著者
松浦 和則
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.70, no.12, pp.582-585, 2022-12-20 (Released:2023-12-01)
参考文献数
14

近年,天然ウイルスのタンパク質の殻(キャプシド)を模倣して,ナノカプセルを人工的に構築する研究が注目されている。筆者らは,トマトブッシースタントウイルスの内部骨格の形成に関与するβ-Annulusペプチドを化学合成し,50 nm程度の人工ウイルスキャプシドを構築することに成功した。この人工ウイルスキャプシドの内部には核酸やタンパク質を内包することができ,外部表面にタンパク質や脂質二分子膜(エンベロープ)を修飾した機能性ナノカプセルの創製にも成功した。
著者
松浦 和則
出版者
鳥取大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

我々は、トマトブッシースタントウィルスの内部骨格モチーフであるbeta-Annulus構造を形成する24残基ペプチド が、水中で30-50 nmのナノカプセル(人工ウイルスキャプシド)を形成することを明らかにした本研究課題では、このウイルス由来ペプチドからなるナノカプセルの内部や表面を、タンパク質や無機材料などで「着せ替えた」融合材料を創製することを目指した。まず、金ナノ粒子で着せ替えた人工ウイルスキャプシドを構築するために、29残基のペプチドINHVGGTGGAIMAPVAVTRQLVGSGGGCGを合成し、これに金ナノ粒子(5 nm)結合させ、金ナノ粒子-beta-Annulusペプチドコンジュゲートとした。臨界会合濃度以上の濃度となるように水中に再分散させ、未集合の金ナノ粒子を透析で除くことにより、金ナノ粒子で着せ替えた人工ウイルスキャプシドを構築した。その結果、人工ウイルスキャプシドと同様の約50 nmに金ナノ粒子が30-60個程度集合した構造がTEMで観察された。次に、より毒性の少ないナノカプセルの構築を目指して昨年度構築したヒト血清アルブミン(HSA)で着せ替えた人工ウイルスキャプシドの細胞内導入を検討した。、FITC標識したHSA-beta-Annulusペプチドコンジュゲートを調製し、HT1080細胞への導入を検討したところ、細胞内に十分量のFITCの蛍光が観察され、細胞核近傍のゴルジ体に局在していることが示唆された。またWST-assayにより、このConjugateはHT1080細胞に対して毒性が無いことが示された。
著者
君塚 信夫 黒岩 敬太 松浦 和則
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究では、分子組織性ハイドロゲルの分子設計の確立および、分子組織性ハイドロゲル中における蛋白質の機能制御を目的とした。その結果、短いアルキル鎖を含む疎水部構造および、複数のアミド結合を含むグルタミン酸骨格を有するアンモニウム脂質が芳香族スルホン酸イオンや、過塩素酸イオンなどの疎水性アニオンと疎水性イオン対を形成することで、分子組織性ハイドロゲルを形成することを明らかとした。例えば、カウンターアニオンとして2-ナフタレンスルホン酸イオンを用いたハイドロゲルにおいては、光捕集機能を有するハイドロゲルとなる。このハイドロゲルにおいては、ナフタレンが二分子膜ゲルファイバー中に高密度に集積化されており、光励起エネルギーはこのファイバー上を効率的に移動する。アクセプターとして1mol%の9,10-ジメトキシ-2-アントラセンスルホン酸イオンの添加により、ナフタレン由来の蛍光は大きく消光し、かわりにアントラセン由来の増感蛍光が大きく現れた。エネルギー移動効率は低濃度の水溶液状態よりも、ハイドロゲル状態において著しかった。これは、2-ナフタレンスルホン酸の二分子膜ファイバーへの結合率と相関しており、ハイドロゲル状態においての高い結合率が、高効率のエネルギー移動をもたらした。また、光捕集性のハイドロゲルのみならず、フェロセンカルボン酸などをカウンターアニオンに用いると、レドックス応答を有するゲルが得られる。このレドックス応答性ゲルはアクチュエーターやバイオセンサーなどの応用が期待される。このように、我々は、共有結合を使うことなく、機能性のアニオンと、自己集合性の短鎖アルキル脂質を用いることで、効率的に機能性アニオンを集積化させ、それに伴い機能性のハイドロゲルを作製することに成功した。