著者
梶田 真
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.41-60, 2011
参考文献数
33
被引用文献数
1

本稿では,国土縁辺部にある一奥地山村旧A村(現在,G市A町)を事例として,1990年代末期以降の公共事業縮小・入札制度改革の下における土木業者の再編過程を跡づけた。1990年代末期以降,旧A村の地元土木業者は,公共事業縮小・入札制度改革に加えて,域外業者の参入に苦しみながらも,業者間競争を激化させたり,撤退や合併による経営基盤の強化という経営行動をとることなく,旧A村内外での受注調整を堅持し,売り上げの減少や利益率の低下の中で,自己資本を切り崩しながら「我慢比べ」を続けていることが明らかになった。このような事態が発生した一因として,国の土木業再編に関するシナリオにおいて,国土縁辺部における土木業者群の特徴などの地域的な文脈がほとんど理解されていないことが挙げられる。
著者
梶田 真
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.53-72, 2018-02-25 (Released:2018-04-14)
参考文献数
37
被引用文献数
1

Because of limitations regarding available statistical data for units of year and enumeration, studies on socio-spatial patterns of Tokyo have not responded sufficiently to the dynamics of the so-called “doughnut phenomenon” period—a combination of urban sprawl and inner city decay—from the late 1960s to the early 1990s. Social maps for 1965 at the cho scale are created using statistics produced separately by the Tokyo Metropolitan Government. These maps are compared to those for 1980, because only the population censuses for 1965 and 1980 enumerate occupation data at this geographical scale. Subsequently, the dynamics of socio-spatial patterns in Tokyo for this period are examined. There were significant changes to names and territories of cho following enactment of the Addressing System Act of 1964. This was a serious problem for creating a social map on the cho scale, which was overcome by allocating either the 1961 cho territory or the current one according to cho name and date of statistics. The results of the analysis demonstrate that, in 1965, white-collar areas were formed as buffers around radial commuting train lines in western Tokyo, and areas between these in outer western Tokyo were not white-collar. Therefore, a star-shaped model, rather than a sector one, is suitable for representing socio-spatial patterns of the inhabitants of Tokyo in 1965. In 1980, the white-collar occupation ratio of these “between” areas rose rapidly, and a sectoral pattern clearly emerged. In eastern Tokyo, almost all areas were blue-collar in 1965, and moderate white-collar areas emerged along radial commuting train lines. The four main reasons for these changes are: 1) housing complex development at the sites of large plants; 2) abolishment of green belt policy; 3) new construction and expansion of radial train lines, especially subway lines; and, 4) expansion of sewage service areas. In western Tokyo, the culvertization of medium and small rivers, around which were former industrial areas, also made an important contribution to transforming blue-collar areas into white-collar areas. These results show the importance of infrastructure development in bringing about socio-spatial changes in Tokyo during this period.
著者
梶田 真
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.180-195, 2003-05-31
被引用文献数
1

バブル景気が崩壊した1990年代以降,わが国の建設業では大きな再編成が進みつつある.本稿は地理学的な観点から1980年代以降における建設業の動きを分析し,今後の動向を展望することを目的としている.本稿では特に土木業と公共投資の動きに注目する.オイルショック後の不況に対する1970年代後半の景気刺激策によって,1970年代の末期にわが国の財政は危機的な状況に陥る.1980年代に入ると欧米諸国では,小さな政府を志向したニューライトの台頭の中で公共投資が縮小し,工事内容でも維持・補修工事の比重が高まる.当時,わが国でも同様の動きが予想され,国はこのようなシナリオに基づいた建設業の産業ビジョンを発表する.しかし,バブル景気がはじまると建設需要は再び拡大し,さらに内需拡大を求める諸外国からの圧力によって公共投資額も再び増加した.これらの動きによって,わが国の建設業は1980年代に大きな再編成を経験することがなかった.しかし,1990年代に入って,バブル景気が崩壊すると民間需要は急速に縮小する.さらに,地価の大幅な下落によってゼネコン,特にバブル期に積極的に開発事業に乗り出した業者の経営状態は急速に悪化する.一方で,1970年代後半と同様に,国は1992年以降,毎年のように公共投資を中心とした景気刺激策を打ち出し,土木業中心の経営を行う地方の中小ゼネコンは好調な業績を上げた.地域的にも需要規模が急速に縮小した大都市圏と,民間需要の縮小を公共投資の拡大で補った地方圏との間で対照的な様相を呈する.1990年代後半に入ると長引く不況と,継続的に実施された景気刺激策によって国家財政は再び危機に陥る.当初,財政改革を主張する人々とさらなる景気刺激策を求める人々との間には激しい対立があった.しかし,1999年に公共投資額が減少に転じると,以後,わずか3年の間に公共投資額は10%以上も減少する.さらに,国は公共事業における事業コストの縮減と入札・契約改革を進め,再び建設業界の再編成を志向した産業ビジョンを発表する.市場の縮小によって経営状態が悪化した大手ゼネコンは事業コストの削減に乗り出し,情報化の進展による業者間競争の激化は,わが国の建設業の特徴の一つである,協力会組織の再編成をもたらしつつある.このように1990年代以降,わが国の建設業では大きな再編成が進んでいる.これは他産業において1980年代に生じた現象が,建設業ではバブル景気によって"延期された"ものと考えることができるだろう.
著者
梶田 真
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-18, 2008-03-30
被引用文献数
2

わが国において,公共事業が重要な地域間所得再分配機能を果たしている理由の一つは,地場・中小業者に対する様々な保護制度の存在にある.本稿では,国が発注する公共事業において,これらの保護制度を規定している官公需確保法の強化との関係から,制度運用変化の実態について分析を行った.さらに,官公需確保法の強化が地場の土木業者に与えた影響についても考察した.事例研究として取り上げたのは,中国地方建設局および島根県内の土木業者である.中国地方建設局では,官公需確保法の強化による分離・分割発注の増加や分任官契約限度額の引き上げによって,発注の主体が本局から地方事務所にシフトしていった.発注できる金額に上限がある地方事務所の入札では,主として指名競争入札が用いられ,原則的に各地方事務所の管轄域内の業者のみが指名されたため,地場業者の受注機会は拡大した.しかし,指名業者間での受注調整により,受注機会は管轄域内の大手業者を中心にバランスを取って配分された.それゆえに,官公需確保法の強化は,有力な業者の育成に寄与したのではなく,県内大手業者の平均的な底上げをもたらした,と結論づけられる.
著者
藤原 宏志 藤田 佳久 梶田 真 戸島 信一 鈴木 康夫 城倉 恒雄 根岸 裕孝
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.244-249, 2003-06-30

2002年の地域大会として10月5日〜7日にかけて上記シンポジウムを開催した.10月5日の午後に宮崎市シーガイアワールドコンベンションセンターにて講演とパネルディスカッションを開催し,6〜7日に現地視察を宮崎県南郷村・諸塚村・椎葉村・五ヶ瀬町・熊本県蘇陽町等にて実施した.はじめに,藤原宏志氏(宮崎大学長)による特別講演「焼畑文化とむらづくり」,続いて藤田佳久氏(愛知大学)による基調講演「山村政策の展開と山村の再生を巡って」が行われた.これを踏まえて4名のパネル報告と藤田氏も加わった5名による討論を行った.座長は岡橋秀典氏(広島大学),宮町良広氏(大分大学)が務めた.討論の後,矢田俊文会長による全体総括が行われた.なお,現地視察の参加者は24名,パネルディスカッションヘの参加者は70名であった.