著者
野沢 謙 江崎 孝三郎 若杉 昇 林田 重幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.234-242, 1965-06-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
21

わが国の九州南西方につらなる離島には体格の著るしく小さい在来馬が古くから飼われている.この系統の馬は本邦の繩文,弥生時代に最初に出現し.わが国の馬産に大きな影響を遺した最も古いタイプの在来馬である.われわれはこの種在来馬の遺伝子構成を究めるため,1961年より1964年にかけ,対馬,種子島,口永良部島,トカラ,奄美両群島,および琉球諸島に数回の遠征を試み,毛色と血液型を調査した.その際比較のため,日本内地から導入された種雄馬によって改良された雑種馬の遺伝子構成をも調査し,さらに何人かの先学によっておこなわれた,いろいろな馬種の毛色と血液型に関する調査結果をも参照した.これらの比較検討によって次のことが判明した.1. 島嶼型在来馬の集団には元来,青毛遺伝子(a)と河原毛,月毛を支配する優性稀釈遺伝子(D)とはなく,日本内地から導入された改良馬によつて雑種化されるとこれらの遺伝子が流入する.2. 島嶼型在来馬の集団は鹿毛と栗毛を支配するB-b座位は多型をあらわしている.雑種馬の集団に比べて,b遺伝子の頻度は著るしく高い.3. 島嶼型在来馬の集団にはU1原を支配する優性遺伝子の頻度は極めて低く,雑種化と共にこの頻度は規則正しく増加する.
著者
庄武 孝義 野沢 謙 田名部 雄一
出版者
Genetics Society of Japan
雑誌
遺伝学雑誌 (ISSN:0021504X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.223-237, 1977
被引用文献数
35

In central Ethiopia the hamadryas baboon, <i>Papio hamadryas</i> and the anubis baboons, <i>Papio anubis</i>, have been hybridizing naturally. Studies were made by using electrophoretical blood protein variations as markers in order to clarify the genetic interrelationships between them. A total of 414 individuals belonging to 7 populations were examined for 35 blood protein loci. Eleven of 35 loci showed polymorphism. The Tf locus was found to have the strongest power for discriminating between the anubis and the hamadryas. The results of our genetic survey revealed that most of the populations from which we collected blood samples were more or less hybridized. The Nei's (1975) genetic distance between the two species was estimated to be at most as 0.0674. As this value was too small to consider these species as real biological species, we think that the natural hybrid zone is fairly wide and still expanding now.
著者
江崎 孝三郎 早川 純一郎 富田 武 尾藤 惇一 野沢 謙 近藤 恭司
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.218-225, 1962 (Released:2008-03-10)
参考文献数
20

1. 長野県西筑摩郡の農家に飼育されている,いわゆる木曾馬の毛色に関して,1860年前後の古文書より,当時の状態を調査した.1943年以降は,「産駒登記原簿」および「伝染貧血症検査台帳」により,また直接に観察して,各種毛色の頻度の推移を調査した.2. 木曾馬産駒集団においては,年々鹿毛は増加,青毛は減少の傾向にあり,栗毛はほぼ一定の割合を維持している.河原毛および月毛は,合計してわずかに5%以下であつた.すなわち,遺伝子aの頻度qaは,1943年に約0.55であつたが,次第に減少して,1960年には約0.35となつた.遺伝子bの頻度qbは約0.45で,1943年以来この値を維持している.遺伝子Dの頻度qDは約0.02であつた.3. 以上の事実は,遺伝子A~aに関しては移行多型(transient polymorphism),遺伝子B~bに関しては平衡多型(balanced polymorphism)となつていることを示している.4. 木曾馬産駒集団における毛色の多型の維持と推移の機構に関して,種畜の選択に際して働く淘汰選抜の作用と,種畜から次の世代に移る間に働く淘汰に注目して,分析を行なつた.その結果,遺伝子aには,その頻度を減少させる方向に,上記二つの淘汰が相加的に作用すること,また遺伝子bに関してはは,前者がその頻度を,減少させる方向に,後者が増加させる方向に働いていることが判明した.そして,これら二つの要因によつて,鹿毛,青毛および栗毛の年次的変遷を遺伝的に説明することができた.