著者
松野 あきら
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.54-61, 2010 (Released:2011-04-27)
参考文献数
39

ある種の平滑筋は1度収縮すると,その後ほとんどエネルギー消費をしないで収縮したままの状態を保つことができる特殊な筋収縮をする。このような収縮はキャッチ収縮と呼ばれ,キャッチ収縮を引き起こす機構をキャッチ機構と呼ぶ。キャッチ機構の研究には色々なアプローチが試みられており,現在では,生化学的および分子生物学的手法でキャッチ状態を解除する機構までもが明らかにされている。少し過去にさかのぼると,キャッチ筋の太いフィラメントに含まれるパラミオシンとキャッチ機構との関係が注目されたが,細胞内での構造的な証拠が得られなかった。しかしながら,多種多様の閉殻筋平滑筋のキャッチ筋には,直径が50-60nm以上の太いフィラメントが含まれているのが観察される。これらのフィラメントが直接キャッチ機構に関与していることはなさそうだが,今後の生化学や分子生物学の研究で,このフィラメントの重要性が再確認される日が来るだろうと思われる。
著者
本川 達雄 松野 あきら
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究の最大の成果は、カルシウムイオンがキャッチをひきおこすことを強く示唆する結果が、はじめて得られた事である。シカクナマコの体壁を、無刺激でキャッチしていない状態と、高濃度のカリウムイオンを含む人工海水でキャッチ状態にしたものとを、ピロアンチモン酸存在下で固定して、電子顕微鏡で観察した。キャッチしていない状態では、ピロアンチモン酸の沈澱は、2種類の細胞の中に観察された。大きなvacuoleを持った細胞のvacuole中と、0.2-0.6μmの楕円形で電子密度の高い顆粒をたくさん持つ細胞の顆粒の中とである。分析電子顕微鏡(EDAX)の分析により、これらの沈澱はカルシウムを含むことが分かった。一方、顆粒中の沈澱には変化がなかった。以上の結果は、vacuole中からカルシウムが放出されることによりキャッチが引き起こされることを強く示唆しており、キャッチ結合組織の機構を理解する上での、重要な発見といってよい。もう一つの成果は、ヒトデの腕のかたさとその変化を、はじめて定量的に記載し、この変化が、キャッチ結合組織によることをほぼ確実にしたことである。腕のかたさは曲げ試験を行い、梁理論を適用することにより求めた。腕の形態学的研究から、腕の形と断面二次モ-メントを記載する関係式をつくり、これをもとに、たわみ量からかたさ(ヤング率)を産出する式をもとめた。アオヒトデのかたさは、刺激をくわえない状態では8MPaであった。機械刺激により、かたさは3倍に増加した。かたさはイオン環境により大きく変わった。これは、体壁の結合組織がキャッチ結合組織であり、これがかたさの変化を引き起こしていることを示唆する結果である。ヒトデにもキャッチ結合組織の存在することがほぼ確実になった。