- 著者
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池田 忍
イケダ シノブ
IKEDA Shinobu
- 出版者
- 千葉大学大学院人文社会科学研究科
- 雑誌
- 千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
- 巻号頁・発行日
- vol.279, pp.191-204, 2014-02-28
千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 第279集 『歴史=表象の現在』上村 清雄 編"The Presence of History as Representation", Chiba University Graduate School of Humanities and Social Sciences Research Project Reports No.279近年、アイヌの人々を主体とする文化の発信力は高まり、その需要や研究の状況は大きく変わりつつある。とりわけ、かねてより知られる木彫、刺繍、アットゥシ織といった工芸分野を中心に展覧会の機会が増えた。背景には、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(本稿では通称の「アイヌ文化振興法」を用いる)の成立(一九九七)以後、衆参両議院における「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択され(二〇〇七)、内閣官房長官の要請により設置された「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が報告書を提出(〇九)、白老ポロト湖畔に「民族共生の象徴となる空間」となる国立博物館の二〇二〇年度開設が決定する(一三・七)といった国の政策の進展がある。「アイヌ文化振興法」の成立以降は、公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構(通称の「アイヌ文化財団」を用いる)が予算措置の面でも重要な役割を果たし、各地の博物館や美術館と共に主催する展覧会において、国内外のアイヌ工芸や民具のコレクションが継続的に紹介されるようになった。また博物館や美術館に限らず、現代の作品に触れる場、機会も開かれている。しかしながら、アイヌの人々が手がける造形は必ずしも「工芸」分野に限らず、またたとえ「伝統」的とみなされる木彫や刺繍などの手法を用いても、それぞれの作家がめざす表現世界は広がりをみせている。版画、イラスト、アニメーション、映像作品などを手がける表現者が現れている。そのような状況下で、「アイヌ・アート」という呼び名がさまざまな文脈で用いられ始めた。それは、…