著者
松本 重貴 瀬波 大土
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.265-272, 2008-04-05

近年における宇宙論観測の飛躍的な発展のおかげで,我々の宇宙には確かに暗黒物質が存在することが明らかになった.しかしながらその正体については全く不明であり,物理学における最も興味深いミステリーの一つとなっている.一方,素粒子および宇宙論の分野において,理論的な観点から,数多くの暗黒物質の候補が提案されている.その中の一つに,TeVスケールに余剰次元を持つ高次元理論の予言する暗黒物質がある.本稿では,この暗黒物質に焦点を当て,この物質がどのような性質を持つか,また近い将来の観測や実験においてどのように検出され得るかについて,最近の話題を含め紹介する.
著者
松本 重貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

暗黒物質の有力な候補の一つとして、Neutralino LSPがある。このNeutralino暗黒物質を職説、間接的に捕らえようとする観測が現在行われており、また多くの将来観測も計画されている。これらの観測のうち、我々の銀河のハローにおけるNeutralinoの2光子へ対消滅からくるガンマ線の観測は、背景ガンマ線に対して特長的なシグナル(Line signal)を示し、またその観測から暗黒物質の性質も精度よく決まることから注目を集めている。この対消滅過程は輻射過程であり、1-loopの計算はすでに行われている。この計算により、NeutralinoがHiggsino-likeあるいはWino-likeで比較的重い質量であるとき(数百GeV以上)、断面積はWボソンの質量でのみ抑制され、Neutralinoの質量に依存しなくなることが明らかになった。これは、もしNeutralinoが重いとすると、この観測は他の観測に比べ非常に有効になる事を意味する。一方、この素過程は理論のユニタリティーにより上限がつく。実際この制限はNeutralinoの質量の2乗に反比例している。このため質量が充分大きくなると、どこかで1-loopの計算は破綻し高次の影響と取り入れる必要が出てる。今回、Neutralinoの質量から2光子への対消滅断面積に対する高次の影響について調べた。具体的には、非相対論的場の理論の手法を応用し、これら高次の影響を比較的簡単に計算する事の出来る有効ラグランジアンを構成した。またこのラグランジアンを用いて、NeutralinoがHiggsino-like及びwino-likeの時に、どのくらいの質量で1-loopの計算が使えなくなるかを定量的に評価した。結果、wino-likeの時には約10TeV以上、Higgsino-likeの時には約1TeV以上のときに、1-loopの計算が破綻することを明らかにした。
著者
藤井 恵介 岡田 安弘 兼村 晋哉 高橋 徹 山本 均 山下 了 松本 重貴
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は、LHCの結果を踏まえ、テラスケールの物理の全容解明のため電子・陽電子リニアコライダー(ILC)が果たすべき役割を明確化しILCが取るべき具体的物理研究戦略を確立、もってILC計画早期実現に供することにある。本研究によって、ILCでは、3つの主要プローブ:ヒッグス、トップ、新粒子直接探索により、LHCから得られる知見を質的に新しい段階へと押し上げる重要な情報を提供する研究が可能となることが明らかになった。本研究で得られた成果は、ILC技術設計書物理の巻の中核をなし、欧州戦略、米国戦略(スノーマス研究)の策定のための入力として重要な役割を果たし、ILC計画実現に向け大きく貢献した。