著者
柚木 理子
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.97-114, 2006

本稿の目的は,1990年代終わりから2000年代初めにかけての日本の労働時間を分析することにより,バブル崩壊後の男性の抱えるジェダー問題を考察することにある。雇用状況の悪化と共に日本の男性の働きすぎは異常ともいえる状況にある。過労死の増加と合わせ,週60時間以上働く男性が増加している。とりわけ,「サービス残業」という不払い労働が恒常化しているのである。オイルショック以降,妻は時間量を調整しながら,家事育児の不払い労働と両立させる形で支払い労働を担うようになり,「家庭と仕事の二重負担」を強いられてきた。だが「二重負担」に悲鳴を上げているのは妻ばかりではない。男性は所定内労働と所定外労働という支払いの対象になっている労働に加え,報酬が支払われない「サービス残業」を行っている。本来支払いの対象になるべき市場の中で行われている労働が「サービス」という「見えない」形にされ,市場における支払い労働と不払い労働の「二重負担」を負っていたのである。日本企業は「大黒柱」としての役割を男性に背負わせ,男性を「自発的に」働かせ,男性労働者の好意による「サービス」を引き出し,それを潜在的な「含み資産」として男性を死に追いつめるまで活用してきたのである。
著者
若桑 みどり 池田 忍 北原 恵 吉岡 愛子 柚木 理子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本課題は、20世紀において、男性が支配する国家が起こした世界戦争において、主導権を持たない女性が、ただに「被害者」となったのではなく、さまざまな方法で、戦争遂行に「利用」され、そのことによって一層その隷属性を悪質化したことを明らかにした。以下、代表および分担者の研究成果の要旨を個別に簡略に述べる。若桑は、南京の性暴力の「言説史」を中心課題として研究し、南京で性暴力を受けた被害者に関する日本ナショナリスト男性の「歴史記述」がこの被害を隠蔽したばかりでなく、この性暴力を批判した女性たちをも攻撃し、その言論を封殺したことを明らかにした。これは被害者としての女性への性暴力のみならず、女性の被害を記録する「女性の告発」をも抹消する行為であった。池田は、民族服の女性表象に着目し、アジア・太平洋戦争期における植民地・侵略地への帝国の眼差しを分析した。総力戦体制下の女性服めぐる言説と表象は、国家による女性の身体の管理と動員に深くかかわっていることを明らかにした。北原は、第一次世界大戦期にアメリカ合衆国で制作された戦争プロパガンダポスターに焦点をあて、女性が、男性を戦争へと誘惑する強力な徴発者として利用されたことを明らかにした。この誘惑する女性を媒介としてこれを「守る」男性性が「真のアメリカ人」として構築された。吉岡は中国入スターとして使用された日本人女優李香蘭の仮装と国籍の移動(バッシング)を分析し、植民地と宗主国の国境を逸脱する女が戦略的に植民地民衆の慰撫に利用されたことを明らかにした。