著者
林田 重幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.301-306, 1957-12-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
16

鎌倉市材木座遺跡の中世日本馬の骨を観察, 計測した結果, 次の所見を得た。1. この骨は1333年 (元弘3年), 新田義貞鎌倉攻めの際の新田勢および幕府方の軍馬のものを主体とし, その前後の鎌倉・室町時代の馬の骨を含むと考えられる。これらの馬は関東産馬を主体とし, 甲斐, 信濃等の産馬をも含むと考えられる。2. 四肢骨から馬の体高を推定すると, 109~140cm, 平均129.477±1.098cmとなり, 主体は先史時代の中形馬であるが. また先史時代の小形馬も存し, なお両者の交雑による馬も含まれていると考える。これらの馬は軍馬が主体であるから, 当時の比較的大格馬が選択されているものであろうが, 同じ時代により多くの小格馬も存したと考えられる。これら鎌倉時代の馬も, 漸次文化の進展にともない, また軍馬としての必要上, 小形馬は淘汰せられ, 日本内地においては, わずかに在来馬として現在の木曽馬のように体高124~143cm平均133cmを有するものが残されたのであろう。3. 中手骨・中足骨の長幅指数, 尺骨, 第2・第4中手足骨の退化度において, 今回観察した鎌倉馬は, 日本先史時代馬, 現存日本在来馬に類似し, 蒙古馬とは異なる点が多々ある。漢代すでに中央アジアから, 西域馬としてアラブ系統馬が中国に入り, 蒙古馬との交雑も行なわれているから, 大陸からの導入と見なければならぬ日本在来馬の祖源をなした系統は, アラブ系統馬の影響を多分に受けたものであると考えざるを得ない。
著者
野沢 謙 江崎 孝三郎 若杉 昇 林田 重幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.234-242, 1965-06-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
21

わが国の九州南西方につらなる離島には体格の著るしく小さい在来馬が古くから飼われている.この系統の馬は本邦の繩文,弥生時代に最初に出現し.わが国の馬産に大きな影響を遺した最も古いタイプの在来馬である.われわれはこの種在来馬の遺伝子構成を究めるため,1961年より1964年にかけ,対馬,種子島,口永良部島,トカラ,奄美両群島,および琉球諸島に数回の遠征を試み,毛色と血液型を調査した.その際比較のため,日本内地から導入された種雄馬によって改良された雑種馬の遺伝子構成をも調査し,さらに何人かの先学によっておこなわれた,いろいろな馬種の毛色と血液型に関する調査結果をも参照した.これらの比較検討によって次のことが判明した.1. 島嶼型在来馬の集団には元来,青毛遺伝子(a)と河原毛,月毛を支配する優性稀釈遺伝子(D)とはなく,日本内地から導入された改良馬によつて雑種化されるとこれらの遺伝子が流入する.2. 島嶼型在来馬の集団は鹿毛と栗毛を支配するB-b座位は多型をあらわしている.雑種馬の集団に比べて,b遺伝子の頻度は著るしく高い.3. 島嶼型在来馬の集団にはU1原を支配する優性遺伝子の頻度は極めて低く,雑種化と共にこの頻度は規則正しく増加する.
著者
西中川 駿 大塚 閏一 林田 重幸
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.91-98, 1966-03-14

家畜の乳房血管系の研究として, さきに山羊28例の乳房血管分布について報告したが, 今回は乳牛(Holstein)14例の乳房血管分布を肉眼的に精査し, その走行および分岐状態を明らかにした.1.乳房に分布する動脈はA.pudenda ext.とA.perinealisがある.しかしこのA.perinealisの乳房実質への分布はほとんどみられなく, 乳房後部および乳鏡の皮膚に分布し, 乳房上リンパ節枝からの分枝と吻合する.A.pudenda ext.は一般に, A.subcutanea abdominisを分岐して, A.mammariaになると記されているが, 検索した乳房全例ともこのA.subcutanea abdominisはA.mammaria cranialisの移行枝としてみられた.2.A.mammariaは後乳区の乳房基底部で乳房実質に入り, 直ちにA.mammaria cranialisとA.mammaria caudalisとに分かれる.A.mammaria cranialisは後乳区の実質と後乳頭に達する枝を分け, さらに前乳区実質および前乳頭に分布する内側乳腺動脈を分けて, A.subcutanea abdominisに移行する.A.mammaria caudalisは乳房上リンパ節へ枝を分け, 後乳区実質に広く分布して, 後乳頭に達する.前後の乳区間の動脈吻合枝として, A.mammaria cranialisからの後乳頭枝がみられ, 左右乳区間には内側乳腺動脈からの分枝と乳房上リンパ節枝からの分枝がみられた.3.A.mammariaからの枝の分かれ方に4つのTypeがあり, そのTypeと出現頻度についてはFig.5に示した.4.静脈はおおよそ動脈に随伴して走り, 外径は同名の動脈の約2〜3倍の大きさで, 乳房基底面および腹面では左右の静脈が連絡し, いわゆる静脈輪を形成している.5.従来, 血液の流出する径路にはV.pudenda ext., V.subcutanea abdominisおよびV.perinealisの3つの径路があると記されている.しかし, 静脈弁の位置と構造からして, V.perinealisは乳房から血液の流れ去る径路とはならず, むしろ乳鏡付近でこの静脈に入つた血液は乳房に向い, 会陰静脈吻合枝, V.mammaria caudalisを通り, V.pudenda ext.へ流れると考えられ, また乳房を環流した血液はV.subcutanea abdominisよりもV.pudenda ext.へ流れ去るものが多いと考えられる.
著者
林田 重幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.329-334, 1958-02-28 (Released:2011-01-25)
参考文献数
74
著者
林田 重幸 山内 忠平
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.183-189, 1956

トカラ馬は,生物統計学上,体型的に済州島馬,宮古馬,八重山馬,海南島馬及び四川馬に近似性を示し,御崎馬木曽馬,北海道和種,満州馬及び蒙古馬とは近似度が低い。<br>東亜の在来馬を南方小形馬と北方中形馬に分けることが出来る。南方小形馬に属するものは,済州島馬,南鮮馬,宮古馬,八重山馬,海南島馬,四川馬,雲南馬,貴州馬,トンキ馬,アンナン馬,東インド諸島及フイリピンの在来馬である。その典型的なものは四川馬の名で知られる四川,雲南,貴州の山岳地帯に飼養される矮馬であり,その体高100~120cmの矮小馬である。トカラ馬は南方小形馬に属す。東インド諸島及びブイリピンの馬はその基礎は小形馬であると考えられるが,アラブ系統馬によつて,やや貴化と大格化をみる。北方中形馬に属するものは,北鮮,満州,蒙古,伊犁,ハイラル,サンペースの馬である。その典型的な在来馬は,内外蒙古に飼養される蒙古馬であると考えられ,その体123~136cm平均131.4cm程度のものであろう。伊犁及びサンペース馬は蒙古馬にアラブの血液の注入されたものである。本邦在来馬である御崎馬,木曽馬及び北海道和種は大さの点で北方中形馬に入る。<br>南方小形馬と北方中形馬の分布は図のようである。