著者
池田 耕二 田坂 厚志 粕渕 賢志 城野 靖朋 松田 淳子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11782, (Released:2020-09-19)
参考文献数
37

【目的】熟達理学療法士(以下,PT)の経験学習プロセスから成長を促す経験と学習内容を明らかにし,そこからPT に対する経験学習支援方法を示唆すること。【方法】対象は熟達PT3 名であった。方法は質的研究の手法と松尾の経験学習プロセス解明の枠組みを用いた。【結果】熟達PT はキャリアの初期に「障がいを有した患者の社会参加に向けた実践経験」から〈人とのかかわりや社会・生活に対する実感〉を,初期~中期に「予期できぬ否定的な経験」から〈医療の厳しさ〉等や「重度患者を基本的理学療法で改善した経験」から〈基本的理学療法技術の有効性〉等を,中期~後期に「実習生や新人に対するサポート経験」から〈自己内省による知識・技術の整理〉等や「多職種連携による介入経験」から〈コミュニケーション〉等を学習していた。【結論】熟達PT の成功を促す経験に焦点化し経験を積ませることは,PT の経験学習支援につながると考えられる。
著者
松田 淳子 吉尾 雅春 坂本 美貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0398, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】脳血管障害後、動作が速くなり、そのため姿勢制御が不安定になったり手順を飛び越したりして危険な動作遂行になる患者がいる。宮森はこのような症状を行為のペーシングの障害(以下ペーシング障害)と定義した。今回、脳血管障害発症後、ペーシング障害を来たし日常生活自立が遅れた症例を経験したので報告する。【症例】53歳女性。矯正右手利き。専業主婦。診断:左被殻出血。右片麻痺。既往歴:特記事項なし。現病歴:2003年4月25日発症、他院入院にて開頭血腫除去術施行。同年6月24日当院入院。10月16日当院退院。入院直後のMRI所見では大脳基底核部の前方および上方に出血の広がりがみられた。【身体および神経心理学的所見】入院後1週間(発症後2か月):意識清明。MMSE23/30。運動維持困難、軽度の右半側空間無視、ごく軽度の失語症状あり。他、汎性の注意障害を認める。右半身運動障害はBrunnstrom Stageで右上肢2、手指1、下肢5。感覚は表在、深部ともに右半身に中等度鈍麻あり。入院後4ヶ月(発症後半年):失語症状・半側空間無視消失。汎性注意障害軽減。運動維持困難・運動・感覚障害には変化を認めず。【ペーシング障害と日常生活への影響】入院当初、歩行・更衣・摂食などさまざまな場面で「行動中にスピードが速くなる」現象を認め、歩行中の他患を周囲の状況にかまわず無理に追い越そうとして接触しそうになる、行為を急ぐあまり手順をとばすなど日常生活遂行に支障を来たした。本人に自覚はなく、意識的に行動中に他の課題を提示して同時に処理することを求めると行動のペースが落ちる現象が認められた。自身の状況に関しては「なってしまうから仕方ない」とあまり考える様子はみられなかった。独力での歩行は可能であったが、これらの問題のため自立していなかった。発症後4か月頃より若干の行動面の改善とともに行動のペースが速くなる現象に対して「ゆっくりしているとこわいから速くやろうと思ってしまう」という内観発言が聞かれるようになる。退院前実施した平林らにより考案された「図形のトレース検査」は約1182mm、その他、注意の選択性や転換など遂行機能障害が認められた。主婦業復帰を目指し作業療法士とともに買い物、調理などの指導を行ったが、退院時、セルフケアは歩行レベルで自立するも家事動作は完全な自立にいたらなかった。【まとめ】ペーシングの障害は右半球損傷に多く認められるといわれているが責任病巣については確定的ではない。今回の症例は左半球損傷であったが、矯正右手利きであり側性化に特異性があることが考えられる。また本症例が合併する遂行機能障害、運動維持困難は、ペーシング障害の制御に影響のあることが経過からうかがわれた。大脳基底核は運動のリズム産生にかかわると言われており、前頭葉とこの部位との線維連絡の損傷がこれらの合併症状を含むペーシングの障害を引き出す一因ではないかと考えられた。
著者
海江田 武 熊田 仁 松田 淳子 稲岡 秀陽
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに】成長期野球選手の投球障害肩の発生は15,16歳にピークを迎え,肩関節の痛みと投球動作の変化に注意する必要がある。成長期野球選手の投球障害肩の発生要因には,投げすぎによる肩周囲組織の損傷などの外的要因,成長期特有の内的要因,技術的要因があり,それらについての研究は数多く行われている。しかし,実際の投球直後の身体変化についての調査を行った研究は少なく,投球が身体に及ぼす影響についての報告は散見できる程度である。また投球動作後の疲労部位や可動域の変化についての調査はあるが,投球動作時痛を有する選手を対象とした投球直後の身体変化についての調査は少ない。そこで今回,投球前後の機能評価を行い,投球動作時痛が投球直後の肩関節に及ぼす影響について検討した。【対象と方法】高等学校1校の日常のクラブ活動を行えている硬式野球部員51名のうち,投手17名を対象とした。選手たちには事前に疼痛に関するアンケートを行い,投球動作時の疼痛の有無,部位を調査し,身体のどこかに疼痛を有する8名を疼痛あり群,疼痛を有しない9名を疼痛なし群とした。課題の投球動作はウォーミングアップのキャッチボールを20球行わせ,その後ブルペンにて全力投球50球を実施させた。使用ボールは高校が使用する試合球とした。課題の前後で肩内外旋可動域,肩内外旋筋力,hyper external rotation test(以下,HERT)を測定した。測定内容としては,(1)肩内外旋可動域は背臥位で肩外転90度,肘屈曲90度の肢位(以下2nd)で,基本軸を床への垂直線,移動軸を尺骨とし,ゴニオメーターを用いて3回測定し平均値を算出した。(2)肩内外旋筋力は端座位,上肢下垂位,肘屈曲90度の肢位で,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて3回測定し平均値を算出した。なお(1)(2)については「投球前の測定値-投球後の測定値」を変化量として算出した。(3)2nd肢位を取りHERTを実施した。統計処理は,2群間で,関節可動域および筋力の変化量を比較するために,対応のないt検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究内容に対して各個人に十分な説明を行い,同意を得た上で実施した。【結果】肩外旋可動域は,疼痛あり群では投球前112.7±5.2°,投球後115.9±5.4°であり,変化量は3.2±2.8°であった。疼痛なし群では投球前113.6±6.7°,投球後113.1±6.3°であり,変化量は-0.5±3.2°であった。両群間の可動域の変化量は,疼痛あり群で有意な増加(p<0.05)を認めた。肩内旋可動域は,疼痛あり群では投球前28.8±9.0°,投球後31.8±9.8°であり,変化量は-3.0±4.4°であった。疼痛なし群では投球前27.7±10.7°,投球後30.6±12.4°であり,変化量は-2.9±6.0°であった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。外旋筋力は,疼痛あり群では投球前10.9±2.0Nm/kg,投球後10.0±1.7Nm/kgであり,変化量は1.0±0.9Nm/kgであった。疼痛なし群では,投球前10.4±1.7Nm/kg,投球後9.6±1.4Nm/kgであり,変化量は1.2±0.8Nm/kgであった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。内旋筋力は,疼痛あり群では投球前13.9±3.3Nm/kg,投球後13.2±2.8Nm/kgであり,変化量は0.7±1.2Nm/kgであった。疼痛なし群では疼痛前13.2±2.7Nm/kg,投球後13.3±2.9Nm/kgであり,変化量は-0.2±1.9Nm/kgであった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。HERTについては投球前,投球後ともに全例陰性であった。【考察】今回の調査では,課題前後の疼痛あり群の肩外旋可動域の変化量が疼痛なし群に比べ有意に増加した。投球動作は投球側の上肢を振るだけの運動でなく,下肢から体幹そして投球側上肢への運動連鎖である。そうした下肢・体幹のエネルギーを十分に使うことにより投球側上肢の負担は軽減するとの報告がある。疼痛あり群では,投球動作中の下肢から体幹,投球側上肢への運動連鎖が阻害され,十分なエネルギー伝達ができず,上肢への負担が大きくなり,その過剰な負担が肩関節外旋可動域の増加に繋がったものと考えられる。現在は疼痛あり群もHERTは陰性であるが,投球によるストレスが継続すれば,将来的に投球障害肩に進展する可能性も否めない。今後,より詳細に投球動作直後の身体機能の変化と選手個人がもつ身体特性の関係を調査し,投球障害肩発生のメカニズムを探っていきたい。【理学療法研究としての意義】成長期野球選手に対しての全身の身体評価は,安静時の身体機能を評価することが多く,投球直後の身体機能に対しては評価がまだ不十分である。投球動作が身体に及ぼす影響をより明確にしていくことで投球障害肩の予防の一助となると考える。