- 著者
-
森本 真太郎
- 雑誌
- リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.51-67, 2020-03-31
本稿では,あるデイサービス施設において失語症により言語表出が困難となった1 事例に対し,「意味のある作業に焦点をあてた「クライエント中心」の支援を実践し,日常生活の作業遂行,利用中の活動状況,QOL の変化を多角的に分析することで「利用者本位」に資するデイサービス支援の一端を探索的に明らかにすることを目的とした.方法は,作業療法士が,言語表出が極力少ない方法で評価を行い,事例の「意味のある作業」を同定し「意味のある作業」の遂行に焦点を当てた介入を「クライエント中心実践における共通概念」に沿って約6 ヶ月間実施した.また,介入前後で,日常生活の作業遂行(作業バランス自己診断),利用中の活動状況(参加観察),QOL(WHO QOL26)を実施し,変化を多角的に分析した.その結果,日常生活における「意味のある作業」の数が増加及び肯定的な意味付けに変化し,能動的に施設を利用できるようになった.また,WHO QOL26 の「肯定的感情」や「健康と社会的ケア等の複数の下位項目にて得点の上昇を認めた.以上のことから,失語症を患う表出困難な利用者に対し,「利用者本位」のデイサービスを提供するためには,作業療法士が利用者の状況と表出能力を見極め「心身機能,活動,参加,背景因子」をバランスよく評価し,利用者の「意味のある作業」に焦点を当てた相互主体的な関わりの中で,肯定的なQOL を構築し続けることが重要であると示唆された.