著者
柳原 尚之 前橋 健二 阿久澤 さゆり 穂坂 賢 小泉 幸道
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.132-140, 2021-06-05 (Released:2021-06-17)
参考文献数
37

江戸期の料理本33冊から酢料理を抽出し,江戸期の酢の使われ方について調査した。江戸時代を通して酢の総出現数は1,371回であり,醤油の出現数をやや上回っていた。江戸時代前期では,酢の出現数は醤油の1.5倍であったことから,酢は醤油が広まる以前は最も多く使われる調味料であったことが推察された。出現回数が最も多かった酢料理は魚のなますで,全酢料理の43.9%を占めていた。合わせ酢の種類が多く,香辛料,食材,または調味料との合わせ酢が122種類確認され,そのうち61種類は香辛料や食材と合わせた酢味噌であった。酢を用いた加熱調理法として最も多く出現していたのが「すいり」であり,主に煮物で行われていた。これには酢を加えてから煮る場合と,煮た後に酢を加える2種類の方法があった。その他の加熱調理法として,少量の酢を加えて加熱する方法や生魚に熱い酢をかける方法も見られた。現代の日本料理ではほとんど行われない,酢の加熱調理への使用は,江戸期では一般的なものであったと考えられた。
著者
柳原 尚之 前橋 健二 阿久澤 さゆり 穂坂 賢 藤井 暁 長野 正信 小泉 幸道
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-10, 2022-02-05 (Released:2022-02-08)
参考文献数
31

江戸期及びそれ以前の書物に記載されている酢製造法を調査し,16冊の書物から33件の米酢製造法を抽出した。江戸期の米酢製造法では,現代と比べて汲水歩合が著しく低く,仕込み時期は夏が多く,仕込み期間は1週間から1カ月程度と短いものが多いという特徴がみられた。江戸期書物記載の方法による再現仕込み試験は,江戸期から伝統的製法で壺酢製造を続けている酢製造会社にて行われた。その結果,汲水歩合が現代と同様およそ300%の仕込みでは30日目以降に酢酸発酵を認められたが,汲水歩合がおよそ100~250%の仕込みにおいては,仕込初期に乳酸発酵で 1~2 g/100 mlの乳酸が生成され,9~13 g/100 mlという高いエタノール濃度となって酢酸発酵へは移行しなかった。江戸期には,乳酸を酸味の主体とする発酵物が酢として作られていた可能性が示唆された。