著者
尾川 達也 藤本 修平 大門 恭平 石垣 智也 森本 信三 森岡 周
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.129-137, 2020-12-20 (Released:2020-12-29)
参考文献数
22

目的:リハビリテーション医療の共有意思決定(Shared Decision Making;以下,SDM)を測定する患者報告式尺度を開発し,理学療法領域での信頼性と妥当性を検討すること.方法:リハビリテーション医療に必要なSDMの要素に基づき,Shared Decision Making for Rehabilitation(以下,SDM-Reha)仮尺度を作成し,入院や外来,地域で理学療法を受けている患者を対象に調査した.結果:218名(年齢70.1±13.3歳)のデータから探索的因子分析を行い,1因子10項目からなるSDM-Rehaを開発した.内部一貫性はCronbachのα係数が0.94,再テスト信頼性はICC(1,1)が0.93と高く,併存的妥当性も良好であった.結論:SDM-Rehaはリハビリテーション医療のSDMを評価する指標として,信頼性と妥当性を有する尺度である.
著者
平 和晃 田中 良実 大西 智子 森本 信三 山際 政弘
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P3074-B4P3074, 2010

【目的】近年、睡眠が運動記憶の固定化を促進することが明らかとなってきており、若年健常者では睡眠前と比べ睡眠後に、運動技能の向上がみられたと報告されている。脳卒中患者においても非麻痺側上肢での追跡課題では、睡眠によって運動記憶の固定化が促進されたと報告されている。しかし、脳卒中患者を対象とした研究は非常に少なく、脳卒中患者における系列動作学習での睡眠の効果は不明である。本研究では、指の系列運動課題を用いて脳卒中患者において睡眠が系列運動においての運動記憶の固定化を促進するか予備的に検討する。<BR><BR>【方法】高次脳機能障害、認知症がない(Mini mental state examination26点以上)の脳卒中患者3名を対象とした。症例1:50歳代の右利きの女性。右放線冠ラクナ梗塞の診断であり、発症から3か月経過していた。麻痺側Brunnstrom recovery stage(以下BRS)は上肢III、手指IVであった。症例2:70歳代の右利きの男性。左脳梗塞の診断であり、発症から1か月経過していた。麻痺側BRSは上肢V、手指Vであった。症例3:80歳代の右利きの女性。右放線冠梗塞の診断であり、発症から5ヶ月経過していた。麻痺側BRSは上肢III、手指IIIであった。運動課題は、非麻痺側上肢にて示指、小指、中指、環指の順に指をタッピングさせる課題とし、可能な限り速く、正確に実施するよう求めた。実施時間は、1セットを運動30秒―休憩30秒とした。初期学習は午前9時に15セット実施し、その12時間後と睡眠後の24時間後に再テスト(以下12hテスト、24hテスト)として各5セット実施した。症例3のみ、睡眠前テストによる学習効果を考慮して、初期学習の24時間後、36時間後に再テスト(以下36hテスト)とした。初期学習の最初の5セットはリズム刺激を与えながら実施し、それ以降はリズム刺激なしで実施し、リズム刺激なしでの各セット間の施行数の平均値を算出した。また、テスト施行時の覚醒度の評価としてカロリンスカ眠気尺度日本語版(以下KSS-J)を各テスト実施前に聴取し、全テスト終了後に実験期間中の睡眠時間と睡眠の質の評価指標であるピッツバーグ睡眠評価表日本語版(以下PSQI-J)を聴取した。<BR><BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,研究の主旨を文書にて説明し、署名にて同意を得た。<BR><BR>【結果】運動課題の施行数は、症例1、2では12hテスト実施時に比べ、睡眠後の24hテストにて施行数の増加を認め、症例3では睡眠後の24hテストで施行数の増加を認めたが、36hテストでは増加を認めなかった(症例1:初期学習12.3±2.63回、12hテスト13.0±3.24回、24hテスト17.4±1.95回、症例2:初期学習18.6±0.84回、12hテスト19.8±2.3回、24hテスト22.6±1.67回、症例3:初期学習11.5±0.71回、24hテスト13.8±0.84回、36hテスト13.6±0.9回)。KSS-Jは、症例1、2では初期学習と12hテストにて高い覚醒度を示し、24hテストでは低下したが、症例3では変化を認めなかった(症例1:初期学習3、12hテスト3、24hテスト7、症例2:初期学習4、12hテスト3、24hテスト8、症例3:初期学習3、24hテスト2、36hテスト3)。睡眠時間は、症例1が9時間、症例2が7時間30分、症例3が8時間であったが、症例2、3は2時間ごとに覚醒されていた。PSQI-Jは、症例2のみカットオフ値を上回っていた(症例1:1点、症例2:8点、症例3:3点)。<BR><BR>【考察】全ての症例で24hテストでの施行数の増加が認められたことから夜間の睡眠が運動記憶を固定化させた可能性が考えられた。これは、他の運動課題で実施している先行研究と一致するものであった。各症例の運動記憶の固定化が促進された要因として、脳卒中患者の睡眠時間中のノンレム睡眠の段階2が占める時間が高齢者と比較して多いことが考えられる。また、症例2,3では2時間ごとに覚醒されていたにも関わらず、24hテストの実施数が増加したことも、睡眠の1周期が90分であることから、ノンレム睡眠の段階2が関与しているためであると考えられる。しかし、症例2、3は症例1と比べ、睡眠後のテストの施行数の増加が少なかった。これは、ノンレム睡眠の段階2の時間が睡眠周期の増加に伴い増加することから、症例1に比べ症例2,3はノンレム睡眠の段階2の時間が少なかったためであると考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究により夜間の睡眠が脳卒中患者の運動記憶の固定化を促進させる可能性が明らかとなった。今後は対象者を増やした上での統計学的検討、短時間の睡眠と脳卒中患者の運動記憶の固定化の関連性について検討する必要がある。