著者
森 泰規
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.11-17, 2023-02-28 (Released:2023-02-28)
参考文献数
6

今回本稿では,職員(組織成員)のクリエイティブな活動が,組織の成果にもたらす効果をブルデューの理論概念を援用して検討する。すなわち,個々人の特定の趣向や行動様式(=ハビトゥス)は個々人でなく集団として共有され,その方向性を示すこと(Bourdieu, 1980/1988)また,どのような趣味をもつかによって,人はみな自分自身の「界」をつくり差異化を果たそうとする(Bourdieu, 1979a/1990; Crossley, 2001/2012; Kataoka, 2019)ことである(ハビトゥス概念・界概念)。生活者3,000名を対象とした調査(2021年6月)で回帰モデルを用いた分析の結果,正解率は64.9%を示し,かつ「趣味の楽器演奏」の経験があると,業務上の達成実感は2.3倍(最低でも1.6倍,最大の場合3.3倍)であることがわかった。世帯年収や15歳時の出身家庭における蔵書数も説明力を持っていたが趣味よりは影響が小さく,年齢はさほど説明力をもたなかった。これらにより経済資本や出身階層の文化資本よりも,後から身につけた趣味が相対的に強い影響を及ぼすことを示した。
著者
森 泰規
出版者
日本庭園学会
雑誌
日本庭園学会誌 (ISSN:09194592)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.28, pp.28_23-28_28, 2014 (Released:2018-10-08)

『作庭記』は、以下のように書く。「石をたてんにハ、まづおも石のかどあるをひとつ立おおせて、次々のいしをバ、その石のこはんにしたがひて立べき也。」しかし、石はものを言わない。ものをいうはずのない石の求めに従え、とは、読者に何を伝えようとしているのか。そこで、たんに新解釈を提示するのではなく<経営課題に置き換えて理解したら別の意味で参考になるのではないか>という考えに基づき、結果として<まったく別のものに置き換えて考えることで、かえって新しい光を当てる>ことをめざした。本稿は、新解釈の提案ではなく、あくまで「石のこはん」という記述を経営戦略の課題と重ねて、考察を提示するものである。
著者
森 泰規
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

企業<u>風土</u>というように<br>筆者は、基本的に経営課題について考える際、企業というものは人が創り出すものであるということを大前提に、ウェーバー(Max Weber, 1864-1920, 独・社会学者/経済学者)の<象徴的相互作用論>[1]、すなわち構造を主語とせず、人の理念に基づく行為(したがって人々の相互行為)が社会を創出するという考え方をとる。端的に言えば「ピューリタンの理念と行為が資本主義の形成につながった」ことを類推して想定するものである。 ところが、企業についての諸問題を考える際、<企業風土>といったきわめて地理学に近い捉え方にさしあたることが多い。特にウェーバー的アプローチを取る際、<企業理念>にとって起こる問題は、地理学に於いてと同様の課題と感じられることがある。そこで当の地理学(乃至、地理学的枠組み)に近接すると思われることを挙げてみる。 &nbsp;<br> <br>『風の辞典』, <b><i>Le sauvage et l&rsquo;artifice.</i></b> <br>関口武(1985)(『風の事典』 原書房)によれば、同書刊行時点で日本には風の名前が2145個ある。普通の日本人はそのような呼び名を知らないが、<u>個々の生活実感と結びついたものは<不可視であっても概念として具象化する></u>のだ。 このことは、地理学者のオギュスタン・ベルク(Augustin Berque、1942- , 仏・地理学者)がたびたび指摘した、「『風景 paysage』に当たる語彙が、絵画の対象と成りえるような美しい景観と触れ合っていた地域の言語にさえ、必ずしも自生的には存在しないこと」[2]とは貴重な対照をなす。こちらは<u>当たり前のように目の前にあっても、むしろ<浸透しすぎていることによって意識されない></u>ということだ。 優れた企業理念は以上に述べたような事態に陥ることがよくある。第一に、すなわち現場組織にはいくつもの貴重な実感が見出されているのに組織全体では体系化・一般化されにくいこと。第二に、当たり前のように意識されている貴重な習慣が組織内部では貴重なものとは評価されていないこと、である。これらは長い時間をかけてよい意味でも悪い意味でも<企業風土>を形成し、必ず課題として噴出する。逆にそれぞれを課題と思って対処していけば効果が得られるともいえる。 これらはいずれも地理学による示唆である。 <br><br>システムの外部にも影響する、地理学の価値<br>筆者は、地理学という学問体系の外から、実務上の類推をもとに本稿での主旨を問いかける。だからそのシステム内部にいる専門家にとっては、当然に違和感を覚える題材なのかもしれない。しかしそのシステム外にある筆者にとっても地理学の価値は影響を及ぼすということであって、筆者はもう少し、その真価を学び、現業に生かそうと考えるが、同時にシステム内の秩序や安定性に意義を唱えるつもりはない。この点は明確にご理解いただきたい。 <br> <br> [1] Symbolic Interactionism. この整理は定説といってよいが、ここではアンソニー・ギデンズによる『社会学』(第六版)の記述体裁にならう。Giddens, A. (2009), <i>Sociology (6th edition)</i>, Polity Press, London, UK.<br> [2] Augustin Berque. (1986). <b><i>Le sauvage et l&rsquo;artifice. Les Japonais devant la nature.</i></b>Paris, Gallimard. P154他