著者
林 松彦 高松 一郎 吉田 理 菅野 義彦 佐藤 裕史 阿部 貴之 橋口 明典 細谷 龍男 秋葉 隆 中元 秀友 梅澤 明弘 重松 隆 深川 雅史 川村 哲也 田中 勝 杉野 吉則
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.551-557, 2012-07-28 (Released:2012-08-07)
参考文献数
24
被引用文献数
2 5

カルシフィラキシスは,末期腎不全により透析療法を受けている患者を中心に発症する,非常に疼痛の強い難治性皮膚潰瘍を主症状とする,時に致死的な疾患である.病理学的所見としては,小動脈の中膜石灰化,内膜の浮腫状増殖を特徴的所見としている.これまで本邦における発症状況などは不明であったが,平成21年度厚生労働省難治性疾患克服事業として,われわれ研究班により初めて全国調査がなされた.その結果,発症率は欧米に比べて極めて低いと推定され,その要因の一つとして,疾患に対する認知度が極めて低いことが考えられた.そこで,疾患概念を明らかとして,その認知度を高めるとともに,診断を容易にするために,全国調査を基として診断基準の作成を行った.この診断基準は,今後の症例の集積に基づく見直しが必要と考えられるが,カルシフィラキシスに対する認知度を高める上では重要な試みと考えている.
著者
金子 友香 徳山 博文 脇野 修 木田 可奈子 林 松彦 林 晃一 伊藤 裕
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1047-1052, 2011-10-28
被引用文献数
1

慢性腎不全維持血液透析中,低栄養,鉄過剰症,骨髄異形成症候群(MDS)など複数の免疫能低下に寄与する要因が重なり,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)によるシャント感染・敗血症を契機に多発膿瘍の合併に至った症例を経験した.透析患者のシャント感染を契機に,本症例のような重症多発性化膿性膿瘍を合併することはまれであり,文献的考察を加え報告する.症例は67歳,女性.慢性糸球体腎炎を原病として,慢性腎不全の進行に伴い,1988年に血液透析導入となった.1993年骨髄穿刺の結果骨髄異形成症候群と診断され(染色体異常なし),2007年から適宜赤血球輸血を施行されていた(合計40単位).2010年1月14日血液透析施行中40度の発熱があり,両下肢痛と腰部痛が出現した.インフルエンザ迅速試験陰性で解熱鎮痛薬を処方されるも改善せず,1月19日WBC 8,600/μL,CRP 46.75mg/dLであり,精査加療目的で同日当院へ緊急入院した.Vancomycin hydrochloride(VCM),meropenem hydrate(MEPM)を開始したが,第3病日,血液培養でMSSAが検出されたため,第4病日からcefazolin sodium(CEZ)へ変更した.Gaシンチグラフィ,MRI,CTなど各種画像検査および眼科検査で,シャント部皮下膿瘍,腰部硬膜外膿瘍,腰部脊椎炎・椎間板炎,多発化膿性関節炎,腰部化膿性筋炎・傍脊柱筋筋肉内膿瘍,多発性細菌性肺塞栓,右眼内炎が認められ,シャント皮下膿瘍から播種性に全身膿瘍をきたしたと考えられた.CEZを継続したところ,血液培養は陰性化し,各感染巣は縮小,消失した.本症例は維持透析,MDS,低栄養,鉄過剰症などのさまざまな易感染性の要素を有していたため,非常にまれな重症多発性感染巣が形成されたと考えられた.このような複数の易感染傾向を有する患者では特に日常の感染対策が必須である.今後,易感染性の末期腎不全患者の増加が見込まれるが,感染症の予防という点から,感染のリスク要因を極力排除し,症状出現時における早急な検査,診断を進めることが重要である.