著者
植田 嘉好子 三上 史哲 松本 優作 杉本 明生 末光 茂 笹川 拓也
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.47-59, 2020

人工呼吸器や経管栄養等の医療的ケアを日常的に必要とする子どもは「医療的ケア児」と呼ばれ, この10年でおよそ2倍に増加し,全国に約2万人いると推計される.医療的ケア児の保育ニーズの高まりから,国や地方自治体は保育所への看護師配置等の支援体制を整えつつあるが,実際の保育所受入れは全国で329か所,366人に留まる(2017年度).そこで本研究では,保育所での受入れの条件やそれを支えるシステムの検討を目的に,医療的ケア児と家族へのインクルーシブな支援の実際と課題を明らかにした.2件のケーススタディの結果,医療的ケア児の保育所受入れには,看護師の配置等の制度的課題だけでなく,健常児も含めた多様なニーズにいかに対応するかという保育実践上の課題が見出された.一方で,クラスでは園児らが自然と医療的ケア児に関わり,医療的ケア児自身も集団生活の中で自立心や所属感,社会性が芽生えており,互いの違いを認め合いながら成長・発達していくインクルーシブ保育の成果も確認された.同時に,保育所の利用によって,保護者への子育て支援と就労を通した社会参加とが実現されており,このようなインクルーシブな支援には,医療的ケア児に関わる諸機関(病児保育室や相談支援事業所等)との形式的でない有機的な連携が重要であった.しかし現実には,医療機関でない保育所という施設で医療的ケアを安心・安全に提供することの負担やリスクは少なくなく,医療事故に対する補償制度等を国が整備していくことも今後必要と考えられる.