著者
武市 紀人 柏村 正明 中丸 裕爾 津布久 崇 福田 諭 鈴木 美華 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.214-219, 2009 (Released:2009-09-18)
参考文献数
11

難聴遺伝子診断が有用であった1例を経験した。本例は成人両側感音難聴症例であるにもかかわらず, 現病歴, 家族歴が不明であり, 合併症である転換性障害による機能性難聴の可能性も否定できず, 診断と治療に苦慮した。難聴遺伝子診断によりGJB2遺伝子異常による遺伝性難聴の確定診断となり人工内耳埋め込み術を施行した。本例はGJB2遺伝子による難聴としては緩徐に進行した非典型例であったが, 人工内耳の装用効果は十分であり, 術前は困難であったテレビ視聴や単独での外出も可能となった。遺伝子診断は倫理的な課題も多く, 通常の検査と異なり専門医による十分な配慮, 準備が必要である。当院では遺伝子診療部が中心となり遺伝子に関する業務を行っており良好な検査の施行が行えた。難聴遺伝子診断は難聴患者の診断法として非常に有用と考えられるので今後のさらなる普及が望まれる。
著者
柏村 正明 福田 諭 間口 四郎 樋口 栄作 犬山 征夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.2, pp.254-259, 1995-02-20
被引用文献数
6 1

声門下喉頭癌27例について臨床的検討を行った. 5年生存率が44%と他の部位の喉頭癌に比べ不良であった. その原因として, 放射線治療後の局所再発率の高さが第一に考えられた. さらにsalvage operationの結果がT2で低く, 声門下喉頭癌の治療は他の喉頭癌より放射線治療の適応を厳しくし, 初めから手術を念頭においた治療計画が必要と思われた. またT1でも照射終了後の化学療法を考慮すべきと考えられた. また進行例では転移が多く初回治療後の化学療法の施行や, 喉頭全摘時の頸部郭清の施行により予後の改善に努めるべきと思われた. 縦隔への転移例は少なかったが実際にはもう少し多いと思われ, 慎重な経過観察が必要と思われた.
著者
寺山 吉彦 滝沢 昌彦 後藤田 裕之 須藤 敏 柏村 正明
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.1, pp.28-33, 2003-01-20
被引用文献数
16 12

(目的)ブロー液は19世紀の医師Burowの考案した点耳液である.Thorpらは1998年以来,13%酢酸アルミニウムのブロー液原液の点耳により慢性化膿性穿孔性中耳炎に81%に著効を示したと報告した.そこで慢性中耳炎とその他の外耳道中耳の化膿性疾患に対するブロー液の効果を2001年2月から1年間調べた.(対象)年齢35-79歳,男10耳女15耳計25耳,これまでの罹患年月は2週-約20年,平均3.78年であった.疾患は中耳炎手術術後症11耳,慢性外耳道炎,湿疹7耳,外耳道真菌症7耳,慢性穿孔性中耳炎6耳,慢性肉芽性鼓膜炎2耳.(方法)1日1回10分間耳浴またはブロー液に浸した綿球を当てた.効果判定は治癒,有効,不変に分類.(結果)術後症は8/11耳(72.7%)が治癒,有効3耳,不変0耳,慢性外耳道炎湿疹の7耳全例が治癒,外耳道真菌症の7耳全例治癒,慢性穿孔性中耳炎は4/6耳(66.6%)治癒,有効,不変が各1耳,慢性肉芽性鼓膜炎の2耳が治癒し,全25耳では20耳80%が治癒し有効4耳,不変1耳であった.施行前後の聴検で耳毒性は認められなかった.粘稠性粘液,真珠腫,残存蜂巣の分泌には無効,副作用は稀にある疼痛と一過性の水様性分泌増加である.殺菌作用は菌種を選ばないと思われる.効果発現は1-2回,3日-3週と極めて早い.作用機転は濃度が濃いためと思われた.(結論)ブロー液は点耳薬として重大な副作用も<br>なく,極めて有効であることが判明した.