- 著者
-
松村 成暢
- 出版者
- 日本健康医学会
- 雑誌
- 日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.2, pp.53-57, 2011-07-31 (Released:2017-12-28)
- 参考文献数
- 9
動物にとって味覚は栄養のあるものを摂取し,有害なものを退けるために必要不可欠な機能である。視覚や嗅覚によりある程度の予備的な判断は可能であるが,食べるか吐き出すかの最終的な判断は味覚によるものである。ヒトにとって味がわからなくなるのは不便ではあるが直接生命に関わるようなことはない。現代ではスーパーや飲食店で安全の保証された食べ物は容易に手に入れることができる。このためいちいち味覚に頼らずとも安全な食べ物をとることはできる。また,ヒトは食に関する情報を多方面から得ているので安全における味覚の寄与はそれほど大きくはない。しかし,われわれの祖先もそうであったように,日々飢餓と隣合わせの生活をしている野生動物にとって味覚とは生死に関わる機能ではないだろうか。また特に先進国において味覚は単に栄養素を摂取するという生理的な欲求を満たすために利用されるだけでなく,食を楽しむという娯楽的な要素や快楽やストレスの解消などの心理的な欲求に対しても味覚は重要な役割を果たしている。つまり味覚は生活の質(QOL:Quality of Life)の維持・向上にも影響を及ぼす重要な感覚機能なのである。