著者
内藤 靖彦 Boeuf Burney J. Le 浅賀 朋宏 Huntley Anthony C. Yasuhiro Naito Burney J. Le Boeuf Tomohiro Asaga Anthony C. Huntley
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-9, 1989-03

南極アザラシの冬季潜水行動を知るために開発した長期潜水記録計の現場実験を, 回収が容易なキタゾウアザラシ(Mirounga angustirostris)を用いて行った。現場実験はキタゾウアザラシの連続的な深い潜水行動を知ることを主要な目的としてカリフォルニア, アニュ・ノエボ海岸で行った。1987年2月繁殖終了後の雌の成獣に記録計を装着し, 換毛のため再上陸した5月に記録計の回収を行い, 潜水行動記録として初めて73日間におよぶ長期連続記録を得た。潜水回数は, 73日間5024回であり, 1時間平均2.9回の潜水を行った。全潜水の平均深度は463.9±147mであり, 平均潜水時間は17.1±3.4分であつた。最大潜水深度と最大潜水時間は, 934mと33.5分であつた。最大潜水深度は実測された鰭脚類の深度としては最も深い記録であった。潜水は初めの4日間は深度を徐々に増し, 500m深度に達すると安定した。しかし, 潜水深度は昼夜で変わり, また約20日単位でも変化した。潜水時間は長期にも安定していた。ESI (Extended Surface Interval)直後の潜水は非常に浅い潜水から再開され, 数回の深度を増す潜水を経て通常の深度に達した。以上の実験の結果, 本記録計は装着による動物行動への影響がないことが判明し, 南極アザラシでも有効に利用できることがわかった。Seventy-three days long diving record of an adult female northern elephant seal (Mirounga angustirostris) was obtained using the long-term time depth recorder which was developed for Antarctic seal research by the National Institute of Polar Research, Tokyo. It was observed that the female northern elephant seal dived to a great depth continuously for a long period. It dived 5024 times during 73 days, 2.9 times per hour on the average. The mean dive depth and duration were 463.9±147m and 17.1±3.4min, the maximum values being 934m and 33.5min. The dive depth increased gradually on the first 4 days. After that, it fluctuated diurnally, while the dive duration remained rather stable. Following the extended surface intervals (ESIs : defined as surface intervals longer than 10min) dives were shallow but the depth increased gradually.
著者
伊藤 慎一郎 三谷 曜子 佐藤 克文 内藤 靖彦
出版者
日本流体力学会
雑誌
日本流体力学会年会講演論文集 (ISSN:13428004)
巻号頁・発行日
vol.2006, 2006-09-05

The authors found that bodies of seals had natural oscillation in pitching and rolling motions in drift dive phase by data loggers. The phenomenon is periodically oscillated at a low frequency not by flippering movement. Model experiments were performed in a circulating water channel and in a wind tunnel. The result shows clearly that the oscillatory motion of the bodies of seals during the drift dive was caused by flow induced vibration.
著者
渡辺 研太郎 中嶋 泰 内藤 靖彦
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
no.75, pp.p75-92, 1982-03
被引用文献数
1

1981年1月15日から31日にかけて, 昭和基地付近の3点(底質は砂地と岩場)において, 第21次南極地域観測越冬隊および第22次夏隊に参加した3名が, SCUBA(自給気潜水器)を用いた生物調査を行った。潜水回数は15回, 延べ33回・人。各回の潜水時間は約45分, 最大55分で, 最大潜水深度は18mであった。使用したドライスーツをはじめとする潜水機材は, 南極の夏季の潜水作業には十分な性能を備えていることが判明した。調査の結果, これまでトラップでは採集できなかったナンキョクツキヒガイなどのろ過食性生物を含め, 約200点の底生生物を採集した。このほか35mmカラーフィルムで約250こま, 8mmカラーフィルムで約400フィートの水中写真に生物の生態を記録し, 所期の目的を達成した。
著者
内藤 靖彦 ROPERT?COUDERT Yan ROPERT-COUDERT Y. M.
出版者
国立極地研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

西オーストラリアにおいてリトルペンギン(Eudyptula minor)の採餌生態に関する研究を行った。これまでこの鳥の海での行動に関することはほとんどわかっていなかった。この研究には2つの目的があり、1つは基礎的な生態研究で、もう1つは個体群の保護、管理に役立つ情報を得ることであった。野外調査は2001年9月と2002年8月にオーストラリア、パース近郊の動物園およびペンギン島のリトルペンギン繁殖地で、共同研究者のDr.B.C.Cannell(マードック大学)とともに実施した。Dr.Cannellはこの研究における個体群の保護、管理に関わる部分を担当した。現地ではデータロガーの装着回収、ヒナの計測、餌生物の採集を行った。得られたデータは日本で解析し、この種において初めて潜水採餌戦略に大きな個体差があることを発見した。これはすでに論文としてまとめられ、現在Waterbirds(国際学術誌)で印刷中である。他に2つの論文を準備中であり、1つはB.C.Cannell et al.によるリトルペンギンの潜水行動の特徴を記載したもので、本種の保護と管理には海中における施策が不可欠であることを示している。もう1本は加速度データロガーを用いたリトルペンギンの詳細な行動時間配分に関するものである。潜水採餌戦略の個体差に関しては2001年12月に国立極地研究所で開催された極域生物シンポジウムにおいても発表した。
著者
内藤 靖彦 Yasuhiko Naito
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.406-423, 1999-11

第25次南極地域観測隊は越冬隊36名, 夏隊11名の構成のもと, 1983年11月14日東京港を出発した。25次隊には観測隊員以外に, 本部委員1名, 外国交換科学者1名(アメリカ), 報道関係者5名(新聞取材2名, テレビ取材3名), 造船関係者5名の計12名が同行した。「しらせ」就航により輸送量の増大や早期の接岸が期待され, 新発電棟設備の工事など多くの夏作業が計画された。12月14日には氷縁に到着したが, 18日には昭和基地北42.7マイル地点で厚さ10mに及ぶハンモックアイス帯に遭遇し, 輸送の遅れが懸念された。幸いハンモックアイス帯を無事突破, 1月5日には6年ぶりに接岸に成功し774トンの物資輸送を行った。昭和基地方面における新発電棟関連の工事などすべての活動を1月末までに終了し, 「しらせ」は2月1日反転北上, セールロンダーネ山地地学調査のためブライド湾に向った。2月3日よりL0,30マイル拠点への輸送, 雪上車組立, 小屋設置の諸作業を行った後, 地学旅行隊は12日から23日の期間で調査を実施した。地学調査と並行し「しらせ」はブライド湾, グンネルスバンク域において海洋観測を実施した。乗員に患者が発生したため予定を変更し, 2月23日反転北上し, ケープタウンに向かった。2月3日ケープタウン入港, 患者は無事下船, 2月5日ポートルイスに向け出港した。以後ポートルイス, シンガポール経由し予定通り4月19日東京港に戻り, 25次隊の行動を終了した。The 25th Japanese Antarctic Research Expedition (JARE-25) consisted of 36 wintering members and 11 summer members. The summer party was accompanied by one observer from JARE headquarters, one foreign exchange scientist from the U.S.A., 2 press observers, 3 TV crews, and 5 ship engineers. The icebreaker "Shirase" left Tokyo on November 14,1983 as her first voyage to Antarctica and arrived at the pack ice edge near Lutzow-Holm Bay on December 14. On December 18 she encountered a heavy hummock ice zone at the mouth of Lutzow-Holm Bay. She managed to break through it and succeeded to anchor at Syowa Station. She off loaded 774 tons of cargo there. Logistic operations such as construction of a new power house, the new power system in it and observation facilities progressed on the planned schedule and "Shirase" left there on February 1,1984 for Breid Bay to support geological field survey at Sor Rondane Mountains and to conduct oceanographic survey. "Shirase" stayed in Breid Bay and adjacent waters from February 3 to February 23. Thereafter she changed her destination to Cape Town, South Africa, to carry a patient. She arrived in Cape Town on March 3 and left there March 4 for Tokyo via Port Louis, Mauritius and Singapore. Wintering members of JARE-24 and some observers left the ship at Port Louis. Along her cruise track she conducted oceanographic observations as planned.
著者
高橋 晃周 佐藤 克文 西川 淳 河野 通治 内藤 靖彦
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.38-41, 2000-03

アデリーペンギンの集団繁殖地の分布および繁殖数の調査を, 1998年12月23日, エンダービーランド・アムンゼン湾において, ヘリコプターをもちいて行った。これまでに報告されていた1ヵ所に加え, 新たに3ヵ所の集団繁殖地を発見した。これら4繁殖地でのアデリーペンギンの繁殖数の合計はおよそ9760ペアで, アムンゼン湾の繁殖個体群は東エンダービーランドにおける最大規模の繁殖個体群であることが明らかになった。
著者
内藤 靖彦
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.406-423, 1999-11

第25次南極地域観測隊は越冬隊36名, 夏隊11名の構成のもと, 1983年11月14日東京港を出発した。25次隊には観測隊員以外に, 本部委員1名, 外国交換科学者1名(アメリカ), 報道関係者5名(新聞取材2名, テレビ取材3名), 造船関係者5名の計12名が同行した。「しらせ」就航により輸送量の増大や早期の接岸が期待され, 新発電棟設備の工事など多くの夏作業が計画された。12月14日には氷縁に到着したが, 18日には昭和基地北42.7マイル地点で厚さ10mに及ぶハンモックアイス帯に遭遇し, 輸送の遅れが懸念された。幸いハンモックアイス帯を無事突破, 1月5日には6年ぶりに接岸に成功し774トンの物資輸送を行った。昭和基地方面における新発電棟関連の工事などすべての活動を1月末までに終了し, 「しらせ」は2月1日反転北上, セールロンダーネ山地地学調査のためブライド湾に向った。2月3日よりL0,30マイル拠点への輸送, 雪上車組立, 小屋設置の諸作業を行った後, 地学旅行隊は12日から23日の期間で調査を実施した。地学調査と並行し「しらせ」はブライド湾, グンネルスバンク域において海洋観測を実施した。乗員に患者が発生したため予定を変更し, 2月23日反転北上し, ケープタウンに向かった。2月3日ケープタウン入港, 患者は無事下船, 2月5日ポートルイスに向け出港した。以後ポートルイス, シンガポール経由し予定通り4月19日東京港に戻り, 25次隊の行動を終了した。
著者
内藤 靖彦 ELVEBAKK Arv WIELGOLASKI フランスエミル 和田 直也 綿貫 豊 小泉 博 中坪 孝之 佐々木 洋 柏谷 博之 WASSMANN Pau BROCHMANN Ch 沖津 進 谷村 篤 伊野 良夫 小島 覚 吉田 勝一 増沢 武弘 工藤 栄 大山 佳邦 神田 啓史 福地 光男 WHARTON Robe MITCHELL Bra BROCHMANN Chirstian ARVE Elvebak WIELGOLASKI フランス.エミル 伊村 智
出版者
国立極地研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

北極の氷河末端域における生態系の変動は温暖化に強く関連するといわれているがあまり研究はなされていない。とくに今後、北極は4〜5℃の上昇が予測されているので調査の緊急性も高い。本研究では3年間にわたり(1)植生及び環境条件の解明、(2)繁殖過程の解明、(3)土壌呼吸と温度特性の解明、(4)土壌節足動物の分布の解明、(5)人工環境下での成長変化の解明を目的として調査、観測が実施された。とくに気候変動がツンドラの生態系に及ぼす影響を、遷移初期段階である氷河モレーン上に出現する動物、植物の分布、定着、生産、繁殖、移動について研究を行った。調査、観測は海洋性気候を持つスバールバル、ニーオルスンの氷河後退跡地で実施した。初年度は植生及び環境条件の解明を目的として6名の研究者を派遣した。氷河末端域のモレーン帯の植物の遷移過程の研究では、氷河末端域から約50メートル離れたモレーンに数種の蘚類が認められ、これらはパイオニア植物として考えられた。種子植物は100メートル過ぎると出現し、地衣類の出現はむしろ遅いことが明らかになった。また、遷移段階の古いチョウノスケソウ群落は立地、土壌中の窒素量の化学的特性の違いによって7個の小群落に区分された。2年度は植生と環境条件の解明を引き続き実施すると共に、遷移初期段階における植物の繁殖、土壌呼吸と温度特性、土壌節足動物の生態の解明を目的として実施された。現地に6名の研究者が派遣された。観測の成果としては昨年、予備的に実施したスゲ属の生活形と種子繁殖の観察を踏まえて、本年度はムカゴトラノオの無性繁殖過程が調査された。予測性の低い環境変動下での繁殖特性や繁殖戦略について、ムカゴの色、大きさ、冬芽の状態が環境の変化を予測できるという実装的なアプローチが試みられた。パイオニア植物といわれているムラサキユキノシタは生活型と繁殖様式について調査され、環境への適応が繁殖様式に関係しているなど新たな知見が加わった。また、氷河末端域の土壌呼吸速度は温帯域の10%、同時に測定した土壌微生物のバイオマスはアラスカの10%、日本の5%程度であることが始めて明らかにされた。土壌節足動物の分布の解明においては、一見肉眼的には裸地と見なされるモレーン帯にもダニ等の節足動物が出現し、しかも個体数においては北海道の森林よりもむしろ多いなど興味深い結果が得られた。最終年度は2年度の観測を継続する形で、6名の研究者を現地に派遣した。実施項目は氷河後退域における植生と環境調査、土壌と根茎の呼吸調査、および繁殖生態調査が実施された。観測の成果としては植生と環境調査および土壌と根茎の呼吸速度の観測では興味深い結果が得られ、すなわち、観測定点周辺のポリコンの調査では植物および土壌節足動物の多様性が大きいことと、凍上および地温に関する興味深いデータが取得された。また、土壌および根茎の呼吸速度の観測では、実験室内での制御された条件での測定を行い、温度上昇に伴って呼吸速度は指数関数的に上昇するが、5度以上の温度依存性が急に高くなり、これは温帯域のものより高かった。これらを更に検証するためにより長期的な実験が必要であるが、今後、計画を展開する上で重要なポイントとなるものと考えられる。さらに、チュウノスケソウの雪解け傾度に伴う開花フェノロジー、花の性表現、とくに高緯度地域での日光屈性、種子生産の制限要因についての調査では、生育期間の短い寒冷地での繁殖戦略の特性が明らかにされた。初年度および最終年度には、衛星による植物分布の解析し環境変動、北極植物の種多様性と種分化について、ノルウェー側の共同研究者と現地で研究打ち合わせを持った他に、日本に研究者を招聘して、情報交換を行った。最後に3年間の調査、観測の報告、成果の総とりまとめを目的として、平成9年2月27、28日に北極陸域環境についての研究小集会、北極における氷河末端域の生態系に関するワークショップが開催された。研究成果の報告、とりまとめに熱心な議論がなされた。