著者
長 広美 柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.191-206, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
37

本研究は,先行研究から見えた調査上の課題点を踏まえ精度の高いSNS利用状況を把握すること,各SNS利用の代替・補完性について明らかにすること,そして,SNS利用が学業成績に及ぼす影響について体系的に解明することを目的とした。SNS利用時間の測定では,調査票調査や日記式調査にみられる自己申告によるものでなく,調査対象者の大学生(N=153)が所持しているスマートフォンのバッテリー使用状況を用いて収集した。学業成績の測定についても,先行研究の多くが採用している自己申告GPAではなく,専門科目の学期末試験の得点を用いた。分析の結果,LINEとInstagram,TwitterとYouTubeとの間にそれぞれ補完的な利用関係があることが明らかになった。学業成績には,LINE,Twitter,YouTubeの利用が負の影響を与えていた。つまり,これらのSNSの利用時間が増えるほど学業成績が悪くなることが示唆された。本研究結果は,SNS利用によって注意力が散漫になったり,SNSに費やす時間が学習の時間を減少させ,結果として学業成績の低下につながるという先行研究結果と整合性があるものであった。本研究では,SNS利用と学業成績との関連性の議論に実証的根拠を示すことができたとともに,当研究領域における現代社会のSNS利用行動の複雑さを解明する一つの可能性を見出した。
著者
柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.61-76, 2012

日本社会は,Beck(1986=1998)らが指摘するリスク社会を東日本大震災(2011年3月11日)で経験することになった。特に,福島第一原発事故は,事故後の避難計画や除染方法,食品や水の安全性,健康被害,風評被害,政府の対策,エネルギー問題,環境問題などのさまざまな問題を提起している。人びとがこうした「新しいリスク」に対処するとき,その主要な情報源となるものがメディア報道である。本研究では,「新しいリスク」の事例として「放射性セシウム汚染牛問題」を取り上げ,メディア報道が「新しいリスク」の情報を人びとに伝える際に,どのように報道の枠組み,つまり,メディア・フレームを使用するのかを,計量テキスト分析によって探索的に検討した。その結果,「放射性セシウム汚染牛問題」の新聞報道では,「現状フレーム」,「対策フレーム」,「原因フレーム」,「要求フレーム」,「被害フレーム」,「人体への影響フレーム」,「食品フレーム」,「原発事故フレーム」の8つのメディア・フレームが強調されていた。さらに,これら8つのメディア・フレームの出現数は,時系列で変化していたことが明らかになった。以上の知見から,「放射性セシウム汚染牛問題」の報道は,8つのメディア・フレームに依拠し,そのメディア・フレームを時期的に変化させることで,リスク事象の報道内容にストーリー性をもたせ,短期間でパッケージ化されていることが見出された。しかし,短期間でのメディア・フレームのパッケージ化による情報伝達が,リスク社会下に生きる人びとに対して,「新しいリスク」の危険性を浸透させることに適しているのかといった問題点も挙げられた。
著者
長 広美 柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.191-206, 2020

<p>本研究は,先行研究から見えた調査上の課題点を踏まえ精度の高いSNS利用状況を把握すること,各SNS利用の代替・補完性について明らかにすること,そして,SNS利用が学業成績に及ぼす影響について体系的に解明することを目的とした。SNS利用時間の測定では,調査票調査や日記式調査にみられる自己申告によるものでなく,調査対象者の大学生(<i>N</i>=153)が所持しているスマートフォンのバッテリー使用状況を用いて収集した。学業成績の測定についても,先行研究の多くが採用している自己申告GPAではなく,専門科目の学期末試験の得点を用いた。</p><p>分析の結果,LINEとInstagram,TwitterとYouTubeとの間にそれぞれ補完的な利用関係があることが明らかになった。学業成績には,LINE,Twitter,YouTubeの利用が負の影響を与えていた。つまり,これらのSNSの利用時間が増えるほど学業成績が悪くなることが示唆された。本研究結果は,SNS利用によって注意力が散漫になったり,SNSに費やす時間が学習の時間を減少させ,結果として学業成績の低下につながるという先行研究結果と整合性があるものであった。本研究では,SNS利用と学業成績との関連性の議論に実証的根拠を示すことができたとともに,当研究領域における現代社会のSNS利用行動の複雑さを解明する一つの可能性を見出した。</p>