著者
松浦 年男 黒木 邦彦 佐藤 久美子
出版者
北星学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

中間発表会を実施し,代表者,分担者,協力者がそれぞれ発表した。また,発表会では下地理則氏(九州大学)より助言を受け,今後の研究の進め方について理解を深めた。方言調査を実施した。調査地区と内容を以下に示す。(1)天草市本渡地区(文タイプ,待遇表現,和語のアクセント,呼びかけのイントネーション),(2)天草市深海地区(格助詞,情報構造,漢語・数詞の促音,談話テキストの収集),(3)天草市佐伊津地区(不定語のアクセント特徴と不定語を含む節のイントネーションパターン),(3)熊本県八代市(研究協力者の山田高明氏(一橋大学)が実施。漢語・数詞の促音),(4)鹿児島県上甑島(韻律語の範囲について天草方言と対照)。研究成果を以下のように公開した。(a)天草諸方言と同じく有声促音を持つ山形県村山方言について調査結果をまとめ国際学会において発表した。発表では山形県村山方言の有声促音における声帯振動が,天草諸方言と同様,長い振動時間を有する一方,振幅が弱いものであるという違いがあることを示した。(b)本渡地区で行ってきたアクセント調査の結果を整理し,公刊した。(c)深海地区において行った調査結果をもとに,最適性理論と調和文法による形式的分析を行った論文を執筆し学会誌に投稿した。(d)不定語から補文標識「モ」までに含まれる語のアクセントの対立が失われることを指摘した。同じく二型アクセント方言である長崎市方言・鹿児島市方言と対照し、当該の方言は長崎市方言と強い類似性を持つことを明らかにした。(e)天草諸方言の音韻特徴を先行研究ならびに本科研費の調査結果に基づいて整理し,どのような特徴から分類を行うのが適切かを検討した。(f)有声促音を和語や漢語に持つかどうか,生起に/r/が関わるか,動詞で起こるかという点で整理し,日本語の諸方言を比較した。
著者
黒木 邦彦
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : トークス (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.85-93, 2018-03-05

本稿では、西日本方言の否定過去動詞接尾辞-(a)naNda (e.g. 知らなんだ、上げなんだ) などが内包する-(a)naN- の起源を、東日本方言の否定動詞接尾辞{-(a)nap-} の同族に求める。-(a)naNda は、その音形と意味とを踏まえれば、-(a)naN- と-da {-(i)tar-} とに分析できよう。-(a)naN- の基底形は、テ形接尾辞に先行する動詞語幹の末尾子音n、m、b が東日本方言などにおいてN で実現することを考慮するに、{-(a)nan-}、{-(a)nam-}、{-(a)nab-} のいずれかであろう。これらのうち、{-(a)nan-} は、否定動詞接尾辞{-(a)n-} の連続体と見做しうる。しかし、このように考えるのであれば、種々の否定表現のうち、否定過去表現においてのみ否定接尾辞を重ねる動機や意義を説明せねばなるまい。一方、**{-(a)nam-, -(a)nab-} は、東日本方言の否定動詞接尾辞{-(a)nap-}に音形と意味との両面で類似するものの、その確例はどの時代・地域にも見当たらない。ただし、**{-(a)nam-, -(a)nab-} と{-(a)nap-} とについては、音声的・音韻的妥当性に富む派生関係を考えうる。更に、**{-(a)nam-, -(a)nab-}起源説は、「ナツタ」「ナムシ」とそれぞれ表記される、2 種類の否定過去動詞接尾辞の存在を説明するに良い。
著者
黒木 邦彦
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.21, pp.85-93, 2018-03

本稿では、西日本方言の否定過去動詞接尾辞-(a)naNda (e.g. 知らなんだ、上げなんだ) などが内包する-(a)naN- の起源を、東日本方言の否定動詞接尾辞{-(a)nap-} の同族に求める。-(a)naNda は、その音形と意味とを踏まえれば、-(a)naN- と-da {-(i)tar-} とに分析できよう。-(a)naN- の基底形は、テ形接尾辞に先行する動詞語幹の末尾子音n、m、b が東日本方言などにおいてN で実現することを考慮するに、{-(a)nan-}、{-(a)nam-}、{-(a)nab-} のいずれかであろう。これらのうち、{-(a)nan-} は、否定動詞接尾辞{-(a)n-} の連続体と見做しうる。しかし、このように考えるのであれば、種々の否定表現のうち、否定過去表現においてのみ否定接尾辞を重ねる動機や意義を説明せねばなるまい。一方、**{-(a)nam-, -(a)nab-} は、東日本方言の否定動詞接尾辞{-(a)nap-}に音形と意味との両面で類似するものの、その確例はどの時代・地域にも見当たらない。ただし、**{-(a)nam-, -(a)nab-} と{-(a)nap-} とについては、音声的・音韻的妥当性に富む派生関係を考えうる。更に、**{-(a)nam-, -(a)nab-}起源説は、「ナツタ」「ナムシ」とそれぞれ表記される、2 種類の否定過去動詞接尾辞の存在を説明するに良い。In this paper I consider that -(a)nan- in the negative-past verb suffix -(a)naNda and similar suffixes in Western dialects of Japanese is derived from cognates of the negative verb suffix {-(a)nap-} in Eastern dialects. -(a)naNda can be divided into -(a)naN- and -da {-(i)tar-} on the basis of its form and meaning. The underlying form of the -(a)naN- would be {-(a)nan-}, {-(a)nam-}, or {-(a)nab-} because {n}, {m}, and {b} at the ends of verb stems are realized as N as in Eastern dialects when followed by a sandhi verb suffix. Although {-(a)nan-} can be regarded as a sequence of the negative verb suffix {-(a)n-}, we cannot explain why this negative suffix is duplicated only in negative-past expressions. **{-(a)nam-} and **{-(a)nab-} resemble the negative verb suffix {-(a)nap-} in Eastern dialects both formally and semantically, whereas certain evidences of **{-(a)nam-} and **{-(a)nab-} are never seen in any area and period. However, as for **{-(a)nam-, -(a)nab-} and {-(a)nap-}, we can find out phonetically and phonologically valid derivation between them. The theory based on presumption that **{-(a)nam-} and/or {-(a)nab-} existed in former times is good to explain existence of the negative-past verb suffixes ナツタand ナムシ.
著者
黒木 邦彦
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
no.19, pp.29-41, 2016-03

鹿児島県北薩地方の伝統方言は、不完成相に相当する複合形式VStm-iØ+kata=zjar-と抱合形式NSTM+VStm-iØ=zjar- (V: 動詞; N: 名詞; STM: 語幹) を有している。本稿では、両不完成相の形態統語的特徴を分析し、次のことを明らかにした。(1) 複合不完成相においても抱合不完成相においても連濁は生じず、両不完成相に含まれるVSTM-iØの末尾音節は連声し、直前の音節のコーダとなる。(2) 複合不完成相の構成要素たるVStm-iØ+kata の声調型も、抱合不完成相の構成要素たるNStm+VStm-iØのそれも第1 語根に拠るので、音韻的には1 語に相当する。(3) 動詞派生接尾辞に関して言えば、複合不完成相の動詞語幹は-sase-, -rare-, -cjor- を、抱合不完成相のそれは-sase- だけを内包しうる。(4) 複合不完成相はほとんどの動詞語幹から作りうるが、抱合不完成相は基本的に、動作の対象を対格助詞=o で標示する対格動詞語幹からに限られる。(5) +ik-iØ=zjar- 型のものを除けば、抱合不完成相が内包する名詞語幹は動作の対象を指すものに限られる。(6) 両不完成相で連体節を作る際は、=zjar-ruが連体節を作りえないため、=no がその代わりを果たす。(7) 複合不完成相は形態的には非対格述部に通じるが、統語的には対格述部に通じる。一方、抱合不完成相は、対象を指示する名詞を抱合してこそいるが、対格補部を取るわけではない。したがって、形態的にも統語的にも非対格述部の範疇を出ない。The Hokusatsu dialect of Japanese has compounding and incorporating imperfectives composed of VStm-iØ+kata=zjar- and NStm+VStm-iØ=zjar- (N: noun;Stm: stem; V: verb) respectively. The final syllables of VStm-iØ in both of the imperfectives turn into the coda of the previous syllable by sandhi. VStm-iØ+kata and NStm+VStm-iØ in the imperfectives are equivalent to a phonological word because their word tones are based on the first root as in phonological words in the dialect. The compounding imperfectives can be made from most verb stems, whereas the incorporating imperfectives cannot. The incorporating imperfectives are made from verb stems to attach the accusative enclitic =o to a noun denoting a theme, and furthermore, are able to contain only noun stems marked by =o. The compounding imperfectives are morphologically equivalent to a nontransitive predicate but are syntactically similar to a transitive predicate in terms of case marking. On the other hand, the incorporatong imperfectives share no morphological and syntactic features with an accusative predicate.