- 著者
-
松田 なつみ
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.3, pp.250-262, 2013 (Released:2015-09-21)
- 参考文献数
- 21
児童期発症の慢性チック障害であるトゥレット症候群(TS)は,成人に従い軽症化し,症状の変動を伴う発達障害の一つである。TSのチックは短時間ならおさえられる等,ある程度はコントロールできるが対処しきれない性質を持つ。このようなチックの性質と経過からTSを有する者が普段から自己対処を行っている可能性が高いが,自己対処の負の影響も示唆されている。本研究では,チックへの自己対処が有効に働くにはどのような要因が重要なのか探るため,自己対処の機能や自己対処の生じる文脈を明らかにすることを目的とした。TSを有する本人16名(男性13名,女性3名,平均年齢25.5歳)に半構造化面接を行い,Grounded Theory Approachによって分析した。その結果,チックへの自己対処を行う際,「対処への圧力」と「対処の限界」が常にせめぎあっており,「部分的な対処」がその間に折り合いをつける機能を担っていることが示唆された。その上で,「対処への圧力」と「対処の限界」の両方が高く折り合いがつけられない状態(「対処の悪循環」)と,その両者の間に「部分的な対処」で折り合いをつけながら,「コントロール感」を得ていく状態(「チックと上手くつき合う」)を比較し,自己対処が上手く機能する文脈や関連する認識について考察した。