著者
笛木 賢治 大久保 力廣 谷田部 優 荒川 一郎 有田 正博 井野 智 金森 敏和 河相 安彦 川良 美佐雄 小見山 道 鈴木 哲也 永田 和裕 細木 真紀 鱒見 進一 山内 六男 會田 英紀 小野 高裕 近藤 尚知 玉置 勝司 松香 芳三 塚崎 弘明 藤澤 政紀 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.387-408, 2013 (Released:2013-11-14)
参考文献数
66
被引用文献数
4 6

本ポジションペーパーは,義歯床用の熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の呼称と定義を提案し,臨床適用への指針を示すことを目的とした.(公社)日本補綴歯科学会会員から,熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯の臨床経験を有するエキスパートパネル14名を選出した.パネル会議で検討した結果,「義歯の維持部を義歯床用の樹脂を用いて製作したパーシャルデンチャーの総称」をノンメタルクラスプデンチャー(non-metal clasp denture)と呼称することとした.ノンメタルクラスプデンチャーは,樹脂と人工歯のみで構成される剛性のない義歯と,金属構造を有する剛性のある義歯とに区分される.剛性のないノンメタルクラスプデンチャーは,金属アレルギー症例などの特別な症例を除き,現在の補綴臨床の原則に照らし合わせ最終義歯として推奨できない.剛性のあるノンメタルクラスプデンチャーは,審美領域にメタルクラスプが走行することを患者が受け入れられない場合に推奨できる.ノンメタルクラスプデンチャーの設計は,原則的にメタルクラスプを用いた部分床義歯の設計に則したものでなければならない.熱可塑性樹脂の物性は材料によって大きく異なるため,各材料の特性を考慮して臨床適用する必要がある.全般的な特徴としては,アクリルレジンよりも変色,面荒れしやすく,材料によっては破折しやすい.現時点では,樹脂の理工学的性質と義歯の治療効果と術後経過に関する研究が不十分であり,今後これらの知見が集積され本ポジションペーパーの改訂とガイドラインの策定が望まれる.
著者
玉置 勝司 石垣 尚一 小川 匠 尾口 仁志 加藤 隆史 菅沼 岳史 島田 淳 貞森 紳丞 築山 能大 西川 洋二 鱒見 進一 山口 泰彦 會田 英紀 小野 高裕 近藤 尚知 塚崎 弘明 笛木 賢治 藤澤 政紀 松香 芳三 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.369-386, 2013 (Released:2013-11-14)
参考文献数
22
被引用文献数
4 3

難症例の1つに咬み合わせ異常感や違和感があり,その訴えに対応する客観的所見が確認できない症例に遭遇することがある.通常,咬合紙,ワックス,シリコーンなどを用いて確認はするものの,咬合接触状態に特に異常は見つからない.さらに,患者の咬合に関する執拗な訴えに対して歯科医師が患者に問題の部位を確認してもらい,患者の指示により咬合調整を行ってしまうといった患者の感覚主導型治療に陥ってしまうことがある.その結果,患者の訴えは改善しないばかりか,逆に悪化することもさえもある.そして,患者と歯科医師の信頼関係が壊れ,思わぬ方向に陥ってしまうことも珍しくない. このような患者が訴える咬合に関する違和感に対して,社団法人日本補綴歯科学会,診療ガイドライン委員会において,平成23年度「咬合感覚異常(症)」に関する診療ガイドラインの策定が検討された.診療ガイドラインの策定に際し,委員会の作成パネルによるガイドライン策定を試みたが,咬合感覚異常(症)に関する十分に質の高い論文は少なく,診療ガイドラインの作成には至らなかった.そこで,本委員会のパネルで協議した結果,「咬合感覚異常(症)」に対する日本補綴歯科学会としてのコンセンサス・ミーティングを開催して本疾患の適切な呼称の検討を行った.また事前のアンケート調査結果から,このような病態を「咬合違和感症候群(occlusal discomfort syndrome)」とした. 今回のポジションペーパーは,今後の診療ガイドラインの作成とそれに対する研究活動の方向性を示す目的で,過去の文献と咬合違和感症候群患者のこれまでの歯科治療の経過や現在の状況について実施した多施設による患者の調査結果をもとに作成された.
著者
梅本 丈二 安田 弘之 市来 利香 築山 能大 古谷野 潔 都 温彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.457-463, 2001-08-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
2

過食症患者は嘔吐を繰り返すため, 口腔内が頻繁に食渣や胃酸にさらされることになり, 歯の脱灰, 実質欠損をきたすことが報告されている.本研究では嘔吐と歯の実質欠損に関する予備的調査を行った.嘔吐歴が4年以上の対象者は4年未満の者に比べてう蝕の既往が多かったが, 対象患者に歯牙酸蝕の所見は認められなかった.う蝕増加の既往と嘔吐との関連性はさらに今後の検討問題として残された.また歯科治療の際, 摂食障害について話すことに抵抗感があるとの質問紙に対する回答から, 摂食障害患者の自分の症状を知られたくないという心理面も窺えた.いずれにせよ, 医師・歯科医師双方が本件に留意して, 臨床にあたることが重要である.
著者
松下 恭之 佐々木 健一 郡 英寛 江崎 大輔 春田 明日香 古谷野 潔
出版者
Japan Prosthodontic Society
雑誌
日本補綴歯科學會雜誌 = The journal of the Japan Prosthodontic Society (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-9, 2008-01-10
参考文献数
41
被引用文献数
7 1

オッセオインテグレーションインプラントは, 表面性状の改善や埋入システムの確立により, 5年程度の中期経過では100%に近い生存率も報告されている. しかし一方で長期の使用に伴い, 破折などの機械的偶発症と支持骨の吸収などの生物学的偶発症が増加することが報告されている. この原因は多様だが, インプラントに付与した咬合から生じたオーバーロードが偶発症の主な因子のひとつとして上げられている。<br>インプラントの咬合において, オーバーロードを引き起こすと考えられるリスクファクターについて疫学研究と基礎的研究のレビューを通して, 現状を整理した.<br>天然歯とインプラントが混在する場合の咬合については, 当初被圧変位量の差を考慮すべきとされたが, 現在これを積極的に肯定する研究は少なく, むしろ被圧変位量の分だけ低くした咬合を付与した場合に, 顎関節や隣在歯などへの影響を危惧する報告も散見される. 現状では, 天然歯と同様の接触を与えても臨床的な問題は少ないと考えられる.<br>側方ガイドや咬合力の側方成分, カンチレバー, 広すぎる咬合面幅によるオフセットローディングなどの非軸方向荷重については, 曲げモーメントとして作用するため, 軸方向荷重よりもその影響は強いと思われる. しかしながら生物学的に影響ありとした疫学データは見られない.<br>天然歯とインプラントの連結については, メタ解析の結果により骨吸収へのリスクが示唆されている.
著者
松香 芳三 萩原 芳幸 玉置 勝司 竹内 久裕 藤澤 政紀 小野 高裕 築山 能大 永尾 寛 津賀 一弘 會田 英紀 近藤 尚知 笛木 賢治 塚崎 弘明 石橋 寛二 藤井 重壽 平井 敏博 佐々木 啓一 矢谷 博文 五十嵐 順正 佐藤 裕二 市川 哲雄 松村 英雄 山森 徹雄 窪木 拓男 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.281-290, 2013 (Released:2013-11-06)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

目的:(社)日本補綴歯科学会は病態とその発現機序の把握に基づく適切な補綴歯科治療を国民に提供するために,補綴歯科治療における新たな病名システムを提案した.これは患者に生じている「障害」を病名の基本とし,この障害を引き起こしている「要因」を併記して病名システムとするものであり,「A(要因)によるB(障害)」を病名システムの基本的な表現法としている.本研究の目的は考案した方法に従って決定した補綴歯科治療における病名の信頼性と妥当性を検討することである.方法:模擬患者カルテを作成し,(社)日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会で模範解答としての病名(以下,模範病名)を決定した.その後,合計50 名の評価者(日本補綴歯科学会専門医(以下,補綴歯科専門医)ならびに大学病院研修歯科医(以下,研修医))に診断をしてもらい,評価者間における病名の一致度(信頼性)ならびに(社)日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会による模範病名との一致度(妥当性)を検討した.結果:評価者間の一致度を検討するための算出したKrippendorff’s αは全体では0.378,補綴歯科専門医では0.370,研修医では0.401 であった.Krippendorff’s αは模範病名との一致度の高い上位10 名の評価者(補綴歯科専門医:3 名,研修医:7 名)では0.524,上位2 名の評価者(補綴歯科専門医:1 名,研修医:1 名)では0.648 と上昇した.日常的に頻繁に遭遇する病名に関しては模範病名との一致度が高かったが,日常的に遭遇しない病名は模範病名との一致度は低い状況であった.さらに,模範病名との一致度とアンケート回答時間や診療経験年数の関連性を検討したところ,相関関係はみられなかった.結論:全評価者間の一致度を指標とした本病名システムの信頼性は高くはなかったが,模範病名との一致度の高い評価者間では一致度が高かった.日常的に遭遇する補綴関連病名については模範病名との一致度が高かった.以上から(公社)日本補綴歯科学会の新しい病名システムは臨床上十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された.
著者
都留 朋子 江﨑 大輔 松﨑 達哉 松下 恭之 築山 能大 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
雑誌
日本口腔インプラント学会誌 (ISSN:09146695)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.278-286, 2017-12-31 (Released:2018-02-15)
参考文献数
29

Purpose : This study was performed to investigate and compare the mechanical influence of attachment types on the implant and mucosal tissue under the posterior part of implant overdentures (IOD) with a combination of mechanical reaction analysis and structural analysis using the finite element method (FEM) .Methods : Implant overdentures with ball attachments (B-IOD), implant overdentures with locator attachments (L-IOD), and complete dentures (CD) were established in the experiment model. A 50 N load was applied onto the right first molar position of the overdenture, and the bending moment on each implant and the overdenture displacement were measured. Additionally, the FEM model was prepared based on DICOM data of the in vitro model. The interface between the denture base and mucosal tissue was assumed to be a contact interface, not a continuous interface. Displacement data measured by the experiment model analysis were inputted into the FEM model, and the stress distribution in the mucosal tissue under the posterior part of the denture was evaluated.Results : In the L-IOD, the bending moment in the loaded-side implant was greater than that in the nonloaded side. In the B-IOD, the stress on both the loaded and non-loaded sides was smaller and almost equal. Mucosal stress in the loaded posterior part using B-IOD was the highest among the B-IOD, L-OD, and CD. The mucosal stress in the L-IOD was lower than that in the B-IOD and CD on both the loaded and non-loaded sides.Conclusion : Stress in the mucosal tissue under the denture base was able to be evaluated using a combination of mechanical reaction analysis and FEM analysis. Differences in the mucosal stress distribution were detected among the CD, B-IOD, and L-IOD. The highest mucosal stress value was shown in the B-IOD.
著者
古谷野 潔 山田 隆司 松下 恭之 竹下 文隆 木原 昭裕 末次 恒夫
出版者
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
雑誌
日本口腔インプラント学会誌 (ISSN:09146695)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.273-278, 1996-09-30 (Released:2017-11-05)
参考文献数
20

The purpose of this study was to examine the applicability of the newly-established method to analyze distribution of occlusal force among implant superstructure and natural teeth at different clench levels. Dental Prescale (Fuji Film Co. Tokyo) was used to record occlusal contacts and the force loaded on each of them. Four clench levels, which were 25, 50, 75, and 100%MVC, were regulated by visual biofeedback of masseter muscle EMG. This method was applied to five patients who received osseointegrated implants at the prosthodontic clinic of Kyushu University Dental Hospital attached to The Faculty of Dentistry and the applicability of the method was discussed. The results indicated that the Implant Support Ratio, which was defined in this study, can be used for the quantitative evaluation of the occlusal force distribution among implant superstructure and natural teeth at different clench levels. It was suggested that the distribution of occlusal force depends not only on the patterns of missing teeth but also the occlusal scheme and the conditions of the residual natural teeth.
著者
藤野 陽子 荻野 洋一郎 鮎川 保則 古谷野 潔
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は埋入されたインプラント周囲に発現する骨タンパク質をチタンにコーティングすることで、オッセオインテグレーションを促進できるかを検討するものである。本研究期間では、チタンに非コラーゲン性タンパク質であるオステオポンチン(OPN)、オステオカルシン(OCN)をコーティングした場合のコーティング効果と骨芽細胞(マウスセルライン、MC3T3-E1)を培養し、その接着、増殖、分化を検討した。さらに、ラットの脛骨を用いたin vivoモデルでの骨接触率の検討を行ったインプラントに各タンパクのコーティングを行い、免疫組織化学的な手法によってタンパクの吸着を確認した。接着に関しては、OPNでは初期に抑制傾向が認められたものの、その後の接着は促進される傾向にあった。OCNでは初期から促進傾向が認められたが、その後の接着はOPNほどの促進傾向は認められなかった。接着後の増殖では24、72時間後の細胞数をMTT Assayにて計測を行った。また、分化に関しては、ALP染色と細胞から分泌されるOCNの量を測定したが、その差は顕著なものではなかった。ラット脛骨へコーティングインプラントを埋入した動物実験モデルではインプラントを埋入し、2週間後に屠殺し、組織学的検討を行っている。(現在標本作製中)つまり、今回の実験系からは、以下の事項が確認、示唆された。1)OPNとOCNは細胞の初期接着を促進する傾向が認められた。2)接着後の細胞の増殖、分化に関しては、初期接着ほどの効果は認められなかった。これは、OPN、OCNのコーティング効果が弱くなることや、初期接着後のメディウム交換で、コーティングの効果を減弱させること、さらには、接着への影響を極力少なくするために2%FBSを添加したメディウムがその後の増殖や分化(分化の培養系では、10〜15%のFBSを添加したものを通常用いている)を通常のレベルで起こすことが出来なかったことがその一因として考えられた。3)in vivoの実験は現在、標本作製中なため、改めて報告を行う予定である。
著者
松山 美和 古谷野 潔 松下 恭之 山口 貞子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

補綴治療効果を栄養学的見地から評価することを目的として、自記式3日間食事記録にスケール付きの摂取食品の写真撮影を加え、摂取食品と摂取量を推定する方法を次世代型栄養評価法とした。 本法を用いて栄養摂取に対する補綴治療効果および治療後の専門的栄養指導効果を検討したところ、補綴治療は短期間では栄養摂取に影響を及ぼさないものの、補綴治療後の専門的栄養指導は患者の質的栄養改善に有効であることが示唆された。
著者
大山 喬史 森本 俊文 河野 正司 片山 芳文 野首 孝祠 古谷野 潔
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

床義歯の形態,設計様式が口腔感覚に及ぼす影響を分析し,機能との関係を検討する目的で舌感,味覚,痛覚,咬合感覚等の生理学的データを収集し,さらにその神経筋機構について動物実験より分析した.まず口蓋部の床の形態が舌感に及ぼす影響について質問紙法で分析した結果,床辺縁の断面形態は粘膜より移行的に立ち上るナイフエッジ状,走行は左右対称な形態が感覚的に優れ,移行的な断面形態,斜めのラインを避けた左右対称な走行形態が口腔感覚に調和することが推察された.次に臼歯部咀嚼とうまみ溶出の関係を調べるために,利尻昆布のグルタミン酸量を測定し,咀嚼後の溶出量を算出した結果,臼歯部補綴によりグルタミン酸溶出量は増加する傾向が認められた.また金属床の味覚に対する影響を実験用口蓋床を用いて検査した結果,厚さが1.5mmのレジン床と金属床では味覚閾値に差は認められなかったが,0.5mmの金属床では,味覚閾値は有意に低い値を示し,義歯床の厚さや材質の違いが味覚に影響を与えることが示唆された.さらに義歯装着者の咀嚼効率の判定法として,食塊形成能の観点から嚥下に至るまでの咀嚼ストローク数をパラメータとすると有用なことが認められた.また無歯顎者の義歯装着が床下粘膜の圧痛閾値に与える影響を調べた結果,無歯顎者は健常有歯顎者より40%低く,無歯顎者の口蓋中央部の閾値は頬側歯槽粘膜より2〜300%高かったため,義歯装着により圧痛閾値は低下し,粘膜への機械的ストレスの関与が示唆された.さらにモルモット前歯部に咬合挙上板を装着して臼歯を挺出させると,歯ぎしり様の運動を繰り返し元の咬合高径に戻るが,三叉神経中脳路核を破壊し閉口筋の筋感覚を除外すると高径低下が有意に減少し,咬合高径決定に閉口筋の筋感覚受容器の関与が示唆された.以上より,口腔感覚と機能とは密接な関係にあり,床義歯の設計に際しては維持や機能力の分配だけでなく,感覚への配慮が機能向上に繋がることが示唆された.