著者
小池 宙 吉野 雄大 松本 紘太郎 竹原 朋宏 竹本 治 松浦 恵子 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.238-244, 2012 (Released:2013-02-13)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

近年,気候変動や生薬輸出国の経済発展により生薬の供給は不安定になりつつある。本稿では,生薬原料の国内生産の増加・自給率向上を目的に,需要が減少傾向にある葉タバコから生薬原料への転作の可能性について検討した。まず,転作をすすめる生薬原料として需要・品質・価格面を考慮し,当帰と柴胡を選定した。次に,これら生薬原料と葉タバコの国内生産について収益性等を比較した。当帰の収益性は葉タバコよりも低かったが,転作奨励金等で収益を補えば葉タバコからの転作が促されると考えられた。具体的には,年間3,500万円の転作奨励金により当帰の自給率は10割にまで上がるという試算結果となった。一方,柴胡の収益性は葉タバコを上回っていたが,国産品の販売価格は輸入品の約3倍であり,薬価よりも高く,生産補助金で価格競争力を補う必要があると考えられた。具体的には,年間6.6億円の生産補助金で柴胡の自給率は5割に上がるとの試算結果となった。
著者
秋山 光浩 松浦 恵子 今津 嘉宏 及川 恵美子 首藤 健治 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.17-28, 2011 (Released:2011-07-08)
参考文献数
14
被引用文献数
1

2015年に改訂される予定のICD—11に漢方医学を含む東アジア伝統医学を導入することが検討されている。このことがどのような意義があるのかを検証するために,ICDそのものの理解が必要である。本稿ではICDの歴史・意義・問題点につき整理し,何故伝統医学を入れるに至ったかの背景について述べる。ICDは,1900年から国際的に使用されている分類で,その内容も当初の死因のための分類から疾病分類の要素を加味し,さらに,保健サービスを盛り込むなど,社会の変化に対応した分類となっている。現在のわが国での活用も,死亡統計,疾病統計など各種統計調査にとどまらず,臨床研究等幅広いものとなり,今後さらにその利用範囲は拡大するものと考えられる。一方,ICD—10と医学用語の関係や臨床における疾病分類としての使い勝手など,様々な問題が山積している。また,実際に使用している国が先進国を中心に限定されており,人口の多い,アジア地域での統計が取れていない。2015年の大改訂(ICD—10からICD—11)では,紙ベースから電子データとするとともに,東アジア伝統医学分類を盛り込むことで,アジア地域へのICDの普及促進を図る。
著者
沢井 かおり 松浦 恵子 今津 嘉宏 西村 甲 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.920-923, 2010 (Released:2011-03-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

女性の外陰部痛は,炎症,外傷,腫瘍,加齢による萎縮乾燥などで生じるが,原因不明の場合はVulvodyniaと称され,しばしば難治性で,治療に難渋することがある。今回,牛車腎気丸で原因不明外陰部痛が軽快した症例を経験した。症例は92歳女性,2~3時間続く腟から尿道にかけての痛みが頻発し,夜間長時間眠れないため受診した。漢方医学的に,虚実中間証,寒証で,瘀血,腎虚の所見が認められた。高齢で,腎虚があり,尿路系の症状があることから,牛車腎気丸を処方したところ,夜間に痛みで起きる日が少なくなり,日中の外陰部痛も,著明に軽快した。また,時々起こしていた尿閉も起こさなくなった。難治性の原因不明外陰部痛では,補腎剤も治療の重要な選択肢のひとつと思われる。さらに排尿障害も改善し,複数の障害が一剤にて改善されるという,西洋薬にはない漢方治療の有用性が示された。
著者
高 鵬飛 宗形 佳織 詹 睿 今津 嘉宏 松浦 恵子 相磯 貞和 渡辺 賢治
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.131-137, 2012
被引用文献数
3

日本の医学部における漢方医学教育と中国の中医薬大学(中医・中西医の教育課程)および医科大学(西洋医の教育課程)における中医学教育を比較した。日本の漢方医学教育は2001年に文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラムに組み込まれたものの,6年間の約4000コマの講義数に対して,わずか8コマ程度である。一方,中国の中医薬大学では5年間の5割を中医学,残り5割を西洋医学の課程が占めている。また医科大学においても80コマの中医学講義がある。一方,教育内容に関しては日本の漢方教育や卒後教育は「傷寒論」と「金匱要略」を重視しているが,中国の中医学教育は中医陰陽五行学説や臓腑経絡理論などを重視している。現在,日本では卒後教育の強化により専門医数が増えつつある。一方で中国は中医学を専門とする医師が減少している。伝統医学を継承する根源となる教育は両国の伝統医学の発展にとって非常に重要であると示唆された。