい動きを整理した上で,長年,大学における教学マネジメントの外に置かれていた日本語教育だからこそ,学士力の育成に関与しながらも,学士力というもの自体を批判的に再検討することが可能であるということを論じる。
著者
松本 剛次
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.97-111, 2014 (Released:2017-02-17)
参考文献数
19

インドネシアの中等教育では,2004年発表の「普通高校・宗教高校カリキュラム」以降,「能力を基盤とするカリキュラム」という考え方が唱えられてきた。そこでは「変化や複雑さ,不確実さに対応できる能力の育成」が重視され,日本語の授業もそれに貢献するものとされた。 しかしこのような考え方は,実際の授業に取り入れられることはあまりなかった。それが近年になり,教育系大学による新たな教師研修・教師養成制度の開始や,それに伴う「PAIKEM(活動・革新・創造・効果的で楽しい授業)」・「科学的アプローチ」といった方法論の紹介などを通して,次第に現場の教師にも理解されるようになってきている。アクション・リサーチ,レッスン・スタディなどの報告も増えている。 「能力の育成に貢献する日本語教育」という考え方はインドネシアの中等教育に限定されるものではない。今後それらが連携していくことで,さらなる進展が期待できる。
著者
松本 剛次/ハシブアン アドレアナ Adriana Hashibuan
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-14, 2006-03-15

インドネシア語には、日本語の「受身」と同じものだと理解されることが多い「di-構文」というものがある。田中(1991)は両者の違いを整理し、「di-構文を自然な日本語に移すときの規則」を提示しているが、本調査はその「規則」が明示的に指導されていない状況で、インドネシア人日本語学習者はどの程度それを習得しているのか、また、規則を明示的に指導することには効果があるか、という点について予備調査的に調べたものである。その結果、学習者は単純に「インドネシア語のdi-構文」=「日本語の受身構文」というわけではない、ということは自然に分かってくるものの、「規則」の習得までがスムーズに進むというものではない、ということ、また、明示的に規則を指導した場合には、その場での効果はあるが定着はむずかしく、一方、暗示的な指導が繰り返される場合には少しずつではあるが、徐々に習得が進む可能性がある、ということが見えてきた。
著者
松本 剛次
出版者
独立行政法人国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.1, pp.103-113, 2005-03-15

本報告は国際交流基金派遣日本語教育専門家である筆者のインドネシア・スマトラ地区における日本語教育ネットワーク支援活動の基本的な考え方とその実践例について報告したものである。筆者はネウストプニー(1997: 181)による「ネットワーク」の考え方に倣い日本語教育ネットワーク支援活動を「日本語教育という活動に参加する者の配置と係わり合いをより活性化するための支援」と捉えて実践している。現在のところその支援の舞台は既に存在している各種の「教師会」であるが、筆者が観察した結果、これらの教師会には「形骸化」、「固定化」、「階層化」が見られ、ネットワークがネットワークであるためには不可欠である参加者の「配置と関わり合い」が停滞している、という問題が確認できた。そこで筆者は春原(1992)による「ネットワーキング・ストラテジー」という考え方を参考に、いくつかの「戦略」を立て、その改善に取り組んでいる。