著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.1-16, 2013-07-01 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

現代語では,動詞の連用形に相当する形式で命令を行う"連用形命令"が西日本を中心に見られる。この連用形命令は宝暦頃から見られはじめるものであるが,本稿では,この連用形命令の成立過程を考察した。近世前期には,すでに敬語助動詞「やる」の命令形「やれ」が「や」と形態変化を起こし,待遇価値も低くなっている。また,終助詞「や」も近世上方に存在していた。このことから連用形命令は近世上方において,敬語助動詞命令形「や」が終助詞と再分析され,「や」の前部要素が命令形相当の形式として独立し,成立したと考える。この連用形命令が成立したのは,待遇価値の下がった命令形命令を避けながらも,聞き手に対して強い拘束力のもと行為指示を行うという発話意図があったためである。また,各地で敬語由来の命令形相当の形式(第三の命令形)が成立しており,連用形命令の成立も"敬語から第三の命令形へ"という一般性のある変化として位置づけられる。
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.1-16, 2013-07-01

現代語では,動詞の連用形に相当する形式で命令を行う"連用形命令"が西日本を中心に見られる。この連用形命令は宝暦頃から見られはじめるものであるが,本稿では,この連用形命令の成立過程を考察した。近世前期には,すでに敬語助動詞「やる」の命令形「やれ」が「や」と形態変化を起こし,待遇価値も低くなっている。また,終助詞「や」も近世上方に存在していた。このことから連用形命令は近世上方において,敬語助動詞命令形「や」が終助詞と再分析され,「や」の前部要素が命令形相当の形式として独立し,成立したと考える。この連用形命令が成立したのは,待遇価値の下がった命令形命令を避けながらも,聞き手に対して強い拘束力のもと行為指示を行うという発話意図があったためである。また,各地で敬語由来の命令形相当の形式(第三の命令形)が成立しており,連用形命令の成立も"敬語から第三の命令形へ"という一般性のある変化として位置づけられる。
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.78-92, 2010-04-01

本稿では命令や依頼などの行為指示表現について,尊敬語命令形と受益表現命令形の用法の歴史的関連を調査した。中世末期では,「-ください」などの受益表現命令形は,受益表現の本来的な用法である上位者に対する話し手利益の表現("依頼")を中心として用いるが,近世以降用法を広げる。一方「-なさい」などの尊敬語命令形は,近世までは行為指示表現のすべての用法で用いることができるのに対し,近代以降受益表現命令形の中心的な用法である"依頼"から用いることができなくなる。この歴史的変遷の要因として,近世から近代にかけて,"話し手に対する恩恵があるときは受益表現で標示する"という語用論的制約ができたことを指摘し,話し手に対する利益がある用法から尊敬語命令形が衰退することを述べる。
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.17-31, 2011-04-01 (Released:2017-07-28)

本稿では聞き手に利益のある行為を話し手がおこなうことを申し出るときの表現(以下,申し出表現)の考察を通して,「-てあげる」「-てさしあげる」などの恩恵を与えることを示す形式(以下,与益表現)の運用の歴史的変化について調査を行った。現代語で上位者に「-してあげましょうか」と,与益表現を用いて申し出を行うことは丁寧ではない。一方で,与益表現は「-てまいらす」などの表現をはじめとして,中世末期ごろにその形式が現れるが,中世末期から近世にかけては与益表現を用いて上位者に申し出を行う例が一定数あり,その待遇価値は高かったものと考えられる。この歴史的変化の要因としては,(1)恩恵の示し方の歴史的変化(聞き手に対する利益を表明することが抑制されるようになった),(2)利益を表さない謙譲語形式の有無の2点が考えられる。
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.69-85, 2019-08-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
21

本稿では,近世後期に見られる洒落本の行為指示表現について,京・大坂・尾張・江戸の4地点の状況を対照し,その地域差について考察した。敬語を用いない形式群を非敬語グループ,敬語オを用いた形式群をオグループ,敬語を用いた形式群を敬語グループとすると,上方は各グループの多様な形式を用いているが,江戸はほとんどが敬語グループであった。尾張は敬語形式の多様性は上方と類似しているが,敬語グループの頻度が高いことは江戸と共通していた。この地域差について,京・大坂では,敬語グループと他の形式,特にオグループを併用することが通常の運用となっているのに対し,江戸では丁寧体を基調とするスタイルにおいて,行為指示表現が「お─なんし」等少数の形式に限定される傾向にあり,中間的な尾張の運用は,心的距離や発話意図によって併用することがあるものの,全体的には敬語グループに偏っており,江戸に近い運用と位置づけられることを述べた。
著者
窪園 晴夫 森 勇太 平塚 雄亮 黒木 邦彦
出版者
国立国語研究所
巻号頁・発行日
pp.1-194, 2015-03

大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 連携研究 「アジアにおける自然と文化の重層的関係の歴史的解明」サブプロジェクト「鹿児島県甑島の限界集落における絶滅危機方言のアクセント調査研究」
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.17-31, 2011-04

本稿では聞き手に利益のある行為を話し手がおこなうことを申し出るときの表現(以下,申し出表現)の考察を通して,「-てあげる」「-てさしあげる」などの恩恵を与えることを示す形式(以下,与益表現)の運用の歴史的変化について調査を行った。現代語で上位者に「-してあげましょうか」と,与益表現を用いて申し出を行うことは丁寧ではない。一方で,与益表現は「-てまいらす」などの表現をはじめとして,中世末期ごろにその形式が現れるが,中世末期から近世にかけては与益表現を用いて上位者に申し出を行う例が一定数あり,その待遇価値は高かったものと考えられる。この歴史的変化の要因としては,(1)恩恵の示し方の歴史的変化(聞き手に対する利益を表明することが抑制されるようになった),(2)利益を表さない謙譲語形式の有無の2点が考えられる。
著者
森 勇太
出版者
関西大学国文学会
雑誌
國文學 (ISSN:03898628)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.516-501, 2020-03-01

田中登教授古稀記念特集号