著者
梅津 光弘
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.53-63, 2014-02

今口忠政教授退任記念号#論文功利主義は18世紀にイギリスで生まれた倫理思想であり, 「最大多数の最大幸福」をその規範原理としてきた。本論文ではこの規範倫理学説を現代の視点から再解釈する。まず, 古典的な功利主義の要約とその問題点を跡づけた後, この原則には空間─時間の理論枠の導入が欠けていることを指摘し, さらに現代的な観点から功利計算問題へのビッグデータ技術からの貢献の可能性が論じられる。さらに最大幸福の概念についても, 昨今の幸福研究の成果をふまえた指標化の試みを紹介しながら, 総合的な再定義の可能性と課題が論じられる。
著者
梅津 光弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度は3か年におよぶ研究の最終年として、これまでの研究成果をふまえた日米の比較およびまとめをおこなった。4月には日本経営学会関東部会,8月にはアメリカ経営倫理学会、9月には日本経営学会大会、慶應義塾商学会例会、10月にはアメリカ企業倫理担当者会議においてそれぞれ研究発表を行った。日本における不祥事にはいくつかのパターンが見られるが、その誘因としては組織内における営利を最優先する組織文化やそのなかで慣例とされている多くの業務遂行方式があげられる。そうした慣行が放置されると現場の従業員は倫理や法令遵守よりも営利を優先して当然とする錯覚に陥り、無自覚なまま不正行為を行い続けることになる。また不正行為がはびこる職場ではコミュニケーションの悪さが目立ち、管理者に対する隠ぺい工作などが行われ、現場と管理者との認識や価値観の乖離を招く傾向がある。欧米においてもこのような傾向は見られるものの、法令や倫理を経営トップが重視する方針が明示されると、従業員はそれに従う傾向があるのに対し、日本の企業においてはより現場にちかい監督者やその部署の風土、同僚の影響などが大きな要因となる。こうした、日本的な組織の特徴を考えると、法令遵守や契約を重視する企業倫理プログラムよりも、価値共有を浸透させる組織内制度の構築が重要であることが分かる。本研究の成果として、日本の組織における組織内不正行為の防止およびその再発防止策としてはリーダーシップの重要性や細かいルールの策定もさることながら、より現場に密着した組織文化の構築や、分かりやすい原則を徹底することが重要かつ効果的な施策であると結論付けることができる。ここ数年、日本の企業においても企業倫理プログラムを導入するところが増加しており、以前に比べると改善が見られるものの、法令遵守を強調する倫理プログラムが多く、また一部の企業では表面的な制度の導入にとどまり、組織内における価値観の共有、浸透・徹底が不十分である。また現場に対する教育・訓練野実施も不十分である。今後は日本の企業をはじめとする各種の組織において、より自発的な浸透への努力がなされるべきであり、そうした能動的な倫理や法令遵守にかんする理解と取り組みなしでは、真の意味での再発防止にはつながっていかない。今後いっそうこの分野における研究と日本的な組織風土にあった制度化のイノベーションが求められている。