- 著者
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大山 喬史
森本 俊文
河野 正司
片山 芳文
野首 孝祠
古谷野 潔
- 出版者
- 東京医科歯科大学
- 雑誌
- 基盤研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2001
床義歯の形態,設計様式が口腔感覚に及ぼす影響を分析し,機能との関係を検討する目的で舌感,味覚,痛覚,咬合感覚等の生理学的データを収集し,さらにその神経筋機構について動物実験より分析した.まず口蓋部の床の形態が舌感に及ぼす影響について質問紙法で分析した結果,床辺縁の断面形態は粘膜より移行的に立ち上るナイフエッジ状,走行は左右対称な形態が感覚的に優れ,移行的な断面形態,斜めのラインを避けた左右対称な走行形態が口腔感覚に調和することが推察された.次に臼歯部咀嚼とうまみ溶出の関係を調べるために,利尻昆布のグルタミン酸量を測定し,咀嚼後の溶出量を算出した結果,臼歯部補綴によりグルタミン酸溶出量は増加する傾向が認められた.また金属床の味覚に対する影響を実験用口蓋床を用いて検査した結果,厚さが1.5mmのレジン床と金属床では味覚閾値に差は認められなかったが,0.5mmの金属床では,味覚閾値は有意に低い値を示し,義歯床の厚さや材質の違いが味覚に影響を与えることが示唆された.さらに義歯装着者の咀嚼効率の判定法として,食塊形成能の観点から嚥下に至るまでの咀嚼ストローク数をパラメータとすると有用なことが認められた.また無歯顎者の義歯装着が床下粘膜の圧痛閾値に与える影響を調べた結果,無歯顎者は健常有歯顎者より40%低く,無歯顎者の口蓋中央部の閾値は頬側歯槽粘膜より2〜300%高かったため,義歯装着により圧痛閾値は低下し,粘膜への機械的ストレスの関与が示唆された.さらにモルモット前歯部に咬合挙上板を装着して臼歯を挺出させると,歯ぎしり様の運動を繰り返し元の咬合高径に戻るが,三叉神経中脳路核を破壊し閉口筋の筋感覚を除外すると高径低下が有意に減少し,咬合高径決定に閉口筋の筋感覚受容器の関与が示唆された.以上より,口腔感覚と機能とは密接な関係にあり,床義歯の設計に際しては維持や機能力の分配だけでなく,感覚への配慮が機能向上に繋がることが示唆された.