- 著者
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松田 史生
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2001
ある代謝経路の活性の変化とは、その経路を流れる化合物量、すなわち代謝フラックスの増減を意味している。ジャガイモ塊茎組織に傷害を与えると、フェニルプロパノイド経路の活性化がおこり、chlorogenic acid (CGA)が顕著に蓄積する。一方、同じくフェニルプロパノイド代謝産物の一つであるN-p-coumaroyloctopamine(p-CO)の含量は生合成酵素が活性化しているにも関わらず微量しか増加しない。本代謝制御の詳細を明らかにすることを目的として、これらの化合物の生合成フラックスの実測を試みた。ジャガイモ塊茎からディスクを作成し、24時間後に10mM L-phenyl-d_5-alanine水溶液を処理した。経時的にディスクを回収し、抽出液中のCGAおよびp-COとその重水素ラベル体の含量をLC-MSで測定した。重水素ラベル体比の経時変化を表す式を、実測値に非線形回帰法で近似させ、CGAとp-COの生合成フラックスをそれぞれ4.2および1.1nmol/gFW/hと求めることができた。以上より、生成したCGAはほとんどが蓄積するのに対し、同じオーダーのフラックスで生成しているp-COは速やかに代謝され、蓄積しないものと考えられた。また、バレイショ塊茎中にはフェノール性アミド化合物の他にもグリコアルカロイド類のα-ソラニンが存在している。α-ソラニンはほ乳類のみならず菌類などにも毒性を持ち、植物への病害抵抗反応への関与が示唆されているが、α-ソラニンの組織中含量を定量することが難しく、その詳細は不明である。そこで、高速液体クロマトグラフィー/タンデムマススペクトロメトリー(LC/MS)を用いたα-ソラニンの簡便な定量法を開発した。この方法は抽出操作が非常に簡便であり、検出限界も10pmolとバレイショ塊茎中のα-ソラニンの定量には十分であった。