著者
田野 聡 鶯 春夫 高岡 克宜 松村 幸治 田岡 祐二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Da0983, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 小胸筋は,第2~5肋骨前面から起こり肩甲骨烏口突起に停止する。筋機能としては,肩甲骨の前傾,下方回旋の他に,吸気補助筋としての作用もある。臨床現場では,姿勢不良や肩こり,また呼吸器疾患においても,小胸筋の短縮または過緊張が認められる場合がある。このことから小胸筋の短縮が,肋骨の位置に影響を及ぼす可能性があると考えられる。そこで本研究では,擬似的に小胸筋短縮位にした状態(以下,小胸筋短縮位)での呼吸時の肋骨の動態を,超音波画像を用いて検討することを目的とした。【方法】 対象は,健常男性13名(年齢25.9±5.1歳)とした。超音波画像は,超音波画像診断装置(東芝,SSA-660A)とリニアプローブ(東芝,PLT-704AT,7.5MHz)を用い,Bモード法により表示した。リニアプローブは,右第4肋骨を標識とし乳頭ライン上に縦方向に置いた。測定肢位は座位で,上肢下垂位を基準肢位(以下,基準肢位)とし,小胸筋短縮位は自動運動にて肩関節を伸展,内転,内旋させることにより,肩甲骨前傾位とした。測定1:基準肢位と小胸筋短縮位での,肋骨の位置の相違をみる目的で,安静呼吸の吸気時と呼気時にそれぞれ分け,その位置を測定した。具体的な方法は,基準肢位における吸気時の第4肋骨の位置と,小胸筋短縮位における吸気時の第4肋骨の位置を比較した。呼気時も同様に実施した。測定2:安静呼吸の呼気時から吸気時までの肋骨の移動範囲をみる目的で,基準肢位と小胸筋短縮位で呼気時から吸気時までの第4肋骨の移動距離をそれぞれ測定した。また,その移動距離を比較検討した。測定3:深呼吸の最大呼気時から最大吸気時までの肋骨の移動範囲をみる目的で,基準肢位と小胸筋短縮位で最大呼気時から最大吸気時までの第4肋骨の移動距離をそれぞれ測定した。また,その移動距離を比較検討した。統計処理はt検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】 対象者には,本研究の主旨および内容を説明し,同意を得てから研究を実施した。【結果】 測定1:小胸筋短縮位の吸気時では,基準肢位吸気時より頭側に5.9±2.5 mm移動した。また,小胸筋短縮位の呼気時では,基準肢位呼気時より頭側に4.4±1.8mm移動した。測定2:基準肢位での肋骨の移動距離は3.2±1.2mmであった。小胸筋短縮位での肋骨の移動距離は2.0±1.1mmであった。小胸筋短縮位は基準肢位に比べ, 肋骨の移動距離は有意に小さかった(P<0.01)。測定3:基準肢位での肋骨の移動距離は8.5±5.4mmであった。小胸筋短縮位での肋骨の移動距離は5.7±4.3mmであった。小胸筋短縮位は基準肢位に比べ, 肋骨の移動距離は有意に小さかった(P<0.05)。【考察】 今回,擬似的な小胸筋短縮位では,測定1の結果より,吸気時,呼気時ともに肋骨が挙上した。小胸筋の短縮により,胸郭と肩甲骨の位置関係に影響を与え,烏口突起に付着する小胸筋を介して,肋骨の挙上変位が起こったと考える。また,測定2,3の結果より,小胸筋短縮位では,安静呼吸時と深呼吸時ともに,肋骨の移動距離は低下した。通常,肋骨は吸気時に挙上し,呼気時には挙上位から下制する。今回,吸気時に肋骨が挙上した後,呼気時において下制の移動が少なかったことにより,肋骨移動範囲が狭くなったと考える。小胸筋は,吸気補助筋として肋骨を挙上させることにより,胸郭を拡張させるといわれている。しかし,常時,小胸筋が短縮した場合,吸気時,呼気時ともに肋骨が挙上した状態であるため,胸郭の拡張は起こりにくくなるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 小胸筋に関しては,胸郭出口症候群や不良姿勢の際に重要視されているが,呼吸に関連した報告は少ない。今回,臨床で遭遇する小胸筋の短縮に対し,呼吸の観点より,その影響を超音波画像を用いて検証した。本研究の結果により,小胸筋短縮が,肋骨挙上を引き起こし,胸郭拡張が制限されると推察された。この結果は,臨床的有用性が高く,理学療法の治療にも反映するため,本研究の意義は大きいと考える。
著者
四宮 克眞 田野 聡 高岡 克宜 野口 七恵 松村 幸治 濵 敬介 鶯 春夫 田岡 祐二
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1290, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】両側人工股関節全置換術後(以下THA)より不良姿勢を呈した症例に対し,姿勢修正のために腰椎と骨盤の分離および連動運動の観点から2週間運動療法を実施するも著変みられなかったため,身体イメージを修正する介入を実施したところ,静的姿勢に変化を及ぼしたので報告する。【症例提示】80代女性。2014年5月左 THA施行,同年8月右THA施行し,当院に9月下旬より入院し運動療法を施した。現在,歩行器歩行監視レベル。ROMは股関節屈曲,伸展,内転,外旋に著明な制限あり。背臥位では骨盤前傾,腰椎前弯位(ベッド面より2横指),立位では過度な骨盤前傾,腰椎前弯位(壁より3横指)を認め,中間位への矯正を指示すると腰椎前弯を助長する結果を招いた。そこで,身体イメージに崩れが生じていると仮説し,症例が描いている身体イメージを明確にするため,紙面上に立位の絵を描写させた結果,腰椎を最凸部にした円背姿勢を描いた。次に,セラピストが描いた腰椎前弯と中間及び後弯位の立位との比較を行った結果,後弯位が自身の立位と答えた為,身体イメージを修正する介入を実施した。【経過と考察】介入開始時,「お尻が出て猫背です。」と実際の姿勢と差がみられたため,視覚と体性感覚情報を用いた介入を行い,視覚情報では,腰椎前弯と中間及び後弯位を図示して,その差を言語表象させた。さらに端座位で各肢位を実演し,矢状・前額面から腰椎と骨盤との位置関係を言語表象させた。体性感覚情報では,背臥位,立位にて腰椎部にスポンジで圧刺激を行い同部位へ体性感覚情報に対する注意を増大させた後に,再度自動運動にて各肢位を再現させた。その結果,背臥位で腰椎・骨盤中間位(ベッド面と接し),立位で骨盤前弯位が減少(壁より1横指)した。本人も,「腰が以前みたいに前に反っているのではなく,しっかり背中がついている。」と改善を表す言語表象がみられた。今回,高齢の両側THA患者の静的な不良姿勢を身体イメージの修正により改善できたことを確認した。