著者
林 怜史
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.153-162, 2022-04-05 (Released:2022-03-29)
参考文献数
36

農研機構北海道農業研究センター(北農研)において育成された業務用米向け多収水稲品種「雪ごぜん」の収量性を既存品種「ななつぼし」と比較し,施肥量や栽植密度が収量などに及ぼす影響を明らかにするために,北農研本所(札幌,火山性土)で3か年,美唄試験地(美唄,泥炭土)で2か年の圃場試験を行った.両品種について,施肥量2水準(標肥と多肥),栽植密度2水準(標植と疎植)を組み合わせた4区を設けた.「雪ごぜん」は2015年札幌で「ななつぼし」より有意に多収となり,2016年札幌,2018年美唄では「ななつぼし」より有意に高い整粒歩合を示したことから,「雪ごぜん」は「ななつぼし」よりも多収で整粒歩合の高い品種であると考えられた.多肥区は2015年札幌でのみ標肥区より有意に多収となったが,それ以外では多肥区における倒伏や,総籾数と登熟歩合あるいは千粒重とのトレードオフのため,多肥化による増収は見られなかった.疎植区は,低日照であった2018年美唄においてのみ標植区より低収となった.「雪ごぜん」標植区では成熟期窒素吸収量12 g m–2,稈長80 cmを上回る条件で倒伏が見られたが,疎植区では倒伏程度は最大でも1.0と,標植区より倒伏の程度が小さかった.施肥量が収量に及ぼす影響は有意ではなかったが,不良年であった2018年美唄の「雪ごぜん」疎植区においては多肥化によって28 g m–2の増収の傾向が見られた.これらのことから,多肥と疎植を組み合わせることで,不良年における減収の危険性と生育が旺盛な条件での倒伏の危険性の両方を小さくし,省力化を達成できると考えられた.