著者
松浦 直毅
出版者
日本アフリカ学会
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.77, pp.19-30, 2010-12-31 (Released:2013-12-06)
参考文献数
38

多くのアフリカ諸国でみられるように,アフリカ中部のガボン共和国では,病気の治療や家族関係,仕事,そして政治的な問題の解決のためにおこなわれる伝統儀礼が,広く人びとのあいだで信じられ,利用されている。なかでも「ピグミー」と呼ばれる人びとは,豊富な植物の知識をもち,超自然的な力をそなえた存在として特別視されている。本稿では,ガボン南部のピグミーの1グループであるバボンゴの伝統儀礼について,以下の2点を明らかにする。(1)バボンゴは,周縁的な村に暮らしていながらも,伝統儀礼を通じて政治的な権力者を含めた都市の人びととの関係を築いている。(2)現金収入の乏しい村に暮らすバボンゴにとって,伝統儀礼が貴重な収入源となっている。これまでの研究では,ピグミーが周縁的な存在であるために,外部世界と関わるには近隣農耕民に対して政治的に依存せざるをえないこと,近代的な国家システムへの参与が困難であることが指摘されてきた。しかしながら,ガボン南部のバボンゴは,周縁的な存在であるために逆に外部の人びとから伝統儀礼が価値づけられ,その能力が頼られることで,農耕民に依存することなく外部世界とかかわり,伝統儀礼の担い手として独自の社会的地位を築いているといえる
著者
松浦 直毅 戸田 美佳子 安岡 宏和
出版者
日本アフリカ学会
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.100, pp.29-33, 2021-12-31 (Released:2022-12-31)
参考文献数
16

アフリカにおける生物多様性保全の歴史は19世紀後半にまでさかのぼり,時代ごとの社会背景や国際情勢を反映して理念や方法が変化してきた。近代以降のアフリカは保全という問題とつねに対峙してきたといえ,生物多様性保全というテーマは,現代のアフリカが直面している課題を分析し,将来を展望するうえで不可欠であるといえる。そこで本稿では,要塞型保全から住民参加型保全,そして新自由主義的保全という保全パラダイムの変遷についてまとめるとともに,保全政策の名のもとでおこなわれる土地収奪や地域住民への暴力行為などの保全をめぐる現代的問題について述べる。アフリカの保全政策がかかえる課題として,地域住民の生活や文化が軽視され,政府や国際機関が主導するトップダウン型の構造が維持されてきたことが挙げられる。この課題を解決し,効果的な保全活動を進めるためには,「順応的管理」の理念にもとづき,「参加型モニタリング」の手法による自然資源管理の体制を構築することが重要であり,現場に根ざした地域社会の深い理解とその実践への応用を特徴とする日本のアフリカ研究が果たす役割は大きいといえる。