著者
梨田 一也
出版者
一般社団法人 水産海洋学会
雑誌
水産海洋研究 (ISSN:09161562)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.61-70, 2020-05-25 (Released:2022-03-17)
参考文献数
20

ニギスは日本周辺における沖合底びき網漁業の主要な漁獲対象種の一つである.魚類発育初期の成長の良否は生残を左右し,資源加入にも影響を及ぼすと考えられるが,ニギス仔稚魚の成長・生残に関わる知見は少ない.2008年4月から2010年3月にかけて,日本の南西部に位置する土佐湾において小型のオッタートロール網を用いてニギス仔稚魚を毎月採集した.標準体長(SL)組成の経時変化により,2–7月頃に小型個体(SL<40 mm)が加入し,約100 mm SLに成長するまで連続的に採集された.明確に識別されたコホートを複数月にわたり追跡し,採集日の間隔と耳石輪紋増加数がほぼ一致することから耳石輪紋の日周性が確認された.採集個体の第一輪形成日(DFRF)を年毎に集計した結果,いずれの年も2–7月に緩やかなピークを持つ単峰型であったことから,土佐湾のニギスは初春から初夏に産卵盛期を有すると考えられた.このことは,日本海におけるニギスが春季と秋季に二つの産卵期を持つという従来の知見とは異なっている.月別のDFRF分布から2008年には春季と夏季の2つのグループが示されたのに対し,2009年では一つのグループ(春季)のみが示された.成長パターンを明らかにするため,2008年と2009年の各グループにおいて第1輪から第56輪までの耳石輪紋間隔を5日ごとに平均した.2008年および2009年春季グループは2008年夏季グループに比べ耳石輪紋間隔は狭い傾向であったが,特に早く採集された個体(短期生残個体)は遅く採集された個体(長期生残個体)に比べ耳石輪紋間隔が狭かった.しかし,2008年夏季グループにおいては短期生残個体の方が長期生残個体よりも耳石輪紋間隔が広い例がみられた.以上により,土佐湾のニギスは発育初期の環境に恵まれなかった場合には成長選択的に生残することが示唆された.
著者
梨田 一也 岡田 誠
出版者
中央水産研究所
雑誌
黒潮の資源海洋研究 = Fisheries biology and oceanography in the Kuroshio (ISSN:13455389)
巻号頁・発行日
no.15, pp.57-62, 2014-03

ゴマサバScomber australasicusは北海道南部以南~西部太平洋~オーストラリア南部,ニュージーランド,ハワイ諸島およびメキシコ沖に分布し(Nakabo 2002),同属のマサバS. japonicusとともに本邦太平洋側における重要な水産資源である(川端他 2014)。ゴマサバ太平洋系群には,東シナ海~黒潮続流域から東北~北海道海域を大規模に回避する群れ(広域回遊群)のほか,黒潮周辺の沿岸域に周年分布する群れ(沿岸分布群)も多く(川端他 2014),さまざまな生活型に由来する複雑な年齢-体長関係が想定される。したがって,ゴマサバ太平洋系群に対する適切な資源管理の実行には,それぞれの生活型を踏まえた解析が望ましく,季節ごと,海域ごとの年齢-体長関係の把握が必要である。さば類の鱗による年齢査定については,比較的多くの知見が得られているが(例えば近藤・黒田 1966,花井 1999,渡邊他 2002),熊野灘以西で多いことが推測される沿岸分布群のゴマサバについての情報は十分とはいえず,熊野灘においては年齢査定に関する知見はない。また,熊野灘のゴマサバは広域回遊を行わない沿岸分布群が漁獲の主体とみられるものの,近年では広域回遊群の来遊も示唆されることから(岡田 2011),特に熊野灘における年齢査定は重要であり,かつ慎重を期する必要がある。近藤・黒田(1966)は過去のさば類の年齢査定に関する研究を総説的に紹介し,さば類の年齢査定法に関する教科書的な論文となっている。しかしながら,鱗を用いた年齢査定の具体的な方法については断片的な記述にとどまっており,初めてさば類の鱗を用いて年齢査定を行いたいと考える研究者にとっては,より詳細な年齢査定の基準や再生鱗の判別,偽年輪の判定などの具体的なマニュアルが望まれている。また一方では,年齢査定を行う各県の水産試験場等の研究者は異動頻度が高く,年齢査定のノウハウが継承されない場合が多いため,継承性をいかに確保するかも課題となっている。そこで,本報告では熊野灘で漁獲されたゴマサバの鱗を用いて,年齢査定を行う手順について標準的なマニュアルを作成すること,および熊野離における年齢査定上の注意点を整理することを目的とした。本報告が,これからゴマサバの年齢査定を行う研究者に参考になれば幸いである。