著者
田野 聡 鶯 春夫 高岡 克宜 松村 幸治 田岡 祐二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Da0983, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 小胸筋は,第2~5肋骨前面から起こり肩甲骨烏口突起に停止する。筋機能としては,肩甲骨の前傾,下方回旋の他に,吸気補助筋としての作用もある。臨床現場では,姿勢不良や肩こり,また呼吸器疾患においても,小胸筋の短縮または過緊張が認められる場合がある。このことから小胸筋の短縮が,肋骨の位置に影響を及ぼす可能性があると考えられる。そこで本研究では,擬似的に小胸筋短縮位にした状態(以下,小胸筋短縮位)での呼吸時の肋骨の動態を,超音波画像を用いて検討することを目的とした。【方法】 対象は,健常男性13名(年齢25.9±5.1歳)とした。超音波画像は,超音波画像診断装置(東芝,SSA-660A)とリニアプローブ(東芝,PLT-704AT,7.5MHz)を用い,Bモード法により表示した。リニアプローブは,右第4肋骨を標識とし乳頭ライン上に縦方向に置いた。測定肢位は座位で,上肢下垂位を基準肢位(以下,基準肢位)とし,小胸筋短縮位は自動運動にて肩関節を伸展,内転,内旋させることにより,肩甲骨前傾位とした。測定1:基準肢位と小胸筋短縮位での,肋骨の位置の相違をみる目的で,安静呼吸の吸気時と呼気時にそれぞれ分け,その位置を測定した。具体的な方法は,基準肢位における吸気時の第4肋骨の位置と,小胸筋短縮位における吸気時の第4肋骨の位置を比較した。呼気時も同様に実施した。測定2:安静呼吸の呼気時から吸気時までの肋骨の移動範囲をみる目的で,基準肢位と小胸筋短縮位で呼気時から吸気時までの第4肋骨の移動距離をそれぞれ測定した。また,その移動距離を比較検討した。測定3:深呼吸の最大呼気時から最大吸気時までの肋骨の移動範囲をみる目的で,基準肢位と小胸筋短縮位で最大呼気時から最大吸気時までの第4肋骨の移動距離をそれぞれ測定した。また,その移動距離を比較検討した。統計処理はt検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】 対象者には,本研究の主旨および内容を説明し,同意を得てから研究を実施した。【結果】 測定1:小胸筋短縮位の吸気時では,基準肢位吸気時より頭側に5.9±2.5 mm移動した。また,小胸筋短縮位の呼気時では,基準肢位呼気時より頭側に4.4±1.8mm移動した。測定2:基準肢位での肋骨の移動距離は3.2±1.2mmであった。小胸筋短縮位での肋骨の移動距離は2.0±1.1mmであった。小胸筋短縮位は基準肢位に比べ, 肋骨の移動距離は有意に小さかった(P<0.01)。測定3:基準肢位での肋骨の移動距離は8.5±5.4mmであった。小胸筋短縮位での肋骨の移動距離は5.7±4.3mmであった。小胸筋短縮位は基準肢位に比べ, 肋骨の移動距離は有意に小さかった(P<0.05)。【考察】 今回,擬似的な小胸筋短縮位では,測定1の結果より,吸気時,呼気時ともに肋骨が挙上した。小胸筋の短縮により,胸郭と肩甲骨の位置関係に影響を与え,烏口突起に付着する小胸筋を介して,肋骨の挙上変位が起こったと考える。また,測定2,3の結果より,小胸筋短縮位では,安静呼吸時と深呼吸時ともに,肋骨の移動距離は低下した。通常,肋骨は吸気時に挙上し,呼気時には挙上位から下制する。今回,吸気時に肋骨が挙上した後,呼気時において下制の移動が少なかったことにより,肋骨移動範囲が狭くなったと考える。小胸筋は,吸気補助筋として肋骨を挙上させることにより,胸郭を拡張させるといわれている。しかし,常時,小胸筋が短縮した場合,吸気時,呼気時ともに肋骨が挙上した状態であるため,胸郭の拡張は起こりにくくなるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 小胸筋に関しては,胸郭出口症候群や不良姿勢の際に重要視されているが,呼吸に関連した報告は少ない。今回,臨床で遭遇する小胸筋の短縮に対し,呼吸の観点より,その影響を超音波画像を用いて検証した。本研究の結果により,小胸筋短縮が,肋骨挙上を引き起こし,胸郭拡張が制限されると推察された。この結果は,臨床的有用性が高く,理学療法の治療にも反映するため,本研究の意義は大きいと考える。
著者
平澤 小百合 高田 将輝 仁田 裕也 板東 杏太 尾﨑 充代 高木 賢一 吉岡 聖広 髙田 侑季 藤井 瞬 佐藤 央一 丸笹 始信 勝浦 智也 鶯 春夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B3O1078-B3O1078, 2010

【目的】15番染色体異常が原因とされるプラダー・ウィリー症候群(以下PWS)の特徴は運動、神経、精神症状等と多岐にわたるが、特に満腹中枢機能不全からなる過食による肥満や感情コントロール困難は思春期以降の問題となりやすく、確立した治療法のない現状では日常生活管理が不可欠である。今回PWSを基礎疾患とした男性が過食と感情爆発からなる不適切行動による悪循環で推定体重160kg以上となり、結果、低換気症候群・低酸素脳症を発症し寝たきり状態となった症例を担当した。入院時対応に難渋した症例に対し行動分析学的介入により日常生活動作(以下ADL)向上がみられ在宅生活へとつながった経験をしたので若干の知見を加え報告する。<BR>【方法】対象は25歳男性、診断名はPWS・低換気症候群・低酸素脳症、入院時評価として身長141cm・体重(推定)160kg以上、肥満度4(日本肥満学会より)、Functional Independence Measure (以下FIM)36点/126点、知能検査IQ41である。<BR>経過はA病院にて2歳頃にPWSと診断。5歳頃より体重増加し減量を目的とした数回の入退院後、B病院に通院し治療を続けていた。H20年頃より家で閉じこもりとなり臥床時間が多くなった。その間も体重は増加し同年10月意識低下にて救急でC病院搬送。入院希望するも肥満以外に問題ないとの説明で入院不可、B病院でも同様の対応のためC病院から緊急に当院相談。救急から約9時間後に泣き叫ぶ等の興奮状態で入院した。翌日より理学療法開始。訪室するも家族から理学療法に対し拒否的発言がみられ、患者も顔色不良で右側臥位のまま担当理学療法士の様子を伺っている状態。その場で運動の必要性を説明し苦痛を与えないことを約束した上で右側臥位のまま全身調整訓練を施行した。なお、気道圧迫により仰臥位は困難だが、入院2日前まで食事と排泄動作はほぼ自立していたとの家族情報から起立・移乗動作に必要な筋力は維持していると判断した。また脂肪による気道圧迫があるものの酸素2~3ℓ管理下ではSPO<SUB>2</SUB>96%前後と安定していた。<BR>今回の問題点として、本症例の自信喪失感・自己否定感等があると共に他者からの禁止言葉や否定語などで自分の思うようにならない時や注目・関心を自分に向けようとした時に奇声やパニック・酸素チューブを引きちぎる・服を破る等の不適切行動や過食に走る傾向があると思われたため、不適切行動の修正と動作能力改善を目的に行動分析学的介入を試みた。研究デザインにはシングルケースデザインを使用し、理学療法処方日から6日間をベースラインと設定、その後は基準変更デザインより目標行動を移行した。具体的には不適切行動には過度に注目しないよう強化随伴性の消去と同時に動作や言動に適切な変化がみられた直後に賞讃し、その行動が将来生起しやすいよう好子出現による強化を行いその効果を不適切行動の有無や動作能力、FIMにて確認した。その他接する機会の多いスタッフには関わる際の配慮として説明した。また、摂取カロリーは1200kcal/日で理学療法はストレッチやADL訓練を中心に施行し、リスク管理は自覚症状やバイタルサイン等で確認した。<BR>【説明と同意】本症例・家族には今回発表の趣旨及び内容を説明し書面にて同意を得た。<BR>【結果】介入前に毎日みられた不適切行動は、介入後週1回程度まで減少、動作能力も徐々に向上し、介入後3週目寝返り動作自立、5週目平行棒内立位可能、8週目約5m独歩可能となった。また入院当初みられなかった在宅復帰の希望が本人・家族からあり15週目に退院した。体重は当初立位不可等により途中からの計測となるが、7週目146.9kg、退院時は140.7kgと約8週間で7kg減少した。FIMも退院時は68点と向上がみられた。退院後は週2回の訪問リハビリテーションで対応し、退院後約4ヶ月で体重136kg台に減少、FIMも101点と大幅な向上がみられた。日中は酸素なしの活動も可能となっている。<BR>【考察】今回、ガストらが『行動を減らす手続きの選択は侵襲性が少なく、かつ効果的なものを選択されるべきである』と述べているように機能的な代替行動強化に着目し理学療法を進めた。また適切行動の強化が頻繁に得られその行動が自然強化子により維持されるよう配慮し内発的動機付けに変化がみられたことで著明な動作能力の向上が得られたと考えられる。その他、入院中に習得したパソコンによるメール交換が可能となり『食』のみに関心が集中することなく安定した生活が得られていると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】症例の置かれている状況を『個人攻撃の罠』に陥ることなく行動と環境の関係から検証し問題解決する行動分析学的方法は理学療法を円滑に進めていく上で有効かつ有用であると考えられる。
著者
四宮 克眞 田野 聡 高岡 克宜 野口 七恵 松村 幸治 濵 敬介 鶯 春夫 田岡 祐二
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1290, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】両側人工股関節全置換術後(以下THA)より不良姿勢を呈した症例に対し,姿勢修正のために腰椎と骨盤の分離および連動運動の観点から2週間運動療法を実施するも著変みられなかったため,身体イメージを修正する介入を実施したところ,静的姿勢に変化を及ぼしたので報告する。【症例提示】80代女性。2014年5月左 THA施行,同年8月右THA施行し,当院に9月下旬より入院し運動療法を施した。現在,歩行器歩行監視レベル。ROMは股関節屈曲,伸展,内転,外旋に著明な制限あり。背臥位では骨盤前傾,腰椎前弯位(ベッド面より2横指),立位では過度な骨盤前傾,腰椎前弯位(壁より3横指)を認め,中間位への矯正を指示すると腰椎前弯を助長する結果を招いた。そこで,身体イメージに崩れが生じていると仮説し,症例が描いている身体イメージを明確にするため,紙面上に立位の絵を描写させた結果,腰椎を最凸部にした円背姿勢を描いた。次に,セラピストが描いた腰椎前弯と中間及び後弯位の立位との比較を行った結果,後弯位が自身の立位と答えた為,身体イメージを修正する介入を実施した。【経過と考察】介入開始時,「お尻が出て猫背です。」と実際の姿勢と差がみられたため,視覚と体性感覚情報を用いた介入を行い,視覚情報では,腰椎前弯と中間及び後弯位を図示して,その差を言語表象させた。さらに端座位で各肢位を実演し,矢状・前額面から腰椎と骨盤との位置関係を言語表象させた。体性感覚情報では,背臥位,立位にて腰椎部にスポンジで圧刺激を行い同部位へ体性感覚情報に対する注意を増大させた後に,再度自動運動にて各肢位を再現させた。その結果,背臥位で腰椎・骨盤中間位(ベッド面と接し),立位で骨盤前弯位が減少(壁より1横指)した。本人も,「腰が以前みたいに前に反っているのではなく,しっかり背中がついている。」と改善を表す言語表象がみられた。今回,高齢の両側THA患者の静的な不良姿勢を身体イメージの修正により改善できたことを確認した。
著者
澁谷 光敬 平島 賢一 田野 聡 髙岡 克宜 池脇 圭司 鶯 春夫
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.467-470, 2020 (Released:2020-06-20)
参考文献数
10

〔目的〕Tilt tableを使用した傾斜角度変化が腹筋群に与える影響を明らかにすることとした.〔対象と方法〕対象は健常成人男性5名で,筋活動計測は非利き足側の腹筋群(外腹斜筋,内腹斜筋),下肢筋(中殿筋,大腿直筋,大腿二頭筋)の5筋とした.Tilt tableの傾斜角度を40°から80°まで10°ずつ変化させ,各傾斜角度での受動的立位保持10秒間の筋活動を3秒間測定し,積分値を算出し比較検討した.〔結果〕内腹斜筋では40°に対し60°以上で有意に高値を,また,50°に対し60°で有意に高値を示した.その他の筋では傾斜角度変化における有意差は認められなかった.〔結語〕Tilt tableの傾斜角度を60°以上にすることは内腹斜筋を選択的に活動させる一手段となる可能性が示唆された.
著者
平島 賢一 樋口 由美 柳澤 幸夫 鶯 春夫 澁谷 光敬
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.59-66, 2022-01-15 (Released:2022-01-28)
参考文献数
34

目的 近年,高齢ドライバーの免許証自主返納者は増加しているが,自動車は地方都市における住民の主な移動手段としての役割を担っており,免許証返納後の身体機能や生活に対する影響は大きいと考える。そこで本研究では,徳島県内の高齢ドライバーを対象に,免許証自主返納が活動性低下を招き,運動機能および認知・精神機能の低下を惹起するという仮説を予備的検証することとした。方法 対象者は,免許証の返納日まで日常的に週2回以上の運転を継続していた高齢者17人(平均年齢80.2歳,返納群)と,運転を継続している高齢者23人(76.9歳,運転継続群)とした。調査測定はベースラインと3か月後に実施し,活動性の評価は活動量計による3か月間の実測とLife Space Assessment(LSA)を用いた。運動機能と認知・精神機能の評価は,握力,Timed Up and Go testおよびMini-Mental State Examination(MMSE),Geriatric Depression Scale(GDS)を用いた。返納群には免許証返納に関するアンケート調査も実施した。統計解析は評価時期と2群に対して二元配置分散分析を実施した。結果 活動性の指標としたLSAの合計得点は有意な交互作用(P<0.01)を認め,返納群では3か月後に有意に低下した。一方,活動量計による歩数は有意な変化を示さなかった。運動機能および認知・精神機能のいずれの指標にも有意な交互作用を認めなかったが,MMSEとGDSで群の有意な主効果を認め,返納群が運転継続群に比して不良な成績であった。結論 徳島県在住の高齢ドライバーにおける免許証返納3か月後の変化は,日常生活における行動範囲の狭小化を認めた。運動機能および認知・精神機能の低下は観察されなかった。免許証を返納した高齢者は,自動車に代わる移動手段の速やかな確保が必要であると思われた。
著者
黒田 奈良美 鶯 春夫 平島 賢一 田野 聡 水田 隼 木村 七恵 森下 照大 松浦 康 吉村 昇世
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P3089, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】 痛みは主観的な知覚であり,注意や環境,心理状態等の因子に加え,痛みに対する耐性や経験,性格等もその要因として考えられ,痛み刺激に対する認識の個人差に影響していることが予想される.そこで今回,健常成人の痛み閾値を評価し,閾値に対する個人差と,性格因子との関連性ついて検討した.【対象及び方法】 対象は本研究を説明し,同意が得られた健常成人36名(性別:男性18名,女性18名,平均年齢:22.8±4.4歳)である.方法は,閉眼・椅子座位にて,痛覚針(重り1~6gまで)を用い,非利き手の内側上顆~橈骨茎状突起を結んだ線上の中点を刺激部位とし,痛覚針を垂直に2度押し当てた.刺激は1gから漸増的に与え,痛いと感じた時点で申告するよう指示し,痛いと感じた重さから1つ前の重さに戻り,再び同様に施行し,痛みを感じた重さが一致した時に最終的な痛み閾値と決定した.再び痛みを感じた重さが異なった場合には上記過程を繰り返し閾値を決定した.性格検査は新版STAIを用いて不安傾向の検査を行い,状態不安尺度と特性不安尺度の得点を求めた.統計処理にはt検定を用い有意水準は5%以下とした.【結果】 痛み閾値は個人差がみられ,最頻値は6g(9名),中央値は5gとなった.男女別に比較すると,男性では最頻値は6g以上(5名),中央値は5.5gとなった.女性では最頻値は6g(5名),中央値は5gとなった.閾値の決定に至るまでの回数は男女とも半数以上が3回以内で決定しているが,13回要した者も存在した.なお,最初に痛みを感じた重さと最終的に異なる重さが閾値となった者は16名であった.性格との関連性については,新版STAIの結果と痛み閾値の5g以下群(20名),6g以上群(16名)の2群に分け,状態不安,特性不安に有意差があるか検討したが,ともに有意差はみられなかった.また初回と最終で痛み閾値に変化のあった群(16名)と変化のみられなかった群(20名)を分け,同様に検討を行ったが,同じく有意差はみられなかった.【考察】 「感覚」が「知覚」へ変化する過程に性格的因子や現在感じている心理的不安が影響するか否かを検討したが,本実験の結果から関連はみられなかった.しかし本実験から,痛み閾値には個人差が大きいことや閾値を決定する際にも検査開始時と終了時で閾値が変化する者がいることから,痛みの知覚は複雑なものであり,注意や記憶・経験,学習等により判断(思考)の変化が生じていることが考えられた.痛みをVAS(Visual analogue scale)やNRS(Numeric rating scale)を用いて評価する際にも,痛みの増減を点数化するということは難解な作業であり,点数変化を即治療効果の判定に用いることに対しては注意が必要と思われた.今後は対象者を拡げるとともに,他の因子の影響も考慮して検討を加えたい.
著者
平島 賢一 樋口 由美 柳澤 幸夫 鶯 春夫 澁谷 光敬
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-030, (Released:2021-11-10)
参考文献数
34

目的 近年,高齢ドライバーの免許証自主返納者は増加しているが,自動車は地方都市における住民の主な移動手段としての役割を担っており,免許証返納後の身体機能や生活に対する影響は大きいと考える。そこで本研究では,徳島県内の高齢ドライバーを対象に,免許証自主返納が活動性低下を招き,運動機能および認知・精神機能の低下を惹起するという仮説を予備的検証することとした。方法 対象者は,免許証の返納日まで日常的に週2回以上の運転を継続していた高齢者17人(平均年齢80.2歳,返納群)と,運転を継続している高齢者23人(76.9歳,運転継続群)とした。調査測定はベースラインと3か月後に実施し,活動性の評価は活動量計による3か月間の実測とLife Space Assessment(LSA)を用いた。運動機能と認知・精神機能の評価は,握力,Timed Up and Go testおよびMini-Mental State Examination(MMSE),Geriatric Depression Scale(GDS)を用いた。返納群には免許証返納に関するアンケート調査も実施した。統計解析は評価時期と2群に対して二元配置分散分析を実施した。結果 活動性の指標としたLSAの合計得点は有意な交互作用(P<0.01)を認め,返納群では3か月後に有意に低下した。一方,活動量計による歩数は有意な変化を示さなかった。運動機能および認知・精神機能のいずれの指標にも有意な交互作用を認めなかったが,MMSEとGDSで群の有意な主効果を認め,返納群が運転継続群に比して不良な成績であった。結論 徳島県在住の高齢ドライバーにおける免許証返納3か月後の変化は,日常生活における行動範囲の狭小化を認めた。運動機能および認知・精神機能の低下は観察されなかった。免許証を返納した高齢者は,自動車に代わる移動手段の速やかな確保が必要であると思われた。
著者
長尾 香奈 平澤 小百合 尾﨑 充代 高木 賢一 平島 光子 仁田 裕也 松下 真由美 西村 麗華 鶯 春夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1092, 2006

【はじめに】<BR> 高齢者が多く入所している施設においては、「できるADL」と「しているADL」の差が問題になることが多い。当介護老人保健施設(以下:当施設)においてもこの差が生じていたので、これらの問題を改善するために「できるADL」と「しているADL」の実態調査を行い、どのADLに差が生じているのか、どのような入所者に差が生じているのかなどを検討した。<BR>【対象・方法】<BR> 当施設の入所者48名(男性10名、女性38名、年齢69~99歳、平均84.5歳)を対象とした。要介護度別にみると、1が8名(16.7%)、2が7名(14.6%)、3が20名(41.7%)、4が10名(20.8%)、5が3名(6.3%)であった。主疾患は脳神経疾患23名(47.9%)、骨関節疾患9名(18.8%)、認知症8名(16.7%)、その他8名(16.7%)であった。方法は、担当理学療法士が直接介護場面を観察したり、介護スタッフに聞き取り調査することにより、機能的自立度評価表(以下:FIM)にて「しているADL」を評価するとともに、FIMの評価表を基に担当理学療法士が「できるADL」を評価し、その差を比較検討した。なお、FIMの18項目のうち、セルフケア6項目、移乗2項目、移動1項目の計9項目を評価した。<BR>【結果】<BR> 「できるADL」と「しているADL」の評価がFIMの9項目全て一致した者は6名(12.5%)で、各項目において「完全自立もしくは修正自立」と採点された者が5名、「最大介助もしくは全介助」と採点された者が1名であった。逆に、一致した項目数が最も少なかったのは1項目で、2名(4.2%)存在し、それは過剰な介助が原因であった。項目別にみた場合、一致率が高かった項目は、食事41名(85.4%)、移乗37名(77.1%)、トイレ動作36名(75.0%)であった。逆に一致率が低かった項目は、清拭17名(35.4%)、更衣・上半身27名(56.3%)、整容28名(58.3%)であった。最も一致率が高かった食事においては、1段階異なった者が5名(10.4%)、2段階以上異なった者が2名(4.2%)であり、最も一致率が低かった清拭動作においては、1段階異なった者が13名(27.1%)、2段階以上異なった者が18名(37.5%)であった。<BR>【考察】<BR> 清拭や更衣の一致率が低かった理由としては、当施設の入浴介助が介護者のペースで行われたり、安全性を重視するあまりに過剰な介助が行われていることなどが考えられた。これらの点の改善ためには、特に、監視~中等度介助レベルの入所者への対応が重要で、安全性の確保や入所者のペースで介助を行う工夫、リハスタッフが生活場面に出向き、介護者とのコミュニケーションを密に取る必要性などが示唆された。
著者
近藤 敏朗 清家 矩彦 鶯 春夫 岡 陽子 唐川 美千代 平島 賢一 別部 隆司 嶋田 悦尚
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0247, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】 今回、姿勢性腰痛症の患者を対象として、腰椎前彎の増強因子となる短縮筋に着目し、どのような筋の短縮が腰椎前彎に影響しているのかを検討したので、若干の考察を加え報告する。【対象及び方法】 当院外来患者のうち、1)腰痛症と診断され、股関節・膝関節疾患の既往歴がなく神経症状を訴えていない者、2)大井らによる腰仙角測定法で、30°以上の腰椎前彎の増強がみられる者、3)Kraus-Weberテスト変法大阪市大方式で体幹筋力が40点以上である者12名を対象とした。性別は男性4名、女性8名、年齢は46.6±10.1歳であった。 方法は、指床間距離(以下、FFD)、SLR、トーマステスト、尻上り現象を測定した。それぞれの異常値は、FFDは0cm未満、SLRは90°未満、トーマステストは陽性を異常、伸張時痛がみられる場合を制限、尻上り現象は陽性を異常、踵が臀部につかない場合を制限とした。【結果】 異常が認められた者は、FFD:6名、SLR:5名、トーマステスト:異常0名、制限5名の計5名、尻上り現象:異常5名、制限6名の計11名となった。特に、トーマステストが制限なしの場合でも、尻上り現象ではほとんどの患者に異常が認められた。この結果より、主に短縮が認められた筋は大腿直筋であると考えられた。 また、腰仙角が40°未満の者でFFD、SLR、トーマステストの項目に問題がない場合でも、尻上り現象に異常又は制限がみられる者は4名中全員であったが、腰仙角が40°以上の者では、ほとんどの項目に異常又は制限が認められた。今回の対象者では、トーマステストは正常でも尻上り現象は異常というような者やFFDが異常でもSLRは正常といったような者がみられた。このことより、腰仙角が40°未満の患者ではハムストリングスや腸腰筋等の短縮よりも、大腿直筋や腰背筋群の短縮が腰椎前彎により影響していることが示唆された。【考察】 今回の結果より、ハムストリングスや腸腰筋等の短縮よりも、大腿直筋や腰背筋群の短縮が腰椎前彎により影響していることが示唆された。また、今回の対象者はKraus-Weberテスト変法大阪市大方式により体幹の筋力低下を除外しているため、体幹の筋力低下がなくても腰椎前彎の増強は起こることが考えられた。 ゆえに、腰仙角が40°以上で短縮筋が多くみられるような場合を除き、ハムストリングス・腸腰筋のストレッチングよりも、大腿直筋・腰背筋群のストレッチングを重点的に行う治療体操が適していると考えられる。なお、今回の研究では、実際の治療効果を判定することが出来なかったため、今後の課題としては、実際の治療により腰椎前彎ならびに腰痛症が改善されたかを追及していくことと考えている。
著者
山下 陽輔 田野 聡 高岡 克宜 田岡 祐二 鶯 春夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】平成22年度の国民生活基礎調査によると,高齢者が要支援,要介護に至る要因の第4位は転倒による骨折で約1割を占めるという結果が出ている。加齢による敏捷性の低下が転倒の原因の一つとして考えられるが,敏捷性はトレーニングによって向上が見込めることが報告されている。SAQトレーニングはその代表的なトレーニングであり,速さをSpeed,Agility,Quicknessという構成要素に分けて考案された。その中でも敏捷性の向上を狙って最も多く活用されるのがラダートレーニング(以下,ラダー)である。ラダーは梯子状の器具を地面に敷き,1つの升を1歩ずつ順次進んでいくステップから,サイドステップやバックステップを取り入れたり,身体の捻りを加えたりするものなどパフォーマンスの必要性に応じて様々なバリエーションが活用されている。そこで今回は,ラダーを用いた高齢者の転倒予防プログラムを立案するために,健常成人を対象にステップ難易度を検討することを目的とした。【対象及び方法】対象は,下肢に器質的疾患のない健常成人男性17名(平均身長:171.6±5.3cm,平均体重:66.5±6.7kg,平均BMI:22.6±1.6kg/m<sup>2</sup>,平均年齢:31.2±5.9歳)とした。ステップ課題は日本SAQ協会編SAQトレーニングよりベーシックステップからジャンプ系ステップを除く10種目,ステップ1(クイックラン),ステップ2(ラテラルクイックラン),ステップ3(サイドラテラルラン),ステップ4(カリオカ),ステップ5(パラレル),ステップ6(シャッフル),ステップ7(1イン2アウト),ステップ8(サイド1イン2アウト),ステップ9(サイド2イン1アウト),ステップ10(バック1イン2アウト)を選択して実施した。ラダーはIGNIOトレーニングラダー(8m)を使用し,各ステップ課題を正しく遂行できるまで繰り返させた。そして,ステップエラーがなく,課題と同じように正しく遂行できたときの回数をステップクリア回数とし,ステップクリアできた際には,次のステップに進ませた。なお,実施前には映像を見せてステップを確認させた他,2回連続でエラーした場合には再度,映像を確認させた。そして,統計学的解析は各ステップ課題のステップクリア回数(中央値)をKruskal-Wallis検定を用いて検討し,有意差が認められた場合には多重比較検定を行った。なお,全ての有意水準は5%未満とした。【結果】各ステップ課題のステップクリア回数を比較した場合,ステップ1~3に対してステップ4~10で有意に高値を示した。また,ステップ4に対してステップ7,9が,ステップ10に対してステップ7,9が有意に高値を示した。各ステップ課題の中央値は,ステップ1~3は1回目,ステップ4は3(1-11)回目,ステップ5は4(1-9)回目,ステップ6は3(1-17)回目,ステップ7は7(2-11)回目,ステップ8は3(1-20)回目,ステップ9は5(1-20)回目,ステップ10は3(1-11)回目であった。【考察】ベーシックステップの中でも,特にステップ7のように身体を捻る動作や,ステップ9のように横方向への複雑なステップ課題でのステップクリア回数は多くなった。健常成人でも普段は身体を捻ったり,サイドステップを行う機会は少なく日常の活動では行わないことが原因であると考えた。また,複雑なステップであっても,ステップ7とステップ10のように前後の姿勢が異なるだけの同じステップでは,一度,ステップを経験したことが,その後のステップクリア回数に影響を及ぼしている可能性がある。これらのことから,初めは前向きでステップを正確に行い,正しい動きが身体にインプットされたらスピードを上げて敏捷性を向上させ,さらには横向きや身体を捻るステップを取り入れることがラダーの難易度を考慮したプログラムとなると考える。今後は女性や高齢者を対象に実施し,高齢者の転倒予防プログラムとして有用なラダートレーニングを検討したい。【理学療法学研究としての意義】SAQトレーニングは競技スポーツだけでなく,健康づくりにおいても大きな効果が期待され導入が進んでいる。今後,地域包括ケアシステムが推進され,介護予防事業の拡充が考えられるなかで,集団で敏捷性を向上させる転倒予防プログラムの構築は,理学療法学の研究としての意義があると考える。
著者
高岡 克宜 鶯 春夫 岡 陽子 唐川 美千代 平島 賢一 別部 隆司 嶋田 悦尚 橋本 安駿 橋本 マユミ 大庭 敏晴
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.F0898-F0898, 2006

【はじめに】<BR> 現在、理学療法分野では腰痛軽減を図る上で様々な物理療法や徒手療法が行われている。当院においては徒手療法を中心に治療を行っているが関節周囲軟部組織の伸張や関節モビライゼーション効果を目的に腰椎間歇牽引器(以下;従来型)を用いて牽引療法も施行している。今回、自重牽引器である浮腰式アクティブ運動療法腰痛治療器プロテック(以下;プロテック)を施行する機会を得たので従来型と比較し、その効果を検討した。<BR>【対象および方法】<BR> 平成17年6月現在の当院職員71名に対し腰痛に関するアンケート調査を行い、腰痛を有しているが整形外科疾患を有していないため治療を行っていない者15名(性別:男性5名、女性10名、平均年齢42.7±13.1歳)を対象とした。なお、対象者に安静時痛や夜間時痛を有する者はなかった。<BR> 方法は対象者を無作為にプロテック群7名、従来型群8名の2群に分け、プロテック群は開始14分間を股・膝関節90°屈曲位、残り1分間を股関節90°屈曲・膝関節完全伸展位で牽引を施行した。違和感が出現した場合は膝関節完全伸展位での牽引を止め、痛みが出現した場合は中止した。従来型群はORTHOTRAC OL-2000(OG技研)を腰椎介達動力牽引の治療肢位で使用し牽引力は体重の1/3、牽引持続時間10秒、休止時間5秒で、15分間施行した。両群とも週2回の頻度で6週間施行した。評価として日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(以下;日整会判定基準)、指床間距離(以下;FFD)、Visual analog scale(以下;VAS)を牽引前、3週間後、6週間後に行い最後にアンケート調査を行った。なお、対象者には本研究に関して十分な説明と同意を得た。<BR>【結果】<BR> 牽引前と6週間後の結果を比較すると、プロテック群の日整会判定基準の平均値は24.0±2.2点から26.5±1.1点、VASは4.8±2.4から2.0±1.5、FFDは2.2±12.0 cmから2.2±11.5cmであった。従来型群の日整会判定基準の平均値は24.0±3.8点から26.8±2.1点、VASは3.6±2.6から1.0±1.3、FFDは3.0±13.9 cm から5.6±14.0cmであった。上記の結果より、両群共に改善が認められたがFFDにおいては従来型群のみに改善を認めた。また、アンケート結果では肯定的回答が両群で4名ずつ得られた。なお、プロテック群では初回牽引後に1名、従来型群では2週間以内に3名、腰痛が出現し牽引を中止した。<BR>【考察】<BR> 両群共に腰痛軽減効果が認められた反面、疼痛が出現し悪化した者も認められた。また、本研究においては症例数が少なかったため統計学的にも両群の差を認めることが出来なかった。今後は牽引肢位や牽引力、骨盤傾斜角度等の検討を行うとともに、症例数を増やし両群の適応を再検討する必要性が示唆された。