著者
岩田 祐美 田島 明子
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.12, pp.135-146, 2017-03-31

背景:1993 年より促進された社会的公正の理論の作業療法への適応と,その後概念化された作業的公正について,どちらも日本で広まりつつあるが,文献は少なく,日本での作業的公正に関する概念は議論途上である. 目的:国外の作業療法士が作業的公正という概念のもと行なっている調査研究を経年的に調べ介入と規範の具体例と傾向を明らかにすること. 方法:PubMed にてOccupational Justice で検索した.検索された論文のうち調査研究を分析対象とし,作業的公正,不公正の実例を抜き出した.さらに調査研究の目的・方法・OT の介入や規範についてレビューマトリックスを用いてまとめた. 結果と考察:作業的公正,作業的不公正の実例は日本の作業療法で対象とならない事例が多かった.作業的公正についての調査研究で述べられた作業療法士の規範をまとめると,対象者個人の作業を通した社会参加の支援に加え,作業療法士の社会への関わりの必要性が示された.国外文献の調査と,それらを障害の社会モデルの視点を取り入れて慎重かつ丁寧に分析すること,そして国内での発展が望まれる.
著者
田島 明子 山本 弘子 長谷川 幹
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.12, pp.91-100, 2017-03-31

目的:海外旅行に参加した夫婦にインタビュー調査を行い,重度失語症者にとっての本旅行の意味付けと旅行後の生活への影響を考察することで,作業療法における旅行の活用方法について示唆を得ることである.対象と方法:失語症のある人の中から,配偶者が調査時に同席可能であり,旅行後の生活において事故などの旅行とは無関係なイベントのない4 名を対象とし,「発障前の生活」「発症後の生活」「旅行後の生活」「本旅行への関心」「本旅行に対する満足・不満足」「また旅行に行きたいか」について聴取した。結果・考察:本旅行への意味付けと,参加態度,満足度,旅行前後の生活変容の状況を事例毎に整理した.結果より,主体的な旅行参加はその後の生活にも肯定的影響を与える可能性がある,旅行への参加態度は本人の抱く旅行への意味付けの能動性が影響する,旅行に対する満足度の高低と旅行後の生活活性化の有無は関係しない傾向がある,の3 点が考察された.
著者
田島 明子 近藤 克則
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.14, pp.47-59, 2019-03-31

目的:介護予防を目的とした住民運営の通いの場で間接的支援を行う作業療法士の役割について明確化すること.対象:A 県B 町憩いのサロンプロジェクトを主導してきたリハビリテーション専門医であるA 氏,サロンのボランティア養成講座の講師を担当してきた作業療法士B 氏.方法:A 氏,B 氏へ個別インタビュー調査を行い,目的に沿って結果を整理した.結果:サロン全体の取り組みと作業療法士が関与する点,ボランティア養成講座を通した作業療法士の支援の視点が明らかになった.考察:作業療法士の役割として,サロンの企画・運営の支援,ボランティア養成講座の企画・講師,サロン実施の際のサポートと振り返りの助言,サロン参加者の評価と行政へのフィードバック,の4点があった.
著者
田島 明子 近藤 克則 慶徳 民夫 幸 信歩
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-112, 2020-07-06

目的:本研究では,住民運営通いの場への参加促進要因を質的,帰納的分析により抽出し,その結果から,間接的支援のための支援構造を考察することを目的とした.対象と方法:個別インタビューはサロンの立ち上げに関与したA 氏に行い,フォーカス・グループ・インタビューは,サロン研究やそれに類似する高齢者介護研究を実施してきた研究者4 名に行い,結果を,帰納的に分析し,カテゴリ化を行い,カテゴリを説明する概念を付した.また先行研究を参考にし,さらに作業科学の知見を基にテーマを設定した.結果:people に関わる要因とplace に関わる要因に分類された.People に関わる要因は,作業的存在としてのbelonging とdoing に分けられた.考察:人を作業的存在として捉えたとき,サロンは,健康志向性を持った,高齢者の誰をも受け入れるbelonging を用意し,ソーシャルキャピタルを育成するdoing を提供しているplace であると整理できた.
著者
岩田 祐美 田島 明子
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
no.12, pp.135-146, 2017-03-31

背景:1993 年より促進された社会的公正の理論の作業療法への適応と,その後概念化された作業的公正について,どちらも日本で広まりつつあるが,文献は少なく,日本での作業的公正に関する概念は議論途上である. 目的:国外の作業療法士が作業的公正という概念のもと行なっている調査研究を経年的に調べ介入と規範の具体例と傾向を明らかにすること. 方法:PubMed にてOccupational Justice で検索した.検索された論文のうち調査研究を分析対象とし,作業的公正,不公正の実例を抜き出した.さらに調査研究の目的・方法・OT の介入や規範についてレビューマトリックスを用いてまとめた. 結果と考察:作業的公正,作業的不公正の実例は日本の作業療法で対象とならない事例が多かった.作業的公正についての調査研究で述べられた作業療法士の規範をまとめると,対象者個人の作業を通した社会参加の支援に加え,作業療法士の社会への関わりの必要性が示された.国外文献の調査と,それらを障害の社会モデルの視点を取り入れて慎重かつ丁寧に分析すること,そして国内での発展が望まれる.
著者
伊藤 信寿
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.12, pp.79-90, 2017-03-31

今回は, 感覚統合の視点を基盤とした余暇支援を計画し,実施したため,活動中における子どもの行動に特に変化が見られた2 事例について報告する.15 名の発達障害児に対し,3 日間の余暇支援を実施した.内容は,感覚統合を基盤とした活動を計画した.結果は,2 事例においては,JSI-R より前庭覚と固有覚に鈍麻な傾向,触覚に過敏な傾向が推測された.この結果を基に,感覚統合を基盤とした活動を提供したところ,活動中に若干の変化が見られた.また,保護者からのアンケートから,子どもの様子については概ね肯定的なフィードバックであった.さらに,保護者の期待に応えられた活動であったといえる.
著者
野本 真広 矢倉 千昭
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.9, pp.9-16, 2014-03-31

〔目的〕本研究は,骨盤前傾および後傾座位での傾斜反応における内腹斜筋,多裂筋の筋活動の変化について検討した.〔対象〕健常成人男性8 名,平均年齢28.4 ± 3.2 歳であった.〔方法〕骨盤前傾および後傾座位にて右側方傾斜時の左右の内腹斜筋,多裂筋の筋電図積分値を測定し,安静時の筋電図積分値を100% として比較を行った.〔結果〕筋電図積分相対値は,骨盤後傾座位では有意差を示さなかったが,骨盤前傾座位において右内腹斜筋は,10°右側方傾斜時と比べ20°右側方傾斜時に有意に増加した.左内腹斜筋は,安静時に比べ10°右側方傾斜時に有意に増加した.右多裂筋は,有意差がなかったが,左多裂筋は安静時に比べて10°右側方傾斜,20°右側方傾斜で有意に増加した.〔結論〕座位で体幹筋群の筋活動を高める傾斜反応の誘導は,骨盤前傾座位にて誘導することが重要であることが示された.
著者
齊藤 ふみ 小田原 悦子
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.11, pp.59-69, 2016-03-31

精神障害を持った人が健康感を持って社会に参加するためには何が必要なのか,統合失調症者の西純一氏(仮名)の手記「精神障害を乗り越えて 40 歳ピアヘルパーの誕生」を読み,Schultz & Schkade の「作業適応過程モデル」を参考に回復段階ごとの日常生活の作業経験を分析した.本研究はナラティブ分析による質的研究である.Schultz & Schkade は,人は環境との交流の中で,「出来るようになりたい」と願い環境に働きかけ(習熟願望),環境は人に「できるように」期待,要求する(習熟要請)と述べた.その結果,その環境との交流で,人は作業に従事して環境に挑戦し,役割を得ると指摘した.西氏の場合,症状の強い段階では彼の環境は制限され,心身の保護とセルフケアが生活の主要な作業であったが,回復に従って環境からの要請が生産的なものへと移り変わり,それに応えて社会的な作業を通して環境に働きかけることで西氏は社会参加を実現させた.作業療法においては,健康感を持って社会に参加するように援助するためには,最大限の適応反応を導くことができる環境を見極めることが必要であることが示唆された.
著者
森本 真太郎
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.15, pp.51-67, 2020-03-31

本稿では,あるデイサービス施設において失語症により言語表出が困難となった1 事例に対し,「意味のある作業に焦点をあてた「クライエント中心」の支援を実践し,日常生活の作業遂行,利用中の活動状況,QOL の変化を多角的に分析することで「利用者本位」に資するデイサービス支援の一端を探索的に明らかにすることを目的とした.方法は,作業療法士が,言語表出が極力少ない方法で評価を行い,事例の「意味のある作業」を同定し「意味のある作業」の遂行に焦点を当てた介入を「クライエント中心実践における共通概念」に沿って約6 ヶ月間実施した.また,介入前後で,日常生活の作業遂行(作業バランス自己診断),利用中の活動状況(参加観察),QOL(WHO QOL26)を実施し,変化を多角的に分析した.その結果,日常生活における「意味のある作業」の数が増加及び肯定的な意味付けに変化し,能動的に施設を利用できるようになった.また,WHO QOL26 の「肯定的感情」や「健康と社会的ケア等の複数の下位項目にて得点の上昇を認めた.以上のことから,失語症を患う表出困難な利用者に対し,「利用者本位」のデイサービスを提供するためには,作業療法士が利用者の状況と表出能力を見極め「心身機能,活動,参加,背景因子」をバランスよく評価し,利用者の「意味のある作業」に焦点を当てた相互主体的な関わりの中で,肯定的なQOL を構築し続けることが重要であると示唆された.
著者
鴨藤 祐輔 宮前 珠子
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
no.14, pp.13-28, 2019-03-31

背景と目的:自宅退院した脳血管障害者の中には,想定していた退院後生活と実生活との間にギャップを経験することがある.本研究の目的は,この要因を明らかにし,ギャップを小さくするための作業療法のあり方を検討することである. 方法:回復期リハビリテーション病棟における脳血管障害者7 名に対し想定していた退院後生活と退院後の実生活についてインタビューを行い,質的分析を行った. 結果と考察:退院後生活で想定通りの生活が出来た対象者と,ギャップを感じている対象者に分けられ,想定通りの生活が必ずしも良くないことや,ギャップがあってもポジティブに捉えていることがあった.この要因には,実際的なリハビリの不足と援助者への情報提供不足が考えられた.作業療法では,対象者や援助者と協働して退院後生活に合わせたプログラムを行い退院後も生活が拡大できるように調整することで,理想的な想定通りの生活に貢献できる可能性が示唆された.
著者
加藤 直志 小島 千枝子 小野 高裕 近藤 重悟
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
no.9, pp.27-38, 2014-03-31

本研究では,"綿チップ押しつぶし" 課題の有用性について検討した.第1実験では,嚥下障害者を含む102 名を対象に"綿チップ押しつぶし" 課題後の綿球のつぶれ具合とJMS 舌圧測定器の最大舌圧の相関分析,回帰分析を行い,綿球のつぶれ具合で舌圧を推測できるかを調べた.第2実験では,健常若年者20 名を対象に,綿チップ押しつぶしを教示に用いた嚥下(MS),Effortful swallow(ES),普通嚥下の舌圧発現様相を比較し,嚥下課題の教示に用いることの有効性を調べた.その結果,第1実験では,舌圧=12.117 + 67.961 ×綿球水分変化量の回帰式が得られ(R2 =0.568),第2実験では,MS はES とほぼ同等に舌圧持続時間と舌圧最大値が高値を示し,さらに,MS では綿チップの押しつぶし課題でターゲットとした部位の舌前方部(Ch1)の舌圧発現が他測定点より有意に早く,Ch1の舌圧持続時間はES より有意に延長した.以上のことから,"綿チップ押しつぶし" 課題は,嚥下訓練において多彩な訓練ツールとして用いることができることが示された.
著者
伊藤 信寿
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.12, pp.79-90, 2017-03-31

今回は, 感覚統合の視点を基盤とした余暇支援を計画し,実施したため,活動中における子どもの行動に特に変化が見られた2 事例について報告する.15 名の発達障害児に対し,3 日間の余暇支援を実施した.内容は,感覚統合を基盤とした活動を計画した.結果は,2 事例においては,JSI-R より前庭覚と固有覚に鈍麻な傾向,触覚に過敏な傾向が推測された.この結果を基に,感覚統合を基盤とした活動を提供したところ,活動中に若干の変化が見られた.また,保護者からのアンケートから,子どもの様子については概ね肯定的なフィードバックであった.さらに,保護者の期待に応えられた活動であったといえる. For this study, leisure support based on sensory integration was planned and implemented. Changes in the child's behavior is reported as seen in two instances during the leisure activity. We conducted a three-day-leisure support program based on sensory integration for 15 children with developmental disorders. The planned activity was based on sensory integration. In cases, the tendency of hyposensitivity, with the vestibular and proprioceptive, and hypersensitivity to tactile sense were inferred from JSI-R. The results demonstrated that some changes were observed during activities when providing activities based on sensory integration. The questionnaire results revealed generally positive feedback from parents about the state of their children. Furthermore, it can be said that the activity fulfilled the expectation of parents.