- 著者
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松本 靖
後藤 幸弘
- 出版者
- Japanese Society of Sport Education
- 雑誌
- スポーツ教育学研究 (ISSN:09118845)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.2, pp.89-103, 2007
小学校5年生児童を対象に、戦術の系統に基づいて考案した7つの「課題ゲーム」を中心とする学習過程を適応した実験群 (TG群) と、「5対5のミニゲーム」とゲームで発見した課題を練習する学習過程を適応した対照群 (NG群) を設定し、両群の学習成果を比較した。結果は以下の通りである。<br>1) 個人的技能 (8の字ドリブルの得点、ボールリフティング回数、トラップ回数、ならびにパスの正確性) は、両群ともに向上が認められた。<br>2) 集団的技能 (攻撃完了率、仲間との関わり率、連係シュート率) は、両群ともに向上した。しかし、TG群では単元後半に顕著な向上を示し、NG群との間に有意差がみられるようになった。<br>3) シュートに至るプレーパターン (8種類) の出現種類には、両群間に差はみられなかった。しかし、スルーパス、ワンツー、ポスト、およびオーバーラップからのシュートの出現頻度は、TG群では増加したが、NG群には増加はみられなかった。また、相手クリアーミスとドリブルからのシュートの出現頻度は、TG群では減少したが、NG群では前者は増加し、後者には変化はみられなかった。<br>4) 単元終了時における戦術行動の出現頻度は、いずれもTG群の方が多く、スルーパス、ポストにおいて顕著な差がみられた。<br>5) 授業の自己評価は、TG群の方がNG群よりも有意に高値を示した。さらに、記述内容においても、「技や力の伸び」では、TG群はパスの正確性に関することが多く、NG群は個人技能に関することの多いことが認められた。また「新しい発見」では、TG群はボール非保持者の動きに関することが多く、NG群は守備の仕方に関することが多く認められた。さらに、「楽しさ」では、TG群は、集団技能に関するものが多いのに対して、NG群は、精一杯の運動、勝敗に関するものが多かった。<br>6) 態度測定の「価値」ならびに「評価」尺度の得点は、TG群の方が高いことが認められた。<br>7) 戦術行動の認識度は、両群ともに有意に向上したが、単元終了時の成績は、攻撃に関わる成績の差によってTG群の方が高値を示した。<br>8) 学習ノートにみる作戦は、TG群では 『スローガン的作戦』 から 『パスパス作戦』 『状況把握攻撃作戦』 に変化した。これに対し、NG群では 『スローガン的作戦』、『役割分担守備作戦』 から 『守備を固めて速攻作戦』 に変化し、守備に焦点化された作戦に終始していた。<br>9) サッカーの学習が楽しかったと答えた児童は、両群ともに増加した。また、その増加は、TG群の女子において顕著に認められた。<br>10) 戦術行動認識度テストと授業の楽しさ得点の間には、有意な相関関係が得られ、戦術に関わる認識が高まり、それをゲームで発揮できるようになれば、児童はサッカーの授業を楽しめるようになることが示唆された。<br>以上のことから、戦術行動の系統を基に考案した「課題ゲーム」を中心とする学習過程は、児童に戦術行動を認識させることによって、個人技能や集団技能を高め、楽しさを感じさせ得ることができ、体育授業に対する愛好的態度をも高め得ることが認められた。<br>ところで、本研究で用いた「課題ゲーム」は、攻撃に焦点をあてて作成し、攻撃の認識の高まりとともに守備の認識の高まりを期待した。しかし、攻撃に関する認識は高め得たが、守備に関する認識度をNG群以上に向上させ得なかったという問題が認められた。これには、守備は受動的になるためゲーム状況を記憶できにくいことに加え、攻撃側に数的優位を保障した本研究の「課題ゲーム」では、完全な防御が不可能であったことの影響が考えられた。この点については、今後さらに検討する必要がある。