著者
安藤 雄一 青山 旬 尾崎 哲則 三浦 宏子 柳澤 智仁 石濱 信之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.319-324, 2016 (Released:2016-07-13)
参考文献数
25
被引用文献数
1

目的 歯科疾患実態調査は1957年から 6 年間隔で行われ,わが国の歯科保健の状況を把握する貴重な資料として活用されてきたが,協力率が近年減少傾向にある。その原因として,本調査と同一会場で行われている国民健康・栄養調査の血液検査への協力有無が強く影響していることが現場関係者から指摘されている。そこで,歯科疾患実態調査への協力率を血液検査への協力の有無別に比較することを目的として,政府統計の利用申請を行い,利用許可を得た個票データを用いて分析を行った。方法 データソースは,①平成23年国民生活基礎調査(世帯票),②平成23年国民健康・栄養調査(身体状況調査票,生活習慣調査票),③平成23年歯科疾患実態調査で,共通 ID によりリンケージを行い,性・年齢に不一致が認められなかった13,311人のデータを用いた。分析として,まず国民生活基礎調査の協力者(13,311人)を分母とした国民健康・栄養調査における血液検査を含む各調査と歯科疾患実態調査の協力率を算出し,次いで国民健康・栄養調査における各調査への協力状況別に歯科疾患実態調査の協力率を比較した。結果 国民生活基礎調査の協力者を分母とした協力率は,国民健康・栄養調査全体では56.9%であった。国民健康・栄養調査を構成する生活習慣状況調査と身体状況調査について 1 項目でも該当するデータがあった場合を協力とみなして算出した協力率は,前者が56.8%,後者が45.4%であった。血液検査の協力率は29.9%で,歯科疾患実態調査では28.1%であった。性・年齢階級別にみた血液検査と歯科疾患実態調査の協力率は酷似していた。 歯科疾患実態調査の協力率を身体状況調査への協力状況別に比較したところ,同調査に協力しなかった人たちと同調査に協力したものの会場に来場しなかった人たちでは協力率がほぼ 0%,来場したが血液検査に協力しなかった人たちでは17.7%,来場して血液検査に協力した人たちでは95.8%と,身体状況調査の協力状況別に著しい違いが認められた。結論 「歯科疾患実態調査の協力者≒血液検査の協力者」という関係が成人において認められ,歯科疾患実態調査に協力する機会が国民健康・栄養調査における血液検査の協力者にほぼ限定されていたことが明らかとなった。
著者
相田 潤 安藤 雄一 柳澤 智仁
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.458-464, 2016 (Released:2016-12-08)
参考文献数
40
被引用文献数
7

口腔の健康格差解消が日本の健康政策や国際的な学会で述べられている.しかし日本人の全国的なライフステージごとの口腔の健康格差の実態は不明である.そこで政府統計調査データを利用した横断研究を実施した.平成17年の歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査のデータセットをリンケージさせ,3,157人のデータを解析した.社会経済状況の指標に等価家計支出を用いた.共変量として性別,年齢,居住地域類型を用いた.幼児期(1~5歳,N=116),学齢期(6~19歳,N=353),成人期(20~64歳,N=1,606),高齢期(65歳以上,N=1,082)ごとの層別解析を行った.幼児期では乳歯う蝕経験の有無,学齢期では永久歯う蝕経験の有無,成人期では進行した歯周疾患(CPIコード3以上)の有無,高齢期では無歯顎かどうか,を目的変数として用いた.ポアソン回帰分析を用いて,等価家計支出が低いほど歯科疾患を有したり無歯顎である関連が存在するかを検討した.解析の結果,成人期の歯周疾患(p=0.001)および高齢期の無歯顎(p<0.001)で,等価家計支出が低いほど統計学的に有意に有病者率が高い傾向が認められた.学齢期の永久歯う蝕経験については,統計学的に有意ではなかったものの,等価家計支出が低いほど多い傾向が認められた(p=0.066).対象者数が少なかったためか,乳歯う蝕経験については明確な傾向は認められなかった.今後,口腔の健康格差を減らすため社会的決定要因を考慮した対策がより一層必要であろう.