著者
櫃間 岳 森澤 猛 八木橋 勉
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第126回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.742, 2015 (Released:2015-07-23)

天然更新施業には、林床の稚樹バンク(高密度の稚樹群)形成が重要であることが近年明らかになってきた。稚樹バンクを形成するヒバ稚樹の生態を明らかにするため、樹形と側枝の性質を調べた。 ヒバ稚樹の樹形は、明所では一般的な円錐形、暗所では主軸より側枝の頂端が高く伸びることで形成されるボウル形を示した。ヒバの側枝は比較的暗所でも枯れ上がらず枝下高が低く、樹冠上部まで上向きに湾曲して伸び上がり樹冠上部に葉を保持していた。上向き側枝による展葉様式は、主軸を伸長させずに新葉を保持することにより個体の維持コストを抑制し、耐陰性に寄与していると考えられる。樹冠下部には、ターミナルリーダー(主軸頂端と同様の成長点)を持つ長い枝が多かった。これらの枝は成長速度が小さく、樹冠拡大には寄与していなかったが、接地発根して新たなラメット(同じ遺伝子をもつ幹)を作りやすいと推察される。ヒバ稚樹がもつこれらの特徴は上向き側枝によって成り立ち、稚樹の耐陰性ならびに長寿に貢献していると考えられた。
著者
杉田 久志 岩本 宏二郎 森澤 猛
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.81-89, 2008-06

御嶽山南東面の密なチマキザサ林床をもつコメツガ、トウヒ、シラビソ、オオシラビソの混交した亜高山帯針葉樹林において、50m×50mの調査プロットを設置し、林分構造と8年間の動態を解析した。林冠層は隙間が多く、その面積比率は32%であった。シラビソとオオシラビソはL字型の胸高直径階分布を示し、コメツガとトウヒは一山型の林冠木集団とL字型の被陰木集団とが分離する分布を示した。コメツガとトウヒは根返りマウンドや根張り上で定着したもの、あるいはタコ足形態のものが多く、地表で定着したものはほとんどなかった。シラビソとオオシラビソは地表で定着したものが比較的多くみられたが、その割合はシラビソで15%、オオシラビソで35%にすぎず、大半は根返りマウンド、根張り、岩の上に定着したもの、あるいはタコ足状形態のものであった。モミ属樹種の定着場所が地表以外の基質に偏ることは、密なチマキザサによる地表での定着阻害が林分構造に影響していることを示唆する。1998~2006年の林分全体の死亡率、加入率(胸高直径5cm以上)、胸高断面積の減少率、増加率はそれぞれ0.60%/年、1.44%/年、0.91%/年、0.96%/年であった。樹種別にみると、トウヒのみで死亡率・減少率が加入率・増加率を上回り、その他の樹種は逆の関係を示した。
著者
酒井 寿夫 森澤 猛 仙石 鐵也
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.21-27, 2003-06-25
被引用文献数
2

長野県の御岳山(標高2,120m)で降水および降雪のpH,ECと溶存成分濃度を測定した。7年間のpH,ECの加重平均値はそれぞれ5.04,5.7μS/cmであった。溶存成分濃度は他の山岳地域と比較して低いレベルにあった。降雪期(12〜3月)におけるECは降雨期(6〜10月)に比べて高かったが,これはすべての溶存成分の濃度が12〜1月に高いためであった。御岳において,降雨期と降雪期の溶存成分濃度を比較すると,海塩起源の比率が高いと考えられるNa^+,K^+,Ca^<2+>,Mg^<2+>,Cl^-,ss-SO_4^<2->のそれぞれの濃度は降雪期の方が明らかに高かった。一方,非海塩起源のNH_4^+,NO_3^-,nss-SO_4^<2->の濃度も高い傾向にあった。したがって,降雪期における溶存成分濃度の増加は,海塩とそれ以外のものを起源とする複合的な要因によるものと推定された。降雪期にNa^+,K^+,Ca^<2+>,Mg^<2+>,Cl^-,ss-SO_4^<2->の濃度が高い傾向は、比較した5つの観測地点(輪島,八方尾根,立山,犬山,名古屋)でも見られた。しかし,御岳におけるこれらの成分の濃度比(降雪期/降雨期)は、日本海側の輪島,八方尾根,立山ほど高くなく,太平洋側の犬山,名古屋と同程度であった。一方,御岳ではNH_4^+,NO_3^-,nss-SO_4^<2->の濃度比(降雪期/降雨期)も高くなっており,同じ傾向が日本海側の輪島と八方尾根で明らかに見られた。御岳における降雪期のNH_4^+,NO_3^-,nss-SO_4^<2->濃度増加は,藤田ら(2001)が西日本で観測した現象(降水中のnss-Ca,NH_4^+,NO_3^-,nss-SO_4^<2->濃度が10〜3月に濃度が高くなる現象)と非常に似ていた。